第390話 合わせ鏡の向こう
翌朝、早々にバドンたちがやってきた。
さっそく、昨日の件を話した・・・拠点のみんなにも一緒に。
「なるほどな。であれば、今回の事件の犯人はほぼ判明したも同然だ」
「確かにそうなんだが、まだわからないことがある。あの鏡がなぜ現れて、なぜ人を吸い込んでいるのか・・・」
「その答えは、もう出ている。というか、俺がここに来たのはそれを持ってきたとも言えるな」
詳しく聞いたところ、「イリーナと一緒に、家に残されていた記録を調べまくったら、面白いことがわかったんだ」とのことだ。
「まず、この村の成り立ちについてだが。
結論から言うと、やはり元々このリフォン村はある盗賊の一団が建てたもののようだ。
昨日地下で見たあの絵は、キョウラの言っていた通り遺跡荒らし・・・もといかつてこの村を建てた盗賊たちを描いたものだった。
盗賊たちは、かつてある遺跡から宝をありったけ盗み出し、それを売っぱらった金で家を建て、村を作った。それが、このリフォン村だ」
そしてあの絵は、そのような村の成り立ちを良く思わない者が、後世にそれを伝えるために残したものではないか、とのことだ。
ここまでは、キョウラの予想は完璧だった。
「事件に関してはここからだ。
どうも、この村が建っている場所には、元々遺跡があったようだ。その遺跡こそが、さっき俺たちが見てきた遺跡。そして、この村を建てた盗賊たちが荒らした遺跡だ。
あれは、奴らが中をひとしきり荒らした後に、破壊して埋め立てた跡だったんだ」
「荒らした遺跡をきれいに埋めて、その上に村を建てたと?」
「ああ。そして、かつてあの遺跡にどのようなものがあったかが記録された文献も見つけることができた。
それでな、ちょうど俺たちがさっき行ったあの部屋には、多くの宝があった。そしてその壁には、縁が銅、銀、金の姿見が1枚ずつはめこまれていたそうだ」
「あ、やっぱり金もあったのか。で、金だけ抜き取ったのか?」
「金が一番価値がありそうだと思ったんだろう。だが、どうも鏡を抜き取った奴は、それを売らずに家に置いていたようでな。
どういう意図があったのかはわからないが、この村に住むようになったあとも、家の中に飾っていたそうだ」
「それで、その鏡はどうなったんだ?」
「その家は後に取り壊され、建て直された。だが、鏡は行方不明になってしまった。
おそらく、建物と一緒に壊してしまったか、捨ててしまったかしたのだろう」
「その鏡が、昨日現れたのと同じだってか?」
輝はよく覚えていないらしいが、俺は明確に覚えている。
昨日現れたのは、四角い金縁の姿見だった。
バドンは真剣な顔をした。
「実はな・・・今日、夢を見たんだ。
近所に住む子供の背後に、怪しく光る姿見が現れて子供を吸い込むというものだった。そして今思えば、その姿見は金縁だった」
それで、はっとした。
「でも、それってあくまで普通の鏡なんだろ?そんな、異形みたいに動き出すとか、化けて出てくるとかなんてことあるのか?」
すると、ラウダスがあり得ない話でもない、と言ってきた。
「『付喪』と言ってね。杜撰に扱われたり、誰かの強い思いがこめられたりしたものが魂を宿し、物質系の異形となって人を襲う・・・ということは、昔からあるんだ」
なるほど、要は付喪神ってやつか。
それなら、ピンとくる。
「ああ、付喪か・・・それなら、ちょくちょく見たことあるぜ」
輝は急に元気に話しだした。
「てか、昨日のあれってよく考えると、『合わせ鏡』だよな。何かと良くない噂があるやつだ」
合わせ鏡の都市伝説というか、噂は俺も聞いたことがある。
13番目に変なものが映るだとか、悪魔の通り道になるだとか。
ラウダスによると、この世界では合わせ鏡は噂でも何でもなく、本当に危険なものらしい。
「鏡は、もともとそれ自体が闇の力を宿しているんだが、それを向かい合わせると、力が爆発的に増幅される。
そこに闇に属する者、例えば僕のような祈祷師や異形・・・といった者がいれば、一時的に大きく力が膨れ上がる」
と、ここでキョウラが部屋にやってきた。
実は、彼女にはあることを調べてもらっていた。
「姜芽様、調べてきました」
「ああ。どうだった?」
「姜芽様の仰った通り、人が消えた家にはいずれも大きな鏡が置かれていました。
そしてそのすべてに、洗面所の鏡と同様、異形の魔力の痕跡が残っていました。そう遠くない過去に、あれらの鏡の前に何かの異形が現れたことは確かです」
彼女は魔力の痕跡を視認できる。
こういう時は便利だ。
「そうか。ありがとな。
・・・ってことは、やっぱりそういうことっぽいな」
「消えた人達は、あの鏡の化け物に吸い込まれたんだな・・・誰かが鏡の前に立った時に現れて、合わせ鏡の状態になり、映ってる相手を吸い込む、って寸法なんだろう」
「しかし、なぜそのようなことを?」
「それはわからない。でも、付喪の異形は総じて何かに強い恨みを持っている。村の人を全員吸い込んで、消し去るのが目的なのかもしれない」
「・・・!」
キョウラは目を見開き、武者震いのように震えた。
「となると、村の者には鏡に映らないよう注意喚起をする必要があるな。
そして俺たちは、別の仕事をせねばならん」
「別の仕事?」
「ああ」
バドンは、鏡に吸い込まれた者たちをどうやって助け出すのか?という、忘れていたが重要な話題を切り出した。
「異形を倒して、それで全員が無事に帰ってくるならいいが・・・そう簡単に行かないとしたら、別途で策を練る必要がある。
一度家に戻る。イリーナと一緒に、村の者たちに鏡に注意するように伝えてくる。俺がここに戻ってくるまで、みんなも考えていてくれ」
そうして、バドンは去っていった。




