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第33話 白紙の司祭

俺達はゼスルの町外れに馬車を停めて夜を明かした。

そして翌朝…



「みんな!来てくれ!」

タッドの声が響く。

それは馬車の外からだった。


「なんだよ、こんな朝っぱらから…」

昨日なぜか寝付けず、だいぶ遅く寝てしまったもので、まだ眠い。

寝ぼけ眼をこすりながら起き出したのだが、

「人が倒れてるんだ!」

との台詞を聞いて、パチっと目が覚めた。



外に出ると、タッドが立っているそばに誰かが倒れていた。

それは真っ白い…ローブ?をまとった人間…いや、異人だった。

その姿は何となくキョウラに似ている。

近くに寄って見てみると、若い女だった。

キョウラと同じ、茶髪できれいな顔だった…一目で美人だと言えるほど。


「人が倒れてるって?」

キョウラと樹が出てきた。


「ああ。なんかキョウラに似てるな…って思ってな」


「マジか!よし!」

キョウラに似てる、と聞いた途端、樹はダッシュしてきた。

そして顔を覗き込み、

「おぉー、こりゃ大層な美人さんだな。よし、すぐに運びこもう!」


「あ、ああ…」

そうして俺と樹で持ち上げようとした時、キョウラが待ったをかけた。

「待ってください。この格好からすると…この方は、恐らくサンライトの司祭様です」


「サンライトの司祭?」


「はい…それも、かなり高位の…」


「なんでそんなことわかるんだ?」


「この方の帽子を見てください」

キョウラの指す通り女の帽子を見てみると、白地に赤で何かの紋章が描かれている。

「この紋章は、サンライト大神殿の正式な司祭の証です。そして色は神殿内における地位を表していて、下から緑、青、黄、橙、紫、赤となっています」


「つまり、こいつはかなり位の高い司祭だと?」


「はい。もしかしたら…っ!」

突然、キョウラは目を見開き、口を開けて引き下がった。

「どうした?」

俺も女をよく見て、そして気づいた。


「…あっ!」

女の手には、おびただしい傷がついていたのだ。

というか、顔にも血がついているし、服もボロボロだ。


「こいつ、ケガしてるじゃんか…!」


「この方、もしかしたら大司祭様の直属の方かもしれません!すぐに手当てを!」




そうして女を馬車に連れ込み、ナフィーに手伝ってもらってキョウラが手当てをした。

どうやら全身に傷を負っていたらしく、2人が服を脱がせて部屋で治療した。

当たり前だが、俺達は部屋の外で待機した。

樹と煌汰は、残念そうだったが。

それにしても、キョウラが普通に消毒液とかの薬品を使って治療にあたっていたのには疑問を感じた。

なぜ、魔法を使わないのだろうか。


と、部屋の扉が開き、キョウラが出てきた。

「どうだ…?」

俺は、彼女に聞いてみた。

「全身にひどい傷を負っていましたが、どうにか助けられそうです。しかし、一体何があったのでしょうか…。司祭は私達修道士の最上位種族、そう簡単には倒れないはずなのですが…」


「そうだよな…ひょっとしたら、何かとんでもないことがあったのかもしれないな」

樹が腕を組んだ。

「とんでもないこと…?」


「例えば、サンライトの神殿に無茶苦茶強い異形が襲ってきた…とか」


「いや、それはないと思う。司祭って、ものすごく強い種族だって言うし…」

煌汰が言った。

「私もそう思います。司祭は、修道士の中でも特に長い年月を生き、莫大な魔力を得た者だけがなれる種族。並大抵のことで倒れるとは…」


と、部屋の中からナフィーの声がした。

「みんな、入って。起きたよ!」

それを聞いて樹がすぐに部屋に突っ込もうとしたので、俺が腕を掴んで止めた。

「大丈夫です…さあ、入りましょう」


部屋に入ると、女は上半身や腕、顔などあちこちに包帯を巻き、身を起こしていた。

「よかった、無事だったんだな」


「…ここは?」


「俺達の馬車だ。外で倒れてるのを見つけて、ここに運び込んで女の子2人に治療をさせてたんだ」


「そうでしたか…助けていただきありがとうございます。私は、…」

女は、そこで黙った。

「ん?」


「…申し訳ありません。私、何があったのか思い出せません…」


「え…?」

記憶喪失か。

まあそりゃこんなケガをするような経験をしたんだ、そうなってても仕方あるまい。

「記憶がないのですか?」


「はい…なぜここにいるのか、自分が何者なのか…全く、わかりません」


「マジか…あれ、でもキョウラの話だと、高位のサンライトの司祭なんだろ?」


「そうです…勝手ながら私は、あなたのその格好から、サンライトの高位の司祭様とお見受けしたのですが…」

女は顎に手を当てて考え、でもやはりわからないという顔をした。


「本当に何も覚えてないのか…じゃ、名前もわかんないか」


「名前…」

女は少し考え込み、あっ、と言った。

「思い出しました!私は、苺…それが、私の名前です!」


「苺?」

すごいファンシーな名前だ。

もしかして、甘いもの好きだったのだろうか。


「はい…確か、私は以前そう名乗っていました!」


「ふーむ…苺、ねえ…」

樹は考え込み、キョウラに尋ねた。

「なあ、キョウラ。苺なんて名前の司祭、知ってるか?」


「いえ…私の知る限り、サンライトにそのような名前の司祭様はいなかったかと…」


「そうか…」

樹は、女をまじまじと見た。

変な意味はないのかもしれないが、イメージ故かやらしい目で見てるように思えてしまう。


「ですが、この方の衣服は間違いなく本物です。私が知らないだけで、サンライトの司祭様だったのかもしれません…」


「サンライト…」

女…苺は、また考え込んだ。

そして、口を開いた。

「ごめんなさい、その名前も思い出せません」


「ありゃ…」

煌汰が残念そうに言った。


「ですが、種族が司祭だった事は覚えています。私は司祭苺…それだけは、記憶が残っています」


「そうか。じゃあんたは司祭の苺、って事だな?」


「はい。っ…!」

苺は左胸を押さえる。


「大丈夫ですか!?」


「ええ…ちょっと痛みが走っただけです。それより、改めて助けて下さった事にお礼を申し上げます。ありがとうございます」

痛いだろうに、胸から手を離して頭を下げて礼をしてきた事から、礼儀正しい人なんだなと思った。

やっぱり、本物の高位の司祭っぽい。

「いやいや…」


と、その時、部屋に柳助が駆け込んできた。

「ここにいたかお前ら!」


「柳助か。どうした?」


「砂漠を通行中だった旅人が、ならず者どもに襲われているらしい!輝達が救助に向かってるが、念の為何人か出向いてくれ!」

俺はすぐに返した。

「わかった、すぐに行こう!」


「僕も行くよ!」


「オレもだ!」

煌汰と樹に続き、ナフィーも名乗りを上げた。

「ならず者が、旅人を…!?」


「あっ、苺様!動いてはダメです!今は安静にしていなくては!」

キョウラが慌てて苺をなだめる。

「よし…それじゃ、キョウラは引き続き苺さんの治療を頼む。俺達は、輝達の援護だ!」


「ああ!」

樹達が飛び出していった後、最後に俺も行こうとした時、

「お待ちください!」

キョウラに呼び止められた。

「どうした!?」


「周知かとは思いますが、砂漠は移動が困難な土地です。姜芽様…くれぐれもお気をつけください!」

俺は、彼女に笑顔で返した。

「ありがとうな。よし…行ってくるぜ!」







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