第379話 リフォン村へ
それからしばらく道なりに進んだ。
砂漠というだけあって地面は分厚い砂の層で覆われており、普通に歩くと足がめり込み、一歩進むだけでも苦労する。
地形を無視して歩けるようになる術を使ってもらったことで、まともに歩けるようになった。
ちなみに今回該当の術を使ってくれたのはラウダスで、詠唱は「ストーク」。
苺たちが使う、同じ効果の白魔法である「ウォーカー」と対になる黒魔法らしい。
ここまで、辺りには砂と大小の岩、サボテン、そして細かい枯れた植物くらいしかない。
いかにも不毛の砂漠という感じだ。
たまに焚き火や荷物があれば、それは近くにサードル旅団がいるという合図。
当然の如く、気づかれれば矢や挑発じみた言葉が飛んでくる。
出てくる際のセリフからするに、奴らはこちらの荷物が欲しいようだ。
アルテトの言っていた通り、相手の持ち物が欲しければ力づくで奪い取ろうという考えなのか。
奴らは、おおむね四人以上のグループで出てくる。
そしてちょくちょく見たが、全員がそれなりの戦いの腕を持っている。
少なくとも、そこらの一介の異人よりは強いだろう。
そりゃ傭兵を名乗るならある程度強くなきゃないんだろうし、複数の技を見せてきたりもする辺り、見事だとは思う。
だが、その実力を見せる時と場合を考えてほしいものだ。
ただの通りすがりの旅人を襲うのでは、そこらの盗賊と変わりない。
そして奴らの中には、珍しい武器を扱う者もいた。
フリスビーのような、投げ輪とでも言うべき投擲武器を投げてくるのだ。
威力はなかなかで、ちょっと掠っただけで髪が切れるくらいだった。
昔、人間界で見たことがある・・・ああいうの、確か「チャクラム」って言うんだっけ。
詳しくは知らないが、とりあえずブーメランなどとは似て非なるものと聞く。
当初は正直目測だけで確証を持てずにいたが、アルテトやラウダスが「チャクラム」とはっきり言っていたので、それで確証を持てた。
ちなみにこのチャクラム持ちは、手持ちを投げても魔力ですぐに新しいチャクラムを手に出す。
なので、弾切れは期待できない。
また、近づけば近づいたで直接切りつけてくる。リーチが特別長いわけではないが、少しでも距離を離すと投げられる。
ただまあ、結界を張れば簡単に防げることに気づいたので、結果的にそこまで苦戦はしなかった。
倒すと、「負けを・・・認めよう・・・」なんて言って消えた。
周りにいた他の連中は、何も言わずに姿を消した。
最後に捨て台詞を残す奴と残さない奴の違いは、何かあるのだろうか。
そんなこんなでしばらく進むと、周りを高い岩に囲まれた洞窟のようなところにやってきた。
日陰になっていて直射日光が当たらず、そよそよと優しい風が吹いているので涼しい。
さっきまで、ナフィーとタッドの兄妹はやたらと暑がっていたが、この洞窟エリアに来てからはおとなしくなった。
「もうすぐだよね?」
「そのはずだ」
そんな会話をしながら右にカーブする道を進むと、村が見えた。
見たところ、逆三角形の奇妙な形をした大岩の周りの、日陰になっているところに家が集まっている村、という感じだ。
「お、見えた。あれがリフォン村だ」
「日陰の村みたいだな・・・よかった。まあオアシスの近くだったら、もっと良かっ・・・」
その時、何かが高速で突っ込んできた。
間一髪で回避してどうにか焦点を当てると、それは青い甲冑をまとった異人のようだった。
顔を上げることもなく、地面を叩いて衝撃波を起こし、岩を隆起させてくる。
よくわからないが、攻撃されたからには黙っていられない。
ジャンプして躱しつつ魔弾を放った。
アルテトも、呼応するように雷の矢を放った。
向こうは結界を張ってそれを防ぎ、手にした長柄の武器を振るってくる。
それは、棍のようだった。
ぐるりぐるりと俊敏に回転してやってきた攻撃を躱して交戦していると、横からナフィーが水魔法を放った。
上から滝のような水を叩きつけるというもので、相手を攻撃した。
すると、そいつはナフィーを狙ってきた。
急速に距離を詰めて棍を振り上げたが、ナフィーは上体を動かしてそれを躱して見せた。
「[突き払い]!」
ナフィーが技名を叫び、槍を突き出しつつ一回転する。
すると、なんと向こうのつけていた甲冑にヒビが入り、そのまま砕け散った。
そして、その素顔があらわとなった。
それは、白い目をした青年だった。
彼は素顔がこちらに知れても尚、表情を変えずに向かってくる。
その動きは、さっきまでの傭兵たちとは明らかに別格であった。
しかし、その猛攻は長くは続かなかった。
ラウダスの魔法により、彼の体は黒い球体に閉じ込められ、その場で浮き上がった。
「・・・これ以上、無用の争いをさせないでくれるかな。
僕らは、この村を襲いに来たわけじゃない。ひとまず、話をしよう」
向こうは何か言ってるようだったが、聞き取れなかった。
ただ、ラウダスの魔法が消えても、もう襲ってくることはなかった。




