第378話 旧砂漠へ
しばらく町のあちこちを回ったのだが、次にどうすべきかの判断材料になるような情報が出てこなかった。
なので、拠点に戻ってナイアに助けを求めた。
「ちょっと待ってね・・・」
ナイアは目を閉じ、2分ほど「託宣」を受けた。
「アンベル村の男を唆した魔女の追跡。まずそれが、これからのメインの目標。だけど、どうもそう簡単にはいかないみたい。
まずは、砂漠に入って一番近くの村に行こう。話はそこからだ」
ここで地図を見ると、ストリートを通り抜けてしばらく道なりに進み、やや南西に行くと「リフォン村」という村があるらしい。
ここのことを言っているのだろう。
「村の近くまで来ると道が出てくる。ただ、その道に乗るまでは砂漠を進むことになる。
狩人とか魔法種族以外、特に砂に足を取られやすい戦士や騎士、あと暑さに弱い海人とか氷使いなんかは、外に出さない方がいい」
一瞬、そもそも拠点から出る必要はあるのか?と思ったが、ナイアは続けた。
「それと、道中には敵がちらほらいる・・・サードル旅団の連中だ。攻撃して来そうだね。
詳しいことはわからないけど、拠点を透明化させてても、近くを通るとバレるっぽい。
なんなら、始めから堂々と突っ込んでいった方がいいかも」
それで、疑問に思った。
「サードル旅団って傭兵だよな?なんで襲ってくるんだ?」
しかし、これにはナイアではなく、アルテトが答えた。
「サードル旅団って言葉はな、密林と砂漠では意味が違うんだ。密林では、単なる傭兵の呼称。でも砂漠だと、サードル旅団ってのは『何らかの砂漠の部族に所属する異人』の総称なんだ」
「つまり、蛮族的な意味合いってことか?」
「まあそんなとこだ。もちろん傭兵もいるけど・・・それでも、よそ者を見ると襲ってくるやつの方が多いな」
やつらの考えは、おれたち殺人者や略奪者に近いものがある・・・と、アルテトは続けた。
「ものが欲しけりゃ、それを持ってる奴をぶん殴って蹴っ飛ばして無理やり奪い取る。それでもし負ければ、自分が奪われる。そういう考えなんだよ、この砂漠のサードル旅団ってのは」
食料と水の補給が終わった後、デザートストリートを発った。
これから向かう場所は環境が過酷なので、食料、水ともにいつもより多めに積み込んだ。
町の奥にある「緑の壁」。
これを越えた先に、ロロッカのおよそ半分を占める「旧砂漠」がある。
「旧」とついているのは、その光景が狙撃手リーエンの時代からさして変わっていないからであるという。
「緑の壁」は、言ってしまえば単なる人工林なのだが、これが砂漠と密林を隔てていると思うと、複雑な気持ちになった。
ちなみに現役の狩人であるタッド、その妹のナフィーはこの壁を越えるのは初めてらしい。
同じく狩人の輝と、「元」狩人のアルテト、それに祈祷師のラウダスは、この先に行ったことがあるそうだ。
彼らは拠点の周りを固める人員に選んだ。
俺も含め、全部で6人。
これだけの人数で固めていれば、大丈夫だろう。
「しかし・・・なんか思ったより暑くないな」
密林と比べて湿気がないからか、まだ暑さはマシなように感じられる・・・と、ラウダスは言った。
俺は火属性だからか、暑さは感じない。
寒さになら、むしろ敏感だが。
「この国の砂漠は、昼間は暑いって言ってもせいぜい30度台だ。あんたの言う通り、湿気がない分だけ密林よりマシだ」
アルテトがそのように回答した。
「ただ、夜は寒いよ。流石にジルドックほどじゃないけど、それでもマイナス10度くらいまでは下がる。
だから、夜はオアシスの水が凍ったりもするんだ。雪が降るようなことはまずないけどね」
輝が補足してくれた。
そうして進んでいると、突如目の前に四人組の傭兵が躍り出た。
「商隊か?それとも冒険家か?」
「どっちでもいいさ。・・・さて?その荷車の中身を、全部置いてってもらおうか」
「おとなしく言う通りにするなら、生きて返してやってもいい。逆らうなら・・・殺す」
男と女が2人ずつ、いずれも斧や槍といった武器を手にしている。
腕に緑のバンダナをしているので、サードル旅団なのだろうが、やってることは完全に山賊だ。
「ああ、さっそく出てきたな」
アルテトは弓を構え、技を出した。
「弓技 [拡散の矢]」
四人全員を撃ち抜いたが、これでは誰も倒れなかった。
「・・・へえ、面白いね。いいよ、遊んであげようじゃないか」
槍持ちの女が、アルテトに突っかかった。
彼は「ボルト・クラスト」という電の術を唱え、女を撃退した。
また、こちらには斧持ちの男が向かってきた。
「喰らいやがれ!」なんて言って「岩砕打」を放ってきたが、楽に躱せる。
むしろ、カウンターで「登り割り」を放ち、続けて「紅蓮割り」を打ち込むと、あっさり退場した。
その際、「訓練・・・不足だったか・・・」なんて言っていた。
斧持ちの女と剣持ちの男もいたが、これらはラウダスたちがやってくれた。
それぞれ、ラウダスの闇魔法と輝の光属性技、ナフィーの水属性技を受けて倒れ、そのまま消えていた。
やはり普通の異人、大したことはないか・・・と思っていたら、最初にアルテトに向かってきた女が立ち上がってきた。
そこでナフィーが「渦潮の槍」の技を繰り出すと、「まったく、無様だね・・・」と言い残して姿を消した。
ふと気になったのだが。
ここまで、敵の異人を倒すとその場で姿を消す、ということが多かった。
さらっと受け入れて気にもとめていなかったが、よく考えれば不思議な現象だ。
一体、どういう原理なのか。
一応ラウダスに聞いたところ、「そういうのは総じて、緊急撤退の魔法を使っている」とのことだった。
「彼らとて、死ぬのは御免被るからね。傷を受け過ぎたら、緊急撤退の魔法を使って家や拠点に戻るんだ。
たまに撤退せず死ぬ者もいるけど、その場合でも消えることがある。この場合は、原理はよくわからない。
でも、とにかく倒したことに変わりはないし、気にすることはないよ。この世に原理のわからないことなんて、ごまんとあるさ」
最後の言葉は、いかにも魔法の研究をしている者という感じだった。




