第374話 命啜るもの
不意打ちを決めると、龍姫は眉をしかめてこちらを見てきた。
「・・・あなたたちも、素敵な勇気がおありですこと。でしたら、私もお答えしなくては」
掌を向け、龍姫は魔法を唱えた。
「[ラヴスファリア]!」
ナイアの胸に奇妙な紋様が浮かび上がったかと思うと、その体から黒っぽい魂の集まりのようなものが抜け出し、龍姫の体に吸い込まれた。
「ナイア!?」
「だ、大丈夫・・・これ、たぶん体力吸収の魔法だよ・・・!」
「体力吸収・・・!」
俺とキョウラは、龍姫を見た。
「相手の命を啜り、己が糧とする・・・これぞ、我が龍族の誉れたる魔法。
私達が、この世界の頂点に立つ存在たる所以でもあります」
龍姫は一度振り返り、背後を突こうとするルファ達に魔法を放って一蹴した後、キョウラを狙ってきた。
キョウラは結界を張ったが、まったく意味がなかった。
「んふふ・・・やはり、若い異人は生命力に満ち溢れておりますわ。
光魔法の種族からというのが、癪に障りますが」
龍姫の傷は癒えていた。
やはり、体力吸収の魔法で間違いないようだ。
・・・大丈夫だと思うが。
あれからしばらく戦っているが、いまだ倒れる気配はない。
こちらにも大きなダメージはないが、それはあくまで体力的な話。
技はともかく術を出したり結界を張ったりするには魔力が必要だが、それが問題だ。
ここまで戦闘を続けて、魔力的にちょっとキツくなってきた。
一応回復する薬はあるので、片っ端から・・・とまでは行かなくとも、あるだけ飲むというつもりで飲んだ。
魔力回復薬は色によって効力が異なり、青、緑、オレンジ、赤の順で回復量が大きくなる。
数値にすると、それぞれ1000、5000、10000、30000回復できるそうだ。
俺の魔力は確か数値で表すと7000だから、5000回復できる緑で十分だ。
しかし、その薬とて無限にあるわけではない。
みな敢えて言葉には出さないが、薬はこれ以上使いたくない。
アイテムの消費が勿体ないのもあるが、隙を晒す時間を増やしたくないのだ。
向こうは相変わらず俊敏でキレのいい動きで、疲れているような様子もないので、少しでも隙を作るとすぐに突かれる。
なんか、戦ってはいるが、その実俺たちが一方的に攻撃されているだけのような感じさえする。
しかし、決して相手の体力を削れていないわけではないし、勝ち目が見えないわけでもない。
龍姫・・・ティファリクと言ったか?
彼女には、こちらの一部の攻撃が効いているように思える。
特にキョウラの術、それと俺の「スコールフラッシュ」は、奴に大いに効いている。
また、さっき新しく閃いた剣技「ライトニングブレイド」は特に効いている?っぽい。
これは、龍姫のあの「剣に赤い光をまとわせ、空中で一回転して叩きつける」技を見て閃いたもの。
掲げた剣に白い光をまとわせ、まっすぐ振り下ろす・・・というシンプルな技だ。
ただ、これは光属性かつ、リーチが異様なほどに長い遠距離攻撃だ。
溜め技というほどチャージ時間も長くなく、威力も十分にある。
横への攻撃範囲が極端に狭いことに目をつぶれば、かなり使える技だと思う。
この技を決めると、龍姫は決まって2、3歩後退する。
そして、その後はもれなく体力吸収を使ってくる。これも確定だ。
この際、キョウラやナイアが狙われる前に俺が彼女らの前に飛び出す。
食らうには食らうが、ダメージはまったくないし、向こうにも回復されている様子はない。
そのことに龍姫は疑問を感じているようだったが、その直後、あるいは同時に俺やナイアの攻撃が飛ぶので首をひねる時間もない。
ただ、その疑問を口に出してはいた。
「バカな・・・!我が龍族の力が、ラヴスファリアが・・・効かないなんて!」
実は、このカラクリはそんな難しいものではない。
以前、龍神からもらった「命のお守り」を、服の中に忍ばせている。
錬金で作られたらしいこれには、即死と体力吸収への耐性の効果があると聞いた。
こんなにすぐ該当の敵が出てくるとは思わなかったが、相手の強力な攻撃を恐れずに突っ込めるというのはかなりありがたい。
幸いにもあの魔法には体力吸収以外の効果はなく、また唱えている間龍姫は完全に棒立ちかつ無防備になるので、無効化できれば単なる反撃のチャンスである。
今もまた、体力吸収魔法を使われたが、もちろん痛くも痒くもない。
むしろ、この隙をついて「ライトニングブレイド」を決めてやった。
龍姫は悲鳴を上げ、大きく後退した。
「っ・・・ここで倒れるわけには。
今回は、負けを認めるとしましょうか」
それでそのままいなくなるのかと思いきや、龍姫は最後とばかりに捨て台詞を残した。
「しかし!あなたたちが長く生きる・・・ましてや竜王様の元に来るなど、あり得ぬこと。仮にあなたが、かつてのあの男のようになれど・・・
いや、その前に、あなたの命を終わらせてやりましょう。たとえ私が成せずとも、他の龍族が、必ずや!」
そうして、龍姫は赤い光をまとい、どこかへ向かって飛び立っていった。




