第373話 傭兵たちの挑戦
俺は盾を構え、そして衝撃を受けた。
炎には、耐性があるはずなのに。
こいつの炎は、こちらの耐性を無視して焼き焦がしてきた。
しかも結構な威力があり、両腕が軽く焦げた。
完全な耐性を持っていれば、該当の攻撃は受けても傷は負わない。
本来当然である筈の理論を覆してくるとは。
耐性無視ってのは、やはり恐ろしい。
「っ・・・」
ナイアは「ブリュムヒルド」と唱え、自身とキョウラの傷を癒した。
回復の技だったようだ。
「完全耐性を無視してくるとはな・・・」
「それが私の炎ですわ。私は火龍の一族。
その血筋に従い、万物を滅する炎を吐く・・・至極当然のことでありましょう?」
確か、こいつはガルフの一族と言っていた。
とすると、一族揃って火の龍なのか。
「さっきのは・・・ブレスか?」
「単なる息吹ではありません。私の力を込めた、強力な息吹です・・・
吐きかける必要もなく、発動している最中は如何なる攻撃も受け付けない、優秀な技にございますわ」
つまり無敵になるということか。
たぶん、さっき技を発動する直前に浮遊してポーズを決めていたあの時、無敵だったということだろう。
「本来は、単なる異人などに見せるような技ではないのですが・・・
あなた方は、竜王様の認めた存在。全力を以て、始末させて下さいませ」
龍姫は再び、剣に赤いオーラをまとわせた。
何度見ても、禍々しい不吉なオーラだ。
ガードできない攻撃が来る。
そう考えると、自然と体が動いた。
その際、俺はロケットのように右の手のひらから炎を噴き出し、左に素早く退避した。
それで思いついた。この方が速く移動できる。
「・・・避けましたか」
龍姫のセリフから、2人も無事回避できたようだ。
「[バニシング]!」
キョウラの声と魔法が飛ぶ。
それはしっかり龍姫に当たった。
すると、龍姫は一瞬仰け反りつつ、キョウラを見た。
「あら、あなたは。・・・よく見れば、その身なりは修道士の。
私達にとっては、何かと憎らしい種族ですわ」
キョウラに飛びかかり、その首を切らんとばかりに攻め立てる。
どうにか止めていたが、力の差があるのか、少しずつ刃が首に近づいていく。
させるかとばかりに剣技を繰り出す。
「剣閃光」という技で、剣を振るってまっすぐに飛ぶ斬撃を放つ新技だ。
物体を貫通するが、元より味方の技は味方には当たらないので、キョウラを傷つける心配はない。
剣閃は龍姫の背中を斬り裂いたが、残念ながらこれで仕留めることはできなかった。
しかし、キョウラを救うことができた。
さらに、そこにナイアも加担する。
奴が振り向く前に、同じく遠距離技を出した。
大剣を振るって斬撃を飛ばす、「衝撃斬」という技らしい。
それも命中したが、やはり龍姫を倒すには至らなかった。
だが、これで完全に奴の注意を引くことができた。
「・・・あなた達も邪魔ですわね。やはり、一気に焼いてしまいましょうか」
奴は再び浮き上がり、炎の龍を上に浮かべた。
この瞬間、俺は両足から炎を噴き出して一気に加速し、ナイアとキョウラを抱えて飛び上がった。
そして空中で静止している龍姫に攻撃しようと思ったが、思えばこの間、こいつは無敵だ。
攻撃は敢えてせず、炎が消えると同時に地面に降り立った。
龍姫は何も言わず、なぎ払うようにブレスを吐いてくる。
それをジャンプや結界で躱すと、すぐに詰めてきて広範囲に剣を振り回す。
今わかったが、これは「溜め斬り」という技だ。
一度斬ったあと、1秒に満たない時間力を溜めてあたりを切り払う技。
他の溜め系技と比べて隙が短く、前後左右だけでなく上下も攻撃できる上、一度前方を斬ってから繰り出すので、追撃としても使える。
技を出し終わった、その隙をついてキョウラが術を放ち、俺が剣を振るう。
大抵は向こうの剣で弾かれてしまうが、それでも時折通る。
定期的に飛んでくるブレスは、結界なり俺が前に出るなりして確実にガードする。
しばらくそれをやってると、また飛び上がってガード不可ブレスを使ってくる。
しかし、これは上から降り注ぐというタイプかつ追尾ではないので、落ちてくるところをしっかり見て位置取りを考えれば避けられる。
無理に上空に飛び立たなくても、地上で位置取りをちゃんとすれば避けられるのだ。
途中で、龍姫はブレスを吐いた。
しかし、それは俺たちだけでなく、360度全方位を回って吐いた。
それで気付いたのだが、龍姫の背後にはあの傭兵たちがいた。
かつて彼女に辛酸を舐めさせられ、俺たちに助けを求めてきた、あの3人が。
・・・そう言えば、彼らのことを忘れていた。
「ここで出てくるなんて・・・やはり、死にたがりの方々でしたのね!」
龍姫は怒ったように言い放ち、剣を頭上で水平に振るった。
2連続攻撃だったが、傭兵たちはなんとか耐えた。
「っ・・・負けるか!」
「あんたにやられっぱなしじゃ・・・うちらの気が済まないんだよ!」
ルファとリリーが食いつくように言い放ち、技を出した。
ルファは「返し斬り」、リリーは氷の刃による連続攻撃の「氷刃連舞」なる技を出した。
さらに残りの1人、モカは「オルビットラーク」を繰り出した。
オルビットラークは熟練技、つまり斧を扱い慣れた者でないとまともな威力を出せない技だ。
それを出してちゃんと傷を負わせられるあたり、モカはそれなりに斧の経験を積んでいるらしい。
龍姫が怯んだのを見て、モカがさらに追撃しようとしたが、ルファに止められた。
その判断は正しかったようで、直後に龍姫は極太のブレスを吐いてきた。
2人をかばったルファが食らったが、彼は黒焦げになりながらも何とか立っていた。
「あら、大した根性ですこと」
龍姫が言っている間に、俺たちは背後を突く。
彼らの勇気と根性は見上げたものだ。だが、些か相手が悪い。
これ以上彼らを傷つけないためにも、俺たちはなるべく速く、こいつを仕留めねば。




