第31.5話 拠点会話・2人の弟
ある日、拠点ことマドゥルーの馬車にて…
「はー、暇だなー。なんかしたいぜ」
騎士ラギルの弟ミロウは、机に突っ伏してうなっていた。
一応騎士ではあるが、性格的には戦士に近い彼にとって、戦いもせずにじっとしているというのは退屈だし、苦痛なのだ。
「ミロウ、どうしたよ?」
そんな彼に話しかけたのは、イルク。
他ならぬ、ミロウの1人目の兄である。
「いやー、何もすることないから暇だなーって思ってよ」
「そうか…なら、久しぶりに例の勝負でもやんねえか?」
「おっ?なんだ、宣戦布告か?」
「今のをそう捉えるか?まあいい…ほら、来るなら来い。この辺には、勝負にもってこいなものがたくさんあるみたいでな。お前の軟弱な剣でも、いけるだろうよ」
「んだとお!?おめえこそ、ムダにカッコつけて槍なんか使いやがって!男なら、外見飾るより中身を磨けよな!」
「ああ!?騎士が槍使って何が悪いってんだ!お前の剣が弱いのは本当じゃねえか!」
「てめ…言いやがったな!?…っしゃ、表出ろや兄貴。今すぐ白黒つけようぜ」
「ああ、望む所よ。今日こそはケリつけてやるぜ!」
そうして、2人は外へ出ていった。
「…」
姜芽は、静かに困惑していた。
「なんか、妙に物騒な会話が聞こえたような…」
数時間後。
「はあ…はあ…」
イルクは槍を立て、額の汗を拭って言った。
「さあ、これでどうだ弟よ!」
彼の前には、その努力の結晶が積み上がっている。
「へへ…こんなもんで勝った気になられちゃあ困るぜ。おれのは…こうだ!」
ミロウもまた、今まで作っていたものを見せつけた。
2人が、勝負として作っていたモノ。それは、『石削り』と呼ばれる彫刻だ。
これは、適当な石や岩を武器を使って自身が扱う武器の形に削ったもので、騎士の間では古くから一種の芸術品として作られてきた。
たとえ同じ人物、同じ武器の使用者によって作られたものであっても、素材とする石材次第でその仕上がりと大きさはまるで違う。
その性質上、器用かつ武器を細部まで観察し理解している者でなければ作れず、また集中力も必要なため、一部の騎士の間ではこれを作ることを競っている者も存在する。
そして、彼ら兄弟もそのうちの1人なのだ。
「どうだ…!今度こそ、兄貴にゃ負けねえぜ!」
ミロウは、近くにあった砂岩を加工して自身の扱う剣そっくりの彫刻を5つ作り上げた。
これまで、彼の石削りは1個を完成させるのに時間がかかるという特徴があった。しかし、今回はいつもより早く削ることができ、3時間ほどで5個の彫刻を作れたのだった。
ミロウの努力の賜物を見たイルクは、息を飲んだ。
「ぬっ…ミロウ、お前この短時間で5つも作れたのか。やるじゃんか」
「だろ?…それに比べて、兄貴のは3つ。こりゃ、おれの勝ちだな!」
「いいや、それはないね」
「はあ!?」
「確かに、おれが作れたのはお前のより少ねえ。けどな、おれのはお前のよりずっと丁寧に作ってあるんだよ!」
「なにをぬかして…っ」
今度は、ミロウが驚いた。
イルクの作った槍の彫刻は、確かに数自体は少ないがとても精巧だった。
大きさも10センチほどで、しかもすべてきれいに大きさや色あい、石の模様を合わせてあった。
対してミロウの彫刻は、大きさは15センチほどから40センチほどとばらつきがあり、色あいも模様もバラバラ。
もちろん彼の努力を否定するわけではないが、これでは誰が見てもイルクの彫刻の方が上手いと言うだろう。
「…」
「こりゃ、どう見てもおれの方が上手くできてるよなあ?」
イルクがミロウの顔を覗き込みながら言うと、ミロウは地団駄を踏んだ。
「…ちくしょう!」
「これで、10勝9敗だ。約束通り、おれの勝ちだな!」
この2人、かなり前から石削りで勝負をしており、先に10勝したほうが勝ち…ということでやってきていたのだ。
「いーや、違うね」
「ああ?なんだ、負け惜しみか?」
「ちげえよ。おれは確かに、今回は負けたかもしれねえ。けどな、前の戦いは兄貴が汚い真似して勝っただろ?」
「はあ?」
「しらばっくれんな。おれは知ってんだ…前の勝負の時、兄貴がおれの武器に細工したことをな!」
「あ、あれはだな!お前の剣の切れ味が落ちてきたっていうから、確かめただけだよ!」
「ウソつけ!あの時、おれの剣に何かしたに違いねえ!だからあの時、妙に彫りづらい思ったんだ…!」
「いや、だからそれはお前が…!」
「とにかく!前のはおれの勝ちだ。だから、兄貴は9勝9敗、おれも9勝9敗。勝負はまだ終わってないぜ!」
「っ…!お前、きたねえぞ…!」
「兄貴にゃ言われたくないね!」
「こ、こいつ…!」
イルクは拳を握り、震えた後にため息をついた。
「…いいぜ。なら、この勝負はもうやめだ」
「ほえ?なんだ、辞退するってか?」
「そうじゃない…舞台を変えるだけだ。これからは、この軍でどれだけ戦果を上げられるかで勝負しようじゃねえか!」
「…そうか、そいつはいいぜ、乗った!」
「そうくると思ったよ。…今度もおれは負けねえ。弟に負けるわけにゃいかねえからな!」
「そりゃこっちのセリフだ。いつまでも兄 貴に負けてられっか!おれは兄貴たちの劣化版とかじゃねえって、証明してやるぜ!」
「おもしれえ、やってみてもらおうじゃんか!」
「…やっぱりあの2人、危険だな…」
またも彼らの会話を目撃した姜芽は、そう思った。




