第360話 悲願成就
輝の奥義「インジェクション・オーラ」が、ハメが始まってから数えた回数にして10回目に決まった。
もはやみんな限界だが、それと同時に拘束が解けた。
そして皆が辺りに散らばり、衝撃波の被弾を避けた・・・まだジエルは生きている。
「ウソだろ・・・!?」
アーツでなくとも、これでも倒れないことにはさすがに驚きと絶望を隠せない。
そして奴と共に吹き飛ばしをくらい、背中をしたたか打ち付けた。
軽減されているとはいえ、なかなか痛い。
自動で回復するにしても、傷は受けないに越したことはない。
何より、再び戦線に復帰するのに時間を食ってしまう。
ここまで手ごわい相手だとは。
体力はまだしも、魔力はそろそろ底をついてきた。
これ以上戦い続けるのは、正直に言ってきつい。
攻撃が通ってないようには見えないから、削れてはいるはずなのだが・・・
この上は、早くくたばってくれることを祈りながら戦う他ない。
息を切らしながらアーツが弓を射る。
奴とて、かなり消耗しているのだろう。
もはや、技を出すのも重い負荷としてのしかかるらしい。
だが、ここでためらってはいけない。
遠慮なく強烈な技を連発し、押し切らねば。
「奥義 [暴れ花鳥風月]・・・!」
突き、切り下ろし、切り払い、切り返しと4連続の斬撃を放つ。
いつもなら『血の華を』と決めるところだが、そんな気力はない。
というか近づくだけで、勇気と覚悟が必要だ。
技を出し終えたところで殴られた。
だが、怯むことなく刀を振るい、突き刺した。
負けてたまるかと、無我夢中になって。
その結果、ついにジエルは大きく口を開け、低い唸り声を上げ、真横にまっすぐ倒れた。
「・・・っ!!」
次の瞬間、俺は歓喜の声を上げた。
それは、皆も同じだった。
ようやくだ。ようやく・・・ようやく倒した。
アホみたいに強いボスを、多大な犠牲と時間をかけて、今やっと・・・
「・・・ん?」
奴は、何かを落としていった。
それは、腕につけて戦う武器である「爪」のようだった。
とりあえず拾ったのだが、みんなと合流するや否や吏廻琉に「それを捨てて!」と言われた挙げ句、亜李華の魔法で粉々に破壊された。
どうやら、「絶望の爪」という呪いの武器だったらしい。
装備すると、攻撃力がむしろ下がるという、もはや武器と呼んでいいのかというシロモノだそうだ。
それを聞いて、途方もない虚無感に襲われた。あれだけ苦労して、頑張って倒したボスのドロップが、こんなもん?
俺たちは・・・あいつを何のために倒したんだ?
「はっ・・・?なんのために倒したんだよ、おれたち・・・」
アーツがぼやいた。
「・・・まあ、みんな生きてたんだし、倒せたからいいとしましょう?」
「そうだよ。それに・・・遺跡のお宝は入手できたんだしさ!・・・ね?」
はなとイナにそう言われても、煮え切らない何かを感じずにはいられなかった。
その後、どうにか洞窟の脱出に成功した。
「はあ・・・」
出てきてすぐに、仰向けに大の字になって倒れた。
空を見上げると、もう夜になっていた。
だらしないわね、とはなが呆れた。
「まだ、倒れるには早いんじゃない?」
「知るか・・・ああ、疲れた・・・」
そう言ったのは俺ではなく、横で倒れた猶であった。
輝とアーツも同様に倒れ、亜李華と吏廻琉は倒れはしないまでも、杖に寄りかかった。
とりあえず拠点に戻ろう・・・と思ったが、そんな力も湧かない。
僅かに残っていた魔力で全員の周りを覆う結界を張り、その場で寝た。
せめて家に入ろう・・・などと言ってくる者はいなかった。
言葉にしなかっただけで、みな同様に疲れていたのだろう。
朝起きると、8時を回っていた。
他のみんなはまだ寝ていたので、起きるまで待った・・・のだが、1時間半以上誰も起きなかった。
「おはようございます・・・?」
途中で村人が、様子を見るかのように聞いてきたが、真っ当な返答をする気にはなれなかった。
「・・・」
「いや、あんたら・・・」
俺の代わりに、猶と輝が言った。
「あんたら、マジでやべえとこ住んでっからな!真下に・・・《《大魔王》》住んでるぞ!倒したけど!」
「この洞窟、もう結界かなんかで封印した方がいいよ!・・・もう絶対、誰か入れちゃダメだって!」
他のみんなは、そのようなことは言わなかった。
だが、はなは言いたそうだった。
「村人さん・・・悪いことは言わないから、今後この洞窟に入ろうとする奴が出てきたら、全力で止めてやって。命が惜しかったら、入るなって!」
まあ、遠回しにこの洞窟をもう封印しろと言ってるのかもしれない。
俺には、わからない。
とにかく、一夜寝て過ごしたことで回復はしたし、アンベル村までは戻れそうだ。
早く拠点に戻って、懐かしの仲間の顔を見たい。
そしてついでに美味いものも食って、あったかい風呂に入って・・・あとは、また寝よう。
疲れが取れない時は、すぐにまた寝るに限る。
遺跡での収穫もあるが、それを詳しく調べるのはまあ後でも大丈夫だ。
今は、とにかく休みたい。
休んで、十分に体を回復させたい。
「さあ、みんな。帰りましょう・・・」
吏廻琉を先頭にし、帰路についた。




