第31話 勇人の加護
ミロウがあんな事を言ってたので、ミフィデルまで戻るのは一苦労なんだろうなと思っていたのだが、ラギルがゼスルの町中に向こうにつながるワープ装置があると言い出した。
じゃあそれを使えばいいな、と思ったのだが、輝が馬車が通れるかな、と言い出した。
しかし、ラギルが大丈夫だと言うので、輝も大人しくなった。
そうして、そのワープ装置とやらの前までやってきた。
それは、てっぺんに緑色の球体が浮かんだ変な形の石柱の近くの床に魔法陣のようなものが敷かれている、といういかにもなものだった。
魔法陣は結構大きい。
これなら、馬車を乗せても大丈夫だろう。
俺は、ラギルの方を向いて言った。
「一応確認するが、これに触れればミフィデルに行けるんだよな?」
「ああ」
「よし、行こう」
気づいたらミフィデルの郊外にいた。
俺は馬車から降りて魔法陣に踏み込んだのだが、ワープする瞬間は特に特別な感覚はなかった。
なんというか…ただ、そこに踏み込んだら、次の瞬間には別の場所にいた、というか。
そんな感じだった。
「本当にこれた…」
俺があっけにとられていると、ラギルが不思議そうな顔で聞いてきた。
「貴公は白い人だとお見受けするが、白い世界には、ワープというものがないのか?」
「ワープ…というか魔法自体ないな。フィクションの世界にはあるけど」
「そうか…」
ラギルはきょとんとしていた。
まあ、異世界と人間界とでは、認識が根本的に違うだろうから、仕方ないだろう。
像を取り戻してきた事を町長に話すと、とても喜んでくれた。
「すぐに像を戻しましょう!」と言ってきたが、言われるまでもなくそのつもりである。
台座の前まで来て、像を手に持って気づいた。
…これ、どうやったら元の大きさに戻るんだ?
俺が戸惑ってるのを察したのか、
「像を台座に置けば、元に戻ると思うぞ」
と樹が助言してくれた。
言われるがまま像を台座に置くと、たちまち像は大きくなった。
…いや、元に戻ったと言うべきか。
それは立派な剣を床についた若い男の像だった。
「おお…これこそは勇人アモール様の像…!よかった…本当によかった…!」
町長は何やら喜んでいるが、俺にはよくわからない。
「なあ、町長さん。結局、この像になんの力があるんだ?」
「おや、ご存知ないのですか?」
「ああ…俺は最近転移してきたばっかりなもんでな…」
「なるほど…。でしたら、『異形の戦争』の神話からお話しましょう」
「神話?そこまで行くのか?」
「ええ…勇人アモール様の活躍を語る上で、異形の戦争の神話は欠かせませんからな」
そうして、町長は語りだした。
「この世界には、太古の昔より異形が存在しておりました。そして長い間、異人が奴らを牽制し、人々を守っていました。
しかし、今から数千年前…突如として、異形が著しい進化を遂げました。なんでも、言葉を話したり、知性を持ったりするものが数多く現れたそうです。
そして、それら進化した異形の中で最も強大な力を持っていたのが、ガルディアルと呼ばれる鳥系の異形です。奴は全ての異形の支配者となり、人々の世界への侵攻を始めました。
人々は、異人を先頭として異形の軍勢に立ち向かい、200年に渡る戦争の末、ようやく勝利が見えてきました。
しかし、その時ついに奴が…ガルディアルが、動き出したのです。
ガルディアルは恐るべき強さを持っており、形勢を逆転させたどころか、反対に人類を絶滅寸前まで追い込んでしまったのです。
そんな中に、奴を倒さんとする八人の異人が現れました」
「…それが、八勇者か」
「そうです。彼らはそれぞれ、勇人アモール、魔戦士バレス、霊騎士オレグ、陰陽師イード、反逆者ルーシュ、司祭カトリア、狙撃手リーエン、魔女イーサルミーと名乗ったといいます。
そうして、一人一人が絶大な強さを持ち、かつ優れた友情で結ばれていた彼らは、見事にガルディアルを打ち倒し、世界を…人類を救いました。
全てが終わった後、彼らは大陸の各地に散らばり、それぞれが国を作りました。
そのうち、勇人アモール様がお作りになられたのが、このセドラルの国。そして、そのアモール様を象ったこの像には、アモール様の魔力が宿っていると言われており、防人系の種族の異人が触れると、特別な加護を受けられるのです」
なんか、前にナイアから聞いた話と8割方同じ内容だ。
これなら、わざわざ説明させる必要はなかったかもしれない。
でもまあ、説明してもらって悪いのでリアクションはする。
「そうか…すごいな。あれ、てことは俺も防人だし、加護を受けれるのかな?」
「はい、きっと。象に手を当ててみてください…」
言われるがまま、像に右手を当てる。
何も起きないな…と思った瞬間、何やらとてつもないパワーを感じた。
同時に、脳裏に謎の男の姿がよぎった。
立派な剣を振るい、竜のような怪物に立ち向かう、一人の男の姿が…。
「どうですか?」
「…!なんだ、今のは…。それに、一瞬だけ誰かの姿が見えたような…」
「それが勇人アモール様です。それが見えたということは、やはりあなたは防人…加護を受ける資格がある方であるようです」
「資格…?」
「八勇者の像は大陸の各地にあります。そしてそれぞれに加護の力があるのですが、それを受けられるのは像のモデルとなった八勇者と同系統の種族の異人だけです。
受けられる加護は像によって異なりますが、この勇人アモール様の像の加護は、『勇猛』。
仲間と自身の正義、そして目的のため、どんなに危険な状況でも、どんなに強大な敵を目の前にしても、決して諦めることなく突き進む勇気を授かる事ができます」
俺は、像に当てた自身の右の手のひらをじっと見つめた。
「勇気…か。俺に、あるんだろうか」
「きっと、あります。防人は、みな勇気を持つものですから」
町長の言葉を聞いて、俺は町長の方を見た。
「さ、ご加護も受けられた事だし、次のとこ行こうぜ」
もう少し感傷に浸らせてほしいのだが…猶は、そういう所がわかってない。
「…まあ、そうだな。次は…サンライトだっけ?」
「そうだ」
ラギルが言ってきた。
「だが、今日はもう日が暮れる。速やかにゼスルへ戻り、宿を取ろう」
「その必要はないよ?」
ラギルは輝を見た。
「なぜだ?」
「だって、この馬車は宿…というか、輝達の家みたいなものだもん。ラギルも入ってみればわかるよ!」
「そう…なのか?」
渋々ながらラギルは馬車に乗り込み、そして驚いていた。
まあ、驚かないほうがおかしいような気もするが。
奴の弟達はというと、すでに部屋を作ってくつろいでいた。
兄貴を放っておいてこれか…と思ったが、ラギルは、
「構わない。あいつらは昔からこうだ」
と、諦めたように言っていた。




