第353話 騒ぐな危険
4人が並んで通れるかどうかという幅の通路を、みんなでゆっくりと進んでいく。
突き当たりが見えているので、実際の長さはそこまででもないのだろうが、何しろ状況が状況なので、やたらと長く感じる。
だが同時に、少なからずロマンも感じる。
…そんなこと思ってる場合ではないが。
ゆっくりと足を進めていくと、1つ目の部屋を発見した。
中を覗くと、かまどや石のテーブルらしきものがあった。
いずれもうっすらと汚れを被っている。
放棄されて長い年月が経った、静かな遺跡の一室で眠る古代の遺物…という感じだった。
その中で、かまどには炭が燃やされた後があった。かつては、ここで炭が火の燃料として使われていたのか。
しかし、ここは地底だ。そして炭は言わずもがな、原料は木だ。一体どうやって確保したのだろう。
それは、同様にかまどを見た輝も思ったようだが、曰く「かつて、ここは地上にあったか、今ほど低いところにはなかったのかもしれない」と言っていた。
確かに狩人にしろ探求者にしろ、こんな地底深くで文明を築いて、ろくに日の目を見ずに暮らせるとは考えにくい。
何かの理由で大幅な地盤沈下みたいなのが起きて土地がこのような地底にまで下がり、それがもとで人々が暮らせなくなって滅びたのかもしれない。
まあ、これといった証拠はないが。
その後もちょくちょく部屋を見つけたが、どこにもお宝と呼べるようなものはなかった。
ただ、食器や武器につるはしなどの道具、作りかけの部屋などがあり、確かに昔はここに人が住んでいたということを示す証拠が多数あった。
こういうの、たぶん考古学的には貴重なものだったりするんだよな。うちにいる学者さんのために、いくつか持っていこう。
拾ったハンマーが思いのほか重く、持ち上げた途端に落とし…そうになったが、間一髪でセーフだった。
ハンマーは金属製、そして床は石だ。落とせば大きな音が鳴る。そうなれば、また奴が出てくる。
こんな狭いところであいつに襲われたら、今度こそみんな終わりかねない。
建物の外に出てすぐ、アーツが「財宝を探知できる」探知魔法を使った。
そんなのあるのか…と思ったが、そういや探求者専用の魔法であるんだ。いつだったか、樹が使ってるのを見たことがある。
それは音こそ鳴らないが、結構強力な結界を張って宝を見つけるタイプのようで、薄い青色の結界がドーム状に広がっていく…という演出だった。
これで気づかれないか心配だったが、結界が消えるまで奴が現れなかったところを見ると大丈夫そうだ。
「…そこだ」
アーツは、ここから見て左斜め前の建物を指さした。
再び、足音と振動を立てないようゆっくりと近づく。
その中を覗くと、中央に机や椅子がきれいに並べられ、片隅には台所やベッドらしき寝具、それに壺なんかがある…という、ドラ◯エとかによくあるような部屋だった。
「ここに…宝があるのか?」
「この部屋じゃない。ここの、真下だ」
「真下…?」
床は灰色の石レンガのような建材で出来ており、掘るなんてことは出来そうにない。…つまるところ、どこかに隠し通路とかがあるんだろう。
「探知の結果が、間違ってなければ…」
アーツは部屋の片隅の壺を持ち上げ、動かした。
それを置く際に、ゴトッという音がした…
「…!」
外を見張っていた猶が、「出たぞ!」と合図してきた。
まずい。一回出よう。
この建物には天井がないので、飛び上がって空中で静止、奴が消えるまで待つ。
上から見ていると、心做しか奴は俺たちがいた建物に近づいてきているような気がした。
誰もいない部屋、ただしさっきアーツが壺をいじっていたあたりで腕を軽く振るっていることから、奴は反応した音や振動の発生源となったポイントを狙うようだ。
「…危なかったな」
「ええ…」
そんな会話をしているアーツとイナに、奴の衝撃波が飛んできた。
おそらく声を拾った…というわけではなく、相手を捕捉できなかったが為に乱射したのがたまたま当たったのだろうが、それでも被弾した際の反応まで感知されなかったのは幸いだ。
その後、奴がまた潜っていくまで誰も喋らなかった。
「…危ないとこだった」
「ちょっと声大きかったか。…油断してたぜ」
そんな2人に、吏廻琉が釘を刺すように言った。
「この遺跡は、騒ぐな危険…ね」
ふと、輝があることに気づいた。
それは、奴…ジエルが現れる場所に関する共通点だ。
この辺りの地面を構成する岩盤は基本白いのだが、一部黄色くなっているところがあり、それが何箇所もある。
そして、ジエルはそこから現れているのだという。
「あいつが出てくるのを何回か見てて、ふと思ったんだ。さっきアーツがあいつを召喚した時も、あの黄色いところから出てきてた。消える時も、あの辺りで潜っていった…!」
ということは、あの黄色くなっているところから現れる…つまり、それ以外のところからは現れない、ということか。
「確証はないけど…可能性はあるわね。とすると、あの黄色いところの近くでは絶対に音を立てないようにすれば、大丈夫なのかしら」
「そうだと思いたいな。…いや、そうしてみよう」
というわけで、調べかけの家の中へ舞い戻る。
さっきアーツが壺をどかしたところには、モロな隠し階段があった。
音を立てないよう、そして振動を出さないよう、盗人のように忍び足で歩く。
…最も、俺は元より盗人みたいなものだが。




