第345話 とりあえずの人探し
姜芽たちが川に飛び込んでいったあと、こちらは適当に時間を潰すことにした。
怪しい奴の足跡を追う…という話だったので、彼らが帰ってくるまで数日はかかるだろう、という苺の見解を受け、途方もない退屈感が湧いてきた。
暇というのは幸せなことだが、退屈なのは耐えられない。そもそも殺人者にとって、じっとしているとか何もしないでいるというのは苦痛であるものだ。
なので、昼前にはアーツに尋ねた…何か面白いことはないかと。
すると、1つの話を聞き出せた。
「このロロッカの密林地帯の地下のどこかに、古代の遺跡があるって話がある。それは八勇者の時代よりずっと前に存在した文明の栄えた跡で、当時の文明で生み出され、今ではもう再現できない技術…『ロストテクノロジー』の塊とも言えるものが色々眠ってるんだそうだ。ただ、そこには今はジエルって言う、恐ろしく凶暴な異形が住み着いてて、入るのは命がけになるらしい…」
話を聞いて、心が震えた。
古代遺跡にロストテクノロジー。途轍もないロマンを感じる。
探求者ではないが、こういう冒険チックな話は大好きだ。
だから、ナイアに尋ねた…この国の地下のどこかに眠る古代遺跡に、行くための手段。それに、繋がるヒントはないかと。
すると、驚きの答えが返ってきた。
「心配しないで。もう間もなく来る…ヒントどころか、そのものズバリな話がね」
と、いうことは…?
期待ができそうだ。
それから2時間もしないうちに、アルテトがある話を持ってきた。
それは村の人からの依頼で、外で遊んでいた2人の子供のうち妹のほうが帰ってこないので探してほしい…というもの。
無事に帰ってきた兄の話によると、2人は元々村の外の東側で遊んでいたらしいので、いるとしたらそのあたりであろう…と思って探したがいなかった。その後村の周りを徹底的に探してみても、妹の姿はなかった。
家に帰ってもいないので、いよいよ心配になり、両親に事情を説明した…ということなのだそうだ。
まあ、たまにある話ではあると思う。
しかし、その兄が何歳かはわからないが、おそらく妹ともどもまだ幼いだろう。そんな子供が、村とその周辺のどこにもいない…つまり村の外に出て、しかもそれなりの遠くまで行った、というのは不自然さを感じる。
…1人で、とは限らない。
何者かに連れ去られた可能性もある。
いずれにせよ、そういうことなら協力しないわけにはいかない。
とはいえヒントが全くないと厳しいので、ナイアに助けを乞うたところ、「東の村」というキーワードを聞き出せた。
そして地図を見たところ、ちょうどこのアンベル村の東にはスバリ村という村があるらしい。
というわけで、俺たちは早々にそのスバリ村とやらへ向かうことになった。
ちなみにメンバーは俺の他に猶、苺、ナイアの4人で固める。
人探しならそんな時間はかからないだろうし、ナイアもそこに関して特に何も言っていなかった。
多少は苦労するかもしれないが、それはそれでいい暇つぶしになるだろう。
スバリ村までの距離はざっと2キロほど。
密林の中を進むことを考えるとちょっと長いが、猶の能力とナイアの術で空から行くことでかなり楽に移動できる。
ちなみに俺たちは単独でも飛行は可能だが、魔力を使う。
単体での消費はそんなに重いわけではないが、時間や回数が増えれば当然それだけ消費も嵩むので、トータルで見ると結構重くなる。
なので、このようにノーコスト、あるいはほぼノーコストで飛べるのは地味にありがたい。
しかし、空路も決して楽ではない。空中にも異形がいる。
オレンジ色をした尾の長い鳥こと「ビートバード」、全体的に緑色のツバメ型で、高速で突進してくる「フォレストダイバー」といった、「鳥系」を中心とした異形がいる。
中心とした、というのは他の系統の異形でも空を飛ぶものがいるからだ。
例えば、今出てきた「マーチャ」などは、色といい見た目といいキノコそのものなフォルム通り植物系の異形だが、自在に空を飛ぶことができる。
植物系の異形で上空を自在に飛び回れるものは、この国以外ではあまり見かけない。
もっともあくまで植物なので火には弱いし、そうでなくても飛行系はそうじて電と氷に弱いので、俺が一発術を使えばあらかた一掃できる。
ナイアは鳥の異形が好きらしく、墜ちていく鳥の死骸を見て「なんかもったいない…」と言っていたが、今は食材探索に来たわけではない。
一応は、人探しが目的なのだ。
そうしているうちにスバリ村についた。
さっそく住人に話を聞くと、「知らない女の子が1人でカムシャルの洞窟の方へ行った」という情報を得られた。
そしてそのカムシャルの洞窟は、村の南東の外れに入り口があるというので、すぐに向かった。
すると、その入り口のところにその子がいた。
言葉を発することなく、洞窟の中を見つめて立ち尽くしている。
何かに意識を乗っ取られている可能性を考えたが、ナイアが声をかけると反応し、振り向いた。
「あんた…ミサだよね?何してるの?」
そう言えば、この子はミサという名前なんだ。村でアルテトから聞いたっけ。
人の名前を覚えるのは昔から苦手だ。
「…え?あれ、ここ…どこ?」
女の子は、自分が何をしていたのか覚えていない…というか、しばらく意識が飛んでいたようだった。
結局、この子に何があったのか、なぜここに来ていたのかはよくわからない。
しかし、猶と俺はこの洞窟が気になった。
一見、ただかなり深そうなだけの洞窟…なのだが、何か言葉にならない異様な力を感じる。
もしかして…と思い村の住人に聞いてみたところ、「あの洞窟の奥深くには、遠い昔に栄えた文明の遺跡があるって噂があるんです。ま、とんでもなくおっかない異形が住み着いてるらしいんで、誰も行こうとはしないんですけどね」とのこと。
…ドンピシャだ。
一度村に戻り、メンバーを再編成した上で、また来よう。
そして、洞窟に突入しよう。
俺と猶がそういう話になるまでに、さほど時間はかからなかった。




