第341話 黒水の攻防
キョウラの奥義で、異形は大きく怯んだ。
その隙を突き、皆が一斉に魔弾を放つ。
フォルは風、他はそれぞれのメイン属性の魔弾を飛ばした。
派手なエフェクトが出た後、異形は片手を床につき、3秒後に立ち上がって吠えた。
「光魔の教え…!」
異形の体全体をうっすらと赤い光の膜が包む。
色だけだと、火属性に耐性を得たっぽいが…。
「[ブルースコール]!」
樹が術を唱えたが、異形は水を叩きつけられても平気な顔をしていた。
また、フォルが緑に光る矢を一度に複数放つ技を出し、そのすべてが命中したが、やはり異形はさしたる反応を見せなかった。
とどめに、キョウラが「バニシング」、光の術を唱えても怯むどころか仰け反りもしなかった。
さっきは光属性の彼女の奥義で怯んでいたので、元々耐性があったという可能性は無い。
となると、考えられるのは全属性に耐性をつけたということ。
具体的にどのくらい軽減されるのかはわからないが、少なくとも光に関しては半減くらいはされるだろう。
そして、他の属性もおそらく同じくらいだ。
リトが薙刀を振るってその胸を切り裂く。すると、向こうは再びバインドを使う。
わかってはいるのだが、どうしても食らってしまう。
その隙に攻撃してくることがないのが幸いか。
と、突如樹が術を唱えた。
「[クールソウル]」
攻撃ではなくバフ系の、月の術のようだが、効果は今ひとつよくわからない。
とりあえず、明らかに何かが変わったという感じはしない。
そして、異形はおかまいなしにブレスを吐いてくる。
今度のは水だ。食らうと痛いので、盾を構えて確実にガードする。
ちなみにもはや言うまでもないが、川に入る時に受けた樹たちの力はとうに消えている。
俺がブレスをガードし終えて盾を下ろしている間に、フォルとリトが技を出していた。
リトはわかるが、フォルは今の平気だったのだろうか。水が弱点でないとしても、まともに受ければそれなりにダメージを受けると思うのだが。
ちなみに、リトの技は「風の車輪」というもので、薙刀を目の前で回して風を起こし、それで攻撃しつつ斬りつけるというもの。
風自体は紛れもない属性攻撃なのでさほど効いてなさそうだが、それでも斬りつけはしっかり効いていたっぽいから問題ないだろう。
樹が「飛翔の刻印」をぶつけると、異形は改めてバインドを放ってきた。しかし、不思議なことに体が固まったりしなかった。
それを不思議に思っていると、リトが説明してくれた。
「さっきの樹さんの術、一時的だけど精神耐性を付与するものなの。だから、バインドを食らっても平気なの!」
精神耐性というのはよくわからないが、とりあえず動きを止められないのはありがたい。
次使ってきたら、その隙に反撃してやろう。
異形はまた大剣を振るってくる…かと思いきや、弓を射ってきた。それはまた何とも大きな、金属製の無骨な弓であった。
とても常人には引けなさそうだが、異形となって得たパワー故のものだろうか。
そしてその弓から飛んでくる技が、フォルや輝が使うものなどよりずっと威力があった。
「三本射ち」は矢自体が太く、ガードしても後退させられたし、「ボディハンティング」に至っては、仮に特効がなかったとしてもまともに食らったら頭を撃ち抜かれそうな速度の矢が飛んできた。
それを見てフォルも同じ技を出し返した。
確か、「ボディハンティング」は異人と怪人系の異形に特効がある技だったから、これは有効であろう。
「がっ…!」
額に矢を受け、異形は血を吐いた。
「お…おのれ…貴様らのような…不良どもは…断じて…許さん…!」
そして、異形は三度バインドを放つ。
しかし、やはりまったく怖くもないし怯みもしない。
予定通り、この隙に反撃する。
「[スカルブレイク]!」
骸骨系…というか骨が剥き出しになっているタイプの敵に有効な技だが、こいつは当然そういうタイプではない。
なのになぜこれを出したのか?答えは簡単、他に思いつかなかったのだ。
どうせ火は耐性で軽減されるし、無属性の技を…と思ったのだが、ぱっと思いついたのがこれだったのである。
異形は驚きつつも、俺がバックするのに合わせてブレスを吐いてきた。
今度のは闇ブレスっぽかったが、さっきのより強力なものだった。
もちろん食らいたくないので、とっさに炎を手から噴き出してホバリングして回避する。
樹たちが食らった?のがチラッと見えたが、すぐに回復するだろうし問題はあるまい。
キョウラはちょっと心配だが。
すぐに確認したが、キョウラは大丈夫だった。ただ、やはり樹たちはブレスを受けたようで、回復を余儀なくされていた。
その間にも大剣で攻撃しようとしてくるので、俺とキョウラが盾と結界で防ぐ。
すると、奴はまた地面から火を噴き上げてきた。
これは俺たちの背後、つまりリトたちの立っていたところから噴き上がったので、確認するまでもなく彼女らは食らってしまっていた。
振り返って、キョウラは焦っていた。どうやら、リトとフォルが火傷を負ったようだ。
フォルはまだしも、リトにとっては本来ほぼ無縁の傷である故、恐怖も苦痛もすごいだろう。
すぐに回復してくれればいい…と言いたいところだが、そうもいくまい。いつまたガードできない攻撃をやってくるかわからない以上、下手に止まるわけにはいかないだろう。
彼らに無理はさせられないので、俺とキョウラが前衛に立って大剣とブレスを躱しながら戦う。
俺はブレスを盾で防ぎながら剣を振るい、キョウラは自身の身の丈ほどもある大剣の斬撃を何とか避けながら技を繰り出す。
近づいたからかやたらブレスばかり使ってくるが、変に距離を取ると弓に持ち替えられる可能性もあるので、体力的にちょっとキツいが無理をしてでも接近戦を仕掛ける。
また、異形は俺たちとやり合いつつもしっかりリトたちの様子を見ているようだった。もし彼女たちが隙を見せれば、すぐに火…あるいは闇の術を使うだろう。
「気をつけろ…そいつは、元々狙撃手だ!」
フォルの言葉は、「弓に持ち替えられないようにしてくれ」ということだろう。
狙撃手は弓の扱いに優れているというだけあり、異形となったこいつも弓の技は強烈だった。だが、言われるまでもない。
やがてブレスを吐きまくって疲れたのか、異形はさっきキョウラにやったような平手打ち風の体術をしてきた。
ほぼ至近で戦っていたこともあり、最初は食らった。
やはり闇属性の攻撃であったが、幸いにもそこまで痛いものではなかった。
「が、学院の恥さらしどもめ…!」
声が若干震えている。もうしばらくダメージを与えれば、倒せるかもしれない。
元狙撃手ということで強力な弓技を出してきたり、ブレスを吐いてきたりバインドを使ってきたりと厄介な相手だが、以前のアスリルと違い、血の契約やガルド状態のような状態異常を付与してこないだけまだやさしいか。
それにしても、一体何があったのだろう。
こいつは「ラムラス1世」と名乗り、自身をラディーネ学院の創設者と語っていた。そのまま捉えると、今の学院長の父親ということになる。
嘘を言っているようには思えないので、本当なんだろうが…何故異形となったのか。
そもそも学院長…もといラムラス2世の話では、彼は150年前に病に倒れた父の後を継いだということだった。そうなると、こいつは異人としてはすでに死んでいることになる。
しかしアンデッドになるならともかく、死んだ異人が異形になるなんてことはあるのか?
少なくとも、自然にそうなることはあるのだろうか?
気にはなるが、今は気にしている時ではない。
キョウラ共々、自身の心の疑問も同時に断ち切らんばかりに剣を振るう。




