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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第318.5話 幼馴染2人の話

村の中を歩いていたセナベルは、ふと懐かしい後ろ姿が見えた…ような気がした。


すぐに駆け寄り、声をかけた。

「ねえ、あなた!」


「んあ?」

その顔を見て、セナベルは歓声をあげた。

「あぁっ…やっぱり!あなた、アルでしょ!?」


「アル…?…ん、おまえひょっとしてセナベルか!?」

元狩人であり、今は殺人鬼となったアルテト。

彼とセナベルは幼馴染なのだ。


「そうだよ!…久しぶり!」


「おま…なんだってこんなとこにいんだ?」


「いや、なんでって…忘れたの?」


「何をだ?」


「ここ、昔私達住んでたじゃん」


「…だっけか」

彼らは元々このアンベル村の出身なのだ。

後にアルテトは村を離れたが、セナベルは故郷を離れず村のガリバーとなったという経緯がある。


「いやいや…普通忘れる?私達、この村が生まれ故郷じゃん」


「悪いな、故郷のことなんてとうに捨てちまったからな」


「まだそんなこと言ってんの…?あんたさ、どうしてそうなの?」


「?」


「なんで自分の故郷とか過去とかになると、捨てたとか知らないとか言うの?」

2人が最後に会ったのはもうずっと昔だが、その時からアルテトはこうであることを、セナベルは覚えていた。

「…おれは道を外れて、誰からも必要とされなくなった異人だ。過去のことを引きずってこんなになったからこそ、もうこれ以上過去を引きずりたくないんだ」


「…わけわかんない。少なくとも私からみれば、あんたは道を外れてなんかないし、必要のない存在なんかじゃない。それに、故郷がどこだとか、過去がどうとかはどうにもなんないじゃん」


「…」

アルテトは、セナベルを険しい目で見た。

彼女の今の言葉、特に後半が間違っているとは思わない。だが。


「な、なに…?なんでそんな怖い目すんの?」


「おまえの言うことが、間違ってるとは思わない。けどな…まあ、おれの気持ちなんかわかんないよな」


「なにその言い方。私たち同族じゃん、わかんないわけないよ」


「…だといいけどな」

彼の対応に、セナベルは腹を立てた。

「もう、何なのよ!言いたいことがあるんなら、ちゃんと言ってよ!」


「言って、どうする?」


「どうするって…まあ大したことはできないかもしれないけど、聞くだけでも何かなるでしょ。私とあんたは、小さい時からの仲じゃない!それくらい、話してくれてもいいでしょ!」


「…わかったよ。そもそもだけど、おれが村の中でも使い物になんない奴だってこと、親にいじめられてたってことは、おまえも知ってるだろ?」


「それは…」

セナベルは、かつてのアルテトが他の狩人から疎まれていたこと、親に虐待されていたことは覚えている。

狩りもろくにできず、不器用で家事やものづくりもできず、やることがことごとく裏目に出る彼は、家族は元より村の狩人達からもいらない子扱いされていたのだ。

そのことは、当時のセナベルもなんとなくわかっていた。


「でも、さすがにそれだけじゃないよね?」


「無論だ。…45年前の冷害を覚えてるか?」


「45年前の…ああ、あれか。もちろん覚えてるよ…」

狩人は3年の命を持つから、45年は人間で言うところの15年にあたる。

ロロッカは1年を通して温暖な気候のため、本来なら農作物始めとした食糧には困らない。だが当時は、ロロッカ全土で気温が記録的に低い日が半年以上も続き、それによって多くの農作物がダメージを受けたことによる冷害が起きたのだ。


「あの時はほんとつらかったなあ…三日くらいろくなもの食べれない、なんて時もザラにあったよね。そう言えば、あの頃にあんたどっかいったよね…あ、もしかして!」

セナベルは昔アルテトと同い年ということもあって、よく遊んでいた仲だったのだが、ある時突然アルテトが彼女の前から姿を消した。

そして、それから二度と村に帰ってくることはなかったのだ。


「ああ、そうだ。おれはあの冷害で、捨てられたんだ…口減らしのためにな」

当時、この村のみならずロロッカ中の村々で口減らしがあったという事実は、セナベルも知っている…あとになって知ったことだが。

しかし、アルテトもその犠牲になった者の1人であるとは思ってもいなかった。


「それで、死んだの…?」

セナベルは殺人者については詳しく知らないが、人間や他の異人だった時に辛い経験をし、悲惨な死に方をした者が殺人者として転生する…という話を聞いたことがあった。


「いや、おれは生きたよ。[迷彩]の異能を使ってな」


「え?あんたの異能って、何かを上手く隠すやつでしょ?何かから隠れてたの?」


「ああ…ゆく先々の、ありとあらゆる奴からな」


「どうして?…そういえば、あんたって何の仕事してたの?」


「なんにも。…そこがミソだ」


「どういうこと?」


「おれは、知っての通り何をやってもダメだ。だから、働く気は毛頭なかった」


「え?それじゃ、どうやって生きてたの?」


「どうだと思う?」


「んー…誰かに養ってもらったとか?」


「んなことできてりゃ、殺人者になんかならねーよ。おれはな…他人からものをかっぱらって生きてたんだ」


「え…?盗賊をやってたってこと?」


「しょうがないだろ?生きるためには、そうするしかなかった。ただでさえ冷害明けで、荒れた世の中だったからな、誰にも助けてもらえる見込みはなかったし。かといって仮に働いてたら、たぶんおれはとうに狂ってたか、自殺してたよ」


「うーん…まあ死ぬよりはいいのかもしれないけど…盗賊になるなんて…」


「おれだって、最初はしたくなかったさ。けど、そうしなきゃ死ぬ。だからやったまでだ。そのうち、なんとも思わなくなったよ」


「でも、見つかるのは嫌だったんでしょ?」


「そりゃな。幸いにもおれには異能があったから、音だけ出さないようにすりゃ堂々と盗めた。そういう意味では、他の奴らより楽に暮らせてたのかもな。で、おれは…必死に毎日を生きてたら、いつの間にか殺人者になってた。だから、死んだわけじゃないんだ」


「へえ…じゃあ、転生じゃない殺人者ってのもいるんだ。でも、ずっと1人でつらくなかった?」


「ああ、だから殺人者の国…ジルドックで、似たような境遇の人たちに会えた時は嬉しかった。あそこではみんなで楽しく暮らせたし、苦しい思いも…まあしなかったわけじゃないが、今までに比べりゃずいぶんましだった」


「あ、あんた、ジルドックにいたの?そりゃ会えるわけないよね…」


「ごめんな。おれだって、正直おまえの顔を見たかったよ。けど…なかなかな」


「私だって、あんたに会いたかったよ。村でたった1人の同い年で、幼馴染だったんだもん…」


「…」

2人は自然と手を取り合い、温かい心持ちで見つめ合った。

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