第27話 騎士の町
タッドは結局ついてくることになった…ナフィーと一緒に。
ナフィーは槍の他に水の魔法を使えるらしく、これは狩人としては珍しいことらしい。
そこで気になったのだが、魔法を使える異人と使えない異人の違いは何なのだろう。
それとなくナフィーに聞いてみたら、単純に適性と努力であるらしい。
異人は元々、誰でも多かれ少なかれ魔法の素質があり、それを目覚めさせるかどうかがカギになるそうだ。
「俺も魔法使いこなせるようになりたいんだけどな…どうすればいいんだろう」
思わず本音をこぼすと、
「大丈夫だよ。お兄さんは魔法にも武器にも才がある。これから先、きっとその才を目覚めさせる事ができる時がくるはずだから」
「ならいいんだけどな」
次の町…ゼスルへは5日ほどかかった。
今までの町と比べると、少し遠かった。
町につく直前になって、煌汰が降りたいと言い出した。
なんでも、同族の町を見て回りたいのだそうだ。
特に止める理由もないので承諾し、タッド、輝、煌汰、俺の組み合わせで町に繰り出した。
町中を見回してみたが、至って普通の町だ。
騎士の町、という事だったが、俺がイメージするような格好…立派な鎧や兜を着込み、何かの紋章が入った盾を持ってる、といった格好の騎士は一人もいない。
それについて煌汰に聞くと、なぜか笑われた。
「いつもそんな堅苦しい格好してるわけないだろ?この世界の騎士は、普段は普通の格好で、他の異人と変わらない生活をしてるよ」
「そうか。まあそう…だよな」
よく考えてみれば、もっともである。
つい忘れていたが、この世界の騎士は「階級」ではなく「種族」なのだ。
しかし、そうなると見た目で判断することが難しい。
パッと見でなんとなく同族でないことはわかるが、それ以上の情報は読み取れない。
煌汰に聞いたら、「うーん…強いて言えば、騎士は槍、剣、斧、大剣を持ってる事が多いかな。あと、基本的にはみんな正規品の武器を持ち歩いてるよ」と言われたが、正直アテにならない。
正規品の武器とか言われてもわからんし。
ただ、大剣というのが何なのかはすぐにわかった。
町中の通行人はみんな武器を背負っているのだが、その中に横幅は10センチほど、長さは身の丈ほどもある剣を背負っているやつがちらほらいたのだ。
正直想像通りの大剣だったので、これにはさほど驚かなかった。
しかし、あんなバカでかい武器を振り回せる腕力には感心する。
柳助のハンマーに負けないくらいでかいのだ、重さも相当なものだろう。
もしかしたら、俺が使ってる「斧」より重く、扱いが難しいかもしれない。
ところで、この町はやたらと暑い。
これまでの町と比べると、明らかに気温が高い。
タッド達も額の汗を拭いていた。
煌汰に聞いたら、「地図を見てなかったの?」と呆れるように言われた。
え?と思ったが、すぐに思い出した。
そうだ、ここは北の国…サンライトとの国境のすぐ近くの町。そしてサンライトは、国土の大半が砂漠に覆われた国。地図で見ていた。
「この町はサンライトとの国境がすくそこにあるからね…当然のように昼間は暑いんだ」
「砂漠か…僕らにはちょっと分が悪いな」
タッドがそうぼやいた。
「え?」
「砂漠は砂に足を取られるから動きづらい。軽装の異人なら楽に動けるんだけどね」
「軽装の異人、というと?」
「それはだな、我々のような者達さ」
突然、誰かに声をかけられた。
そこには、二人組の男がいた。
どちらも、暗い青色の髪に暗い色の瞳をしている。
「誰だ?」
「私はグラーム、そしてこっちはケイズ。我々は、サンライトから来た祈祷師だ」
「祈祷師…!?」
それを聞いて、俺達はすぐに身構えた。
言わずともがな、モトキスの町の青年に勇者の像を盗ませた、張本人だからだ。
「おっと、そんなに警戒されては困る。我々はそなたらにいい話を持ってきたのだ」
「いい話…?」
煌汰がそう言うと、左の男…グラームはそうだ、と頷き、
「実は、我らは今とあるプロジェクトを計画していてな…種族はなんでもいいから、協力者を探しているのだ。そなたら、一つ我らに協力してくれないか?なに、簡単な仕事だ。報酬は当然、弾ませてもらう。…どうだ、話だけでも聞いてくれないか?」
「…」
さながら闇バイトか、詐欺の勧誘である。
だが、ここは一つ…。
「わかった、話を聞かせてもらおう」
「お、おい!」
タッドが焦ったが、俺は顔で「大丈夫だ」と送った。
「感謝する…。それで仕事の内容だが、まずは首都セドラルに行ってほしい」
「セドラルに?」
「そうだ…我らが術で送るから、行き帰りの心配はない。そして向こうに着いたら、王城周辺に建てられた5本の柱の横にこれを置いてほしい」
グラームがそう言うと、ケイズが何やら黒い球体を取り出した。
「これを置いたら、手を叩いて合図してほしい。すぐにこちらに引き戻そう。…以上だ。どうだ?実に簡単な仕事だろう?」
確かに簡単な仕事ではある。
だが、こういう事にこそ深い闇があるものだ。
「なるほど…」
「どうだ?引き受けてくれるか?」
「そうだな…」
俺は腕を組み、考えるふりをした。
「なあ、この仕事、今までにも誰かに協力頼んだりしたのか?」
「ああ、何人かな。いずれにも十分な額の報酬を渡してある。…そうだ、報酬を言っていなかったな。報酬は54万テルンだ…どうだ?真面目に働くより、よほど稼げると思うのだが?」
この世界の月収例はよくわからないが、54万は確かに魅力的な額だ。
人によっては、すぐ承諾してしまうだろう。
だが、俺はそうはいかない。
「私事になっちまうんだが、この前こんなことがあったんだ。
知り合いが突然、大金を貰ったって連絡してきた。なんでも、何だかちょっとした仕事をやったらしい。楽して儲かったって喜んでた。
だけど後になって、なんかめちゃくちゃ後悔してた。話を聞いたら、ミフィデルの町にあった像を盗んだらしい。何でも、ある異人に多額の報酬を積まれてやったそうだ…なんてことをしたんだ、って嘆いてたぜ」
すると、みるみる奴らの目つきが険しくなった。
そして、俺はここで畳み掛ける。
「あいつに勇者の像を盗ませたのはお前らだな?像はどこにある?」
「…ふふ、なるほどな。まさかあの若造の知り合いであったとは…。だが、お前がそれを知る必要はない。知ったところで、どうにもならんのだからな」
そして、祈祷師達はパッと姿を消した。
「…!」
「逃げたか…まあいい。とりあえず聞き込みをしよう」
「聞き込み?それで奴らの居場所がわかるか?」
「ああ。祈祷師は何かと問題を起こしやすい種族でね、要注意種族として認識されてる…もちろん、騎士にもね。奴らはこの町に入った時点で、みんなから監視されてるも同然さ。ちょっと聞き込みをすれば、情報はすぐ手に入る。行こう」
「その必要はない」
背後から声をかけられた。
振り向くと、赤い髪と瞳をした男が立っていた。




