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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第318話 犠牲者

その後、みんなを集めてからかつてここに存在した村の痕跡がないか調べてみたが、やはりというかもはや何もなかった。

あるのは、サードル旅団の連中が作ったであろう建物や人工物ばかり。


「えっと…これはつまりどういうことなんだ?やっぱり、サードル旅団の連中に村が潰されたのか?」


「しかし、彼らはあくまで傭兵ですし、そもそも彼らとて狩人でしょう?罪のない同族の村を滅ぼすなんてこと、仮に仕事だったとしてもするでしょうか…」


「あり得なくはないな。サードル旅団というか、傭兵に情けを乞うほうが無理な相談だ。誰かに破格の報酬を積まれて、やったのかもしれない…」

フォルは言いながら手を強く握り、ブルブルと震えた。

「罪のない人たちを手にかけ、村を潰すなんて…いや、仕事だったのかもしれないけど、これじゃ略奪者と一緒じゃないか…!」


「フォル…」

と、輝が我に返ったように言った。

「てか、ここに疫病の薬がある…って話だったけど、この有様じゃそんな見込みないよね?」

それで、そもそもここに来た経緯を思い出した。

「その情報どっから出てきたの?何となくだけど、結局のところ罠だったような気がするんだけど」


「ここにレヌゥ症候群の薬があるって話は、どこからともなくガリバーの中に伝わってきたんだ。出所がよくわからない情報ではあったんだけど、藁をもつかむ思いで信じた。でもその結果がこれだ…」


「結果的にみんな無事だったんだから、いいだろ。まあ、村のことは…残念だと思うけどな」


「…」

結局、この沼地にあった村はどこかの金持ちにそそのかされたサードル旅団が潰したという結論になった。

ただ、キョウラはどうも納得いってないようで、帰りの道中でずっと顔を曇らせていた。





アンベル村に帰ってくると、なぜか人の気配がなかった。

「ん…?」


「なんか変に静かだな…」

と、横道からセナベルが歩いてくるのが見えた。

「あ、セナベル!」

セナベルはこちらをゆっくりと振り向き、フォルの顔を見るなり血相を変えて走ってきた。

「ま…マスター!ターニアが…ターニアが!」


「どうした?…もしかして、容態が悪化したのか!?」


「それが…マスターたちがいない間に、いきなり苦しみだして…そのまま…」

そこまで言って、セナベルは涙を流した。

その様子からして、何があったのか何となく察した。

「ま、まさか…!?」


「…。とにかく、落ち着いて事情を説明してくれ」


「…うん」

そうして、セナベルは話しだした。


ターニアとは、俺達が始めてこの村に来た時にセナベルが看病していた女の子だ。

ここしばらくはポーションという薬のおかげで容態は安定していたらしいのだが、つい先ほどそれが急変した。

俺達がカルージュ沼へ向かった直後は何ともなかったそうだが、それから2時間ほどして、名前を呼んでも反応しなくなった。

焦ったセナベルは彼女の体を揺すり、幾度もその名を呼んだが、もう答えることはなかった…。


「ついさっきまで、普通に話できてたんだ。いつもありがとうって、笑ってもくれた。なのに…なのに…!」

そしてまた、彼女は涙声を上げた。

セナベルは、もう喋るのは無理そうだ。


「…事情はわかった。彼女は、どこにいるんだ?」


「い、いつもの部屋にいる…ううっ…」


「そうか。それじゃ、ひとまず彼女の元へ行こう」





そうしてターニアのいる部屋へ向かった。

すでに何人かがおり、彼女を囲んでいた。

目を閉じ、微動だにしないところは単に眠っているだけのように見えなくもない。だが寝息を立てず、呼吸もしていない時点で違う。

何より、部屋全体に重苦しい空気が満ちている…。


念の為とフォルが確認を取ったが、やはり呼吸も脈もなかった。

そして、多くの村人がいる前で…フォルははっきりと、「ターニアは死んだ」と告げた。

人々は、セナベルのように号泣する者、涙こそ流さないが悲しむ者、顔に出さずにこらえる者とに分かれた。


「…」

俺達の中で、キョウラは一歩前に出て、ターニアの亡骸の前で目を閉じて手を合わせた。

何をしてるんだ?と思ったが、そう言えば僧侶は死者を弔う役目もあるんだった。

だから多くの町には、最低2人は僧侶がいて、葬式の時に重要な役割を果たすと聞く…。


「皆さん…さぞ無念かと思います。しかし、ここで悲しんでいても仕方がありません。まずは、この子を適切に葬ってあげましょう」

キョウラがそう言うと、人々はさらに嘆き悲しんだ。


「えっ…えっ…?」

その様子には、キョウラも驚いていた。


「キョウラさん…」

フォルが申し訳なさそうに言った。

「気持ちはありがたいんだけど、残念ながらレヌゥ症候群で亡くなった遺体は、どうやっても葬ることができないんだ」


「どういうことですか?」


「レヌゥ症候群が原因で命を落とした者の遺体は、岩のようだと表現されるほどに硬くて、火に耐性がある。だから、解体することも火葬することも満足にできない」


「えっ、それでは…」


「そのまま土に埋めるしかない。…ちゃんとした葬儀ができないのは辛いけど、そうしないといずれ腐ってしまうし、川に流すわけにもいかないからね」


「…」

キョウラは言葉を失った。

「…わかりました。この子のご家族は、すでにお別れは済んだのでしょうか?」


「一応ね。話を聞いて真っ先に来たけど、ターニアを見てショックを受けて、すぐに帰ったってセナベルから聞いたよ」


「そうですか…ではお手数ですが、もう一度その方々を呼んでいただけますか?」


「わかった。それじゃ、行ってくるよ」


「あ、ちょっと待ってください。土葬の場所は…どこにすればいいでしょう?」


「ちょうどこの家の裏手に墓地があるから、そこで頼むよ。レヌゥ症候群で亡くなった人の遺体は、みんなそこに埋めてるんだ」


「わかりました。では、先に行っていますので…」


フォルが行った後、キョウラは何かの魔法を唱えて遺体を触れずに浮遊させた。

そしてそのまま自身の後を追従させ、部屋を出た。

「さあ、皆さん来てください。墓地へ行きましょう」


墓地は、恐らく墓標であろう小さな木の柱が複数立てられており、それらの中央のスペースにひときわ大きな柱が立てられていた。

「あれか。まとめて埋めてある…ってのは本当っぽいな」


「集団埋葬、それも土葬というのは、正直あまり気の進まないやり方なのですが…仕方ありません。フォル様がご家族の方をお連れしたら、埋葬を始めましょう」



フォルがターニアの家族を連れて来るのに、そう時間はかからなかった。

やってきたのは、彼女の両親。娘の死を受け入れられないあまり家に帰ってしまったらしいが、時間と共に落ち着いてきたらしい。

火葬などはできないとはいえ、僧侶であるキョウラに立ち会ってもらえるのがせめてもの救いだと、涙ながらに言っていた。


そして、葬儀が始まった。

といっても、運んできた遺体を土の中に埋めるだけだが。


「唯一無二の人の子の魂に、安らかなる眠りのあらんことを。あなたの来世に、幸せあらんことを…」

教会の神父みたいなセリフを述べ、キョウラは目を閉じた。

そして遺体がふわふわと漂い、墓標の前の地面に吸い込まれるように消えた。


「…これで終了です。少なくとも埋葬は出来ました」


「ありがとうございます。最期に僧侶さんに立ち会ってもらえて、娘も嬉しかったと思います」


「この村に僧侶様が来てくれるなんて。…本当に、ありがたい限りです…」

母親は涙をこぼした。

「いいのです。きっと、これも神様の思し召しだったのでしょうから」


よく考えると、戦いから帰ってきたばかりで疲れてたところに無理をさせてしまったかな、とも思う。

彼女でなくても吏廻琉や苺、亜李華もいるのだし、そっちにすればよかったか。


それにしても、こうして目の前で命が失われると、レヌゥ症候群という病の恐ろしさを痛感する。

一体、何なのだろう。

どうすれば、治せるのだろう。


それを一刻も早く知りたいところだが…焦ってはよい結果は出ない。今回の沼地の村の一件のように、ガセネタを掴まされる可能性だってある。

あくまでも慎重に、正確な情報を仕入れた上で行動しなくてはなるまい。

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