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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第315話 『血の契約』

最初は俺から仕掛けた。

アスリルと言ったか?ガルドの力を持っているのなら、もし先制されるとまずいと思ったからだ。

「[ブレイクムーン]」

せっかく派生技を閃いたのだから、そっちを出せばよかったか…と放ってから思った。


フォルが「ボルトショット」を、キョウラが「返し斬り」を繰り出す。どちらも命中していたが、アスリルにはさして効いていないように見える。いや、効いてはいても、それが大きなダメージになってはいないだろう。

それを何となく感じたのか、キョウラは「二次元斬り」を繰り出した。これは割合ダメージ技であるから、硬い奴相手でも普通に入るはずだ。


しかし、キョウラが剣を振るっても、奴の体から血が噴き出す…ということはなかった。

一瞬意味がわからなかったが、すぐにわかった…これは音波系の技だから、音波に耐性を持つ相手には効果がない。

そんなやつはそうそういない…と言いたいところだが、現に今こうして目の前にいる。


これにより、キョウラだけでなくこちら側全員の動きが止まって隙が生まれた。

そこをついて、奴は光の如き速さで攻撃してきた。


「…!」

まさに、「瞬き厳禁」だった。

本当にほんの一瞬の間に、奴は…。


気づいた時には、胸に無数の矢が刺さっていた。

その(やじり)からは、ほのかに黒い線状の光が伸びている。

そして、息を吸った直後に「それ」が襲ってきた。


全身に力が入らなくなり、それでいて急速に体力を奪われる感覚…ジルドックの山の洞窟で食らったのと同じものだ。

「ガルド状態」…いや、「ガルドの呪い」だったか。負傷毒の強化版のような、厄介な状態異常だ。しかも、呪いをかけてきた元凶を倒すまで、基本的に治ることはない。

つまりこうなったからには、一刻も早くアスリルを倒す必要があるのだ。


「ああ、これは失礼。新しくもらった力なものでな、つい使いたくなってしまった」

それを聞いて、キョウラが奴を見た。

「と…いうことは、やはり…あなたの裏には…邪悪な存在がいるのですね…!」


「答えを知りたくば、立ち上がってこい。そして、私を討ってみるのだ。欲しいものがあらば、戦って勝ち取る。それがこの世の真理だ」


「…!」

胸に刺さった矢を抜き取り、キョウラは白魔法を唱えた。

「[リスペア]!」

確か、敵の体力を吸い取るドレイン系の魔法。

効くのか?と思ったが、ちゃんと効いたようでキョウラはしっかり回復していた。


「む…なるほどな。白魔法や黒魔法には、相手の生命力を吸い取るものがあると聞いたことはあったが…」

それならば、と奴は弓を横にした。

「妙な小細工はなしにしよう。[血の契約]」

弓から奇妙な赤色の光が飛び散った。

別に何が起きた、というわけではない。だが、キョウラだけは何か反応していた。

「血の契約…!なんて陰湿なものを!」


「心外だな。むしろ正々堂々とした戦いができるようにしたつもりなのだが」


「異常を使う時点で、堂々となどしていません!あなたも祈祷師たちと…同類です!」

妙に怒った直後、キョウラはせきこんで血を吐いた。

「喋っている暇はないぞ?」


「…!」

キョウラは目をつり上げた。

久方ぶりに、真剣に怒っているようだった。


「なんだ…彼女は、なんで怒ってるんだ?」

俺やフォルには、その理由がまったくもってわからなかった。

「わからん。異常…って言ってたけど、何か状態異常を付与されてる感じはしないな」

とりあえず回復しようと思い、「燃ゆる生命」を唱えた。

…が、なぜかまったく傷が癒えなかった。


「あれ?」

ならばと思い「修復光」を唱えてみたが、こちらもまったく回復しなかった。と、そこにアスリルが矢を放ってくる。

慌てて回避して、その瞬間に気づいた…傷は、術を唱えても回復しないどころか、むしろ徐々に広がっている。

傷がだんだん広がっていくというのは負傷毒に似ているが、しかし回復できないと言うのは? 


「[返り撃ち]!」

横では、フォルが一回転して矢を躱しつつ逆に矢を撃っていた。カウンター技のようだ。

すると、フォルの傷が目に見えて回復した。

「えっ…?」

彼が驚いていたあたり、回復効果のある技ではないらしい。

と、それでフォルはピンときたようだ。


「もしかして…!」

彼はキョウラと切り合っているアスリルにまっすぐ矢を放つふりをして、3つの魔弾を放った。そしてすぐに矢を放ちつつ自らも飛び込み、三段攻撃を仕掛けた。

これらはいずれもアスリルに当たり、血が飛び散った。すると、またフォルの傷が癒えた。


「やっぱり、そうか…!」

フォルは華麗なバックダイブでこちらに戻ってきた。

「意味がわかった。今、僕らは術や技を使った回復ができないし、徐々に体力を奪われてる。でも、攻撃を相手に当てると回復するんだ。…キョウラさんが怒ったのは、そういうことなんだな!」


すると、アスリル自らが正解の意を示してきた。

「見事だ…だがこの程度で怒るとは、器の小さいお嬢さんだ。僧侶でありながら、広い心を持たぬとはな」


「汚い異常を付与して戦うような、卑劣な真似をする者が許せないだけです!よりによって、呪術師たちと同じ異常を使うなんて…!」

呪術師とは祈祷師の上位種族…だったはず。交戦経験があるのか知らないが、とにかくキョウラにとってはそれと同じ異常を使ってくる者の存在が許せないのだろう。


「そうか、そんなに気に入らぬか。ならば、その怒りを…不満を、すべて私にぶつけろ!」

アスリルは高らかに笑った。どうやらこいつ、戦えさえすればそれでいいようだ。

こんな戦闘狂が長い間地下に閉じ込められていたとは…色んな意味で恐ろしい。


「言われなくとも、そうします…!」

キョウラは、こちらを振り向いた。

「お二人とも!私達は、この男に『血の契約』を付与されました。この上は、一刻も早く…っ!」

途中で言葉を切り、再び血を吐いた。

…そうだ、今は同時にガルド状態にもなってるんだ。


「キョウラさん…あなたにだけ無理はさせない。僕らだって、同じ覚悟だ…!」

フォルに続き、俺も言う。

「そうだ…!大丈夫だキョウラ、俺達なら必ずやれる…!」

とは言え、二重に体力を奪われつつ痛みが残るのはきつい。回復魔法には鎮痛の効果もあるから、それが使えないとなると二重の意味で苦しい。だが、これを打開する策はある。

そのためには、覚悟と勇気が必要だ。


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