第309話 村を訪ねて…
俺達は村へ急行した。村の安否が気になるというフォルの意見にならい、少々無理に突っ走って急行した。
まあ、ちょくちょく水深が深いところがあって泳いだので走りっぱなしだったわけではないが。
道中では、やはり水中に隠れている敵がゾロゾロいたが、苺の魔法のおかげで向こうの居場所は丸わかりなので、不意打ちの心配はない。
ただ、どういうわけか向こうは水中からでもこちらがはっきり見えているようで、特に遠距離武器持ちはある程度まで近づくと水中から仕掛けてくる。
なのでこちらも遠距離で、向こうに気づいていることを悟られないようにしつつ先制攻撃する。
遠距離は、斧を投げればさすがに気づかれると思うので、火の術…「カルネージフィン」を使って攻撃した。
ちなみにこのあたりの水位は腰辺りまであり、地面も田んぼのごとくぬかるんでいるが、樹の能力とウォーカーの魔法のおかげで歩くのに抵抗は感じないし、水中に火の術や飛び道具を飛ばしても消えたり減速したりしない。
もっとも、後者は敵も同じだが。
沼地のあちこちに背の高い草や木が生えているのだが、敵はその周りではなく、そこから少し離れたところの水中に隠れていた。
水中も見える暗視のバフ、そして探知魔法がなければまず気づかないだろう。
それはイナも同じように思ったようで、苦言を呈していた。
「あいつら、狩人じゃないんじゃない?なんでこんな濁った水の中で息止めて、もの見れるのよ」
「服とスカーフを見る限り、彼らはサードル旅団のようだけど…水中での息止めはまだしも、この濁った水の中からこっちが見えるのは不思議だな。もしかしたら、イナさんの言ったように狩人じゃないのかもしれない」
「となると、一体何者だって言うんだ?サードル旅団って、この国の狩人の集まりだろ?」
そう聞いたのはアーツだった。
「いや、確かにそうなんだけど…最近のサードル旅団は色々とカオスだからね。狩人でも探求者でもない異人が混ざってるって可能性も否定はできない。ただ…彼らから種族が違うという感じはしなかった。となると…一体何者だろう?」
フォルは立ち止まり、考え込んだ。
そんな彼の肩に、輝が手を置いた。
「まあ、あんまり深く考え込むなよ。それに奴らが今後も敵として出てくるってんなら、その正体はおいおいわかってくるさ。それより今は、進もう」
「…そうだな。村の人たちが心配だ」
それからほどなくして、村があるという場所にたどり着いたのだが…。
「あれ…?」
フォルが呆然とする。
というのも、そこにはここまで続いてきたものと大して変わらない沼地が広がっているだけで、村など影も形もないのだ。
「ここなのか?」
「ここというか、このあたりだったはずなんだけど…」
村どころか家のあった痕跡も全くない沼地。
そのあちこちを見回し、やがてフォルは最悪の考えに至った。
「…まさか、襲われたのか?」
「襲われた…って、略奪者にか?」
「いや、略奪者は家を壊したりはするけど、ここまで跡形もないくらい壊しはしない。それに、略奪者がわざわざこんな所まで来るとは考えにくいよ」
「そうか…となると、異形か?」
「僕が最後にここに来たのは10年以上前だけど、当時村にいた人たちはみんな、並の異形なら何なく倒せるくらいの強さを持っていたはずだ。となると…」
その時、苺が突如防御結界を張った。
驚いた直後、数本の矢が結界に弾かれる音がした。
それで気づいたのだが、奥の小高い崖の上に数人のサードル旅団がいて、こちらを狙ってきていた。
さらに、苺が杖を抜いて言った。
「囲まれてる!」
それで周りを見渡して、俺も気づいた。
この沼地は周囲を小山のような小高い地形に囲まれた、いわばカルデラのような場所なのだが、その周りを囲む崖の上にびっしりと敵がいるのだ。
それも、全員サードル旅団である。
「うわ…こんなにいたのか!」
「今までに出てきた奴らは、全体のほんの一部でしかなかったのか…それにしても、これだけの数、一体どこに隠れてたんだ!」
奴らは再び一斉に矢を放ってきたが、ことごとく結界に弾かれる。しかし、数人が放ったやけに太い矢は結界にヒビを入れてきた。結界破壊の効果がある技を使ってきたようだ。
「こりゃまずいな…とにかく、今のうちにこっちからも攻撃して削ろう!」
輝とフォルが弓を射ったが、しゃがんだり伏せたりして地形に隠れてきた。なので、二人は「[変則射ち]」「[曲射]」といった技を出した。
後者は、撃った矢が一気に上を向いて飛び、しばらくして敵の頭上から降りそそぐ技で、特に追加効果はないようだったが、前者の技は奇怪な軌道を描いて飛ぶ矢を放ち、命中した敵には何やら異変が起きたようで、辺りの味方をやたらめったらに攻撃するようになった。
「『混乱』?」
イナが呟くように言うと、輝が正解だぜとばかりに指をさした。
「これで、しばらくあっちからの攻撃は飛んでこなくなる。少なくとも、混乱が治るまではね」
輝は後ろを振り向きつつ上を見、結界に限界が近づいていることを理解した。
「しっかしまあ、ずいぶんいるなあ…」
敵は、ここから見えるだけで60人くらいはいる。
「これだけの数がたまたまいたとは考えにくい。恐らく、待ち伏せされてたんだ」
「ってことは、情報が漏れてたのか?」
「だとしても、輝たちがここに来るまでの短時間でこんな人数を集めるのは無理がある。たぶんこの沼地に奴らの拠点があるか、もしくは…」
その時、結界が破壊された。
輝は弓を収める。
「すべてが罠だったか。…『鮮烈なる光の衝撃』。奥義 [インジェクション・オーラ]」
左手を伸ばし、右手を左手首に重ねて詠唱する。
左右の上空、ちょうど奴らがいる崖のあたりにゆらゆらと歪んだ緑色の光が現れ、まっすくに伸びる。そして正面で合流し、光の近くにいた全ての敵を巻き込んで炸裂した。




