第26話 犯人探し
町の人々に山賊の壊滅を報告すると、みんなとても喜んでくれた。
町長がお礼を何とか…なんて展開になるかな、と思ったのだが、そんな事はなかった。
というか、そもそもこの町には町長がいないらしい。
えっ?と思ったが、どうやらこの町…モトキスの町は複数の狩人の集団が集まってできたものであり、それ故に町長がいない、ということらしい。
意味がわからなかったが、輝によると、狩人は元来大きな社会を形成せず、家族や恋人、友人などの関係者と小規模な集団を作って生活する種族であり、例え大きな集団を形成しても、階級のある社会を形成するには至らない、とのこと。
人の上に立とうとか、集団をまとめようという概念そのものがないため、組織を総括しようとする者が現れる事はなく、また誰も人と対等以外の立場になる事を望まないという。
やっぱりよくわからないが、人間とは違う存在であるのだという感じはする。
異人とは、人間にある感情の何かが欠けた存在であり、それ故に人ならざる存在であるのかもしれない。
一瞬、町の人たちも異人なら山賊くらい倒せるだろ…と思ったが、よく考えると、あくまで動物を狩って暮らす種族である狩人に人を殺せ、というのは少々お門違いであろう。
輝とタッドは出会って早々仲良くなっていた。
互いに弓使いであり、同種族でもある事から仲良くなったとのことだが…そんな単純な事なのだろうか。
「この世界じゃ、相手が本当の意味で自分と違うってことがザラだからな。同族ってだけでも、精神的なハードルは下がるもんだよ」
煌汰はそう言って苦笑いした。
こいつも、この世界での友人作りには苦労したのだろうか。
タッドの家に来た。
まあいずれ来る事にはなったのだろうが、輝が働きかけてくれたのも一理あっただろう。
奴が帰宅すると、すぐに妹が走ってきた。
そして、無事でよかったと抱きついた。
…まったく、実にいい兄妹だ。
「こら、離れろ。お客さん達と話をしなきゃないんだ」
「あ、そう…」
彼女は渋々ながら兄から離れた。
「この人たちと一緒に山賊をやっつけたの?」
「そうだよ」
「ふーん…」
彼女は、俺に近づいてきた。
「…どうした?」
「お兄さん、なんか優しい目をしてるね。心がそのまま目に現れてるみたい…」
「え?」
困惑していると、その子はしゃがんで俺の手を触ってきた。
「…え、何?」
「ん…温かい。何か、すごく熱いものがお兄さんの中に流れてる…」
「…??」
すると、何やらタッドがへえ…と感心した。
「僕の妹…ナフィーは[心響]の異能を持っててね。人の心を覗いて、その奥底にある本来の人格を見通す事ができるんだ。それだけじゃなく、その人に眠る力を呼び覚ます事もできる」
普通にすごい能力だ…というか、そういう能力持ちのキャラって後半に出てくるイメージがあるのだが。
しかし、彼女は次にこう言った。
「ごめんね。わたしには、お兄さんの本当の力を呼び覚ます事はできない…」
「え、どういうことだ?」
「わたしが力を目覚めさせられるのは、"普通"の異人だけなの。お兄さんは、何か…普通じゃない力を持ってる。すごく…すごく強くて、大きな力を。
でも、それを悪いことに使うような事はない…お兄さんは、正しくて優しい心を持ってるもの」
正しくて優しい心…か。
俺はそんなつもりは全く無いのだが。
「本当か…?」
「うん…お兄さんには、きっと何か役目があるんだと思う。他の人ではやれない、ものすごく大切な役目が…」
「大切な役目…?姜芽に?」
輝の呆れたような言い方に、ちょっと腹が立った。
「この人は、体の底に熱くて大きなパワーが流れてる。今はまだ眠ってるけど、目覚めたら…この世界を変えることもできるかもしれない」
「世界を変える…」
突拍子もない話だが、同時に素晴らしくロマンがある話だ。
世界を救う、でないのがちょっと引っかかるが。
「なあ、それよりとっとと本題に入ろうぜ。俺達はな…」
猶がうんざりしたように、俺達の探しものについて話しだした。
「…なるほどね。でも、この町に人間なんていたっけ…?」
「まあ…いないよな?ここは狩人の町だし」
樹はダメ元でそう言ったのだろうが、
「いや、もしかしたら…」
タッドには心当たりがあったようだ。
「え、心当たりあるのか?」
「ああ。一ヶ月くらい前に、人間の家族がこの町に来たんだ。見た所悪人には見えなかったけど、ひょっとしたら…」
「その家族はどこに?」
「町の南東にいる。とりあえず行ってみようか」
タッド、それとナフィーと共に南東の家を訪ねた。
それは一見周りと大差ない普通の家で、住んでいたのも、長男、長女、次男の、ごく普通の3人家族だった。
不思議なことに、会った瞬間に直感で人間だと理解した。
本来は貧しい家庭だが、先日次男が思い切り稼いできたらしく、大金を持ってきたおかげで安心している、と長男が言っていた。
一応問い詰めてみたが、やはりみな知らないという。
嘘を言ってる可能性もなくはないが、確証もないのに嘘つけと言うわけにもいかない。
ハズレか…と思った瞬間、
「ちょっと待って!」
ナフィーが前に出た。
「ナフィー…?どうした?」
「…」
ナフィーはおもむろに次男に歩み寄った。
「な、なんだよ?」
「あなた…心が汚れてる」
「は?…いや、確かに汚れてないって言えば嘘になるだろうけど…」
「そうじゃない。あなたの心には悪いものがついてる。その汚れはつい最近ついたみたいだけど、このままだと本物の悪人に…」
「お、おいおい。何を言ってるんだ?おれは何も盗んだりしてないぞ!」
すると、長男が口を開いた。
「なんだ、また何か盗んだのか?」
「また…?」
「ああ、こいつは昔から手癖が悪くてな。ここに来る前にも、あちこちで色々盗んでは、とっちめられて来たんだ」
「…」
ナフィーとタッドの目は、この男で間違い無い、という目だった。
そして、タッドが言った。
「彼女は人の心を見通せる。隠し事があるなら言った方がいい」
次男は観念したのか、全てを白状した。
「…悪かったよ。あれがみんなにとって大事なものだってのは知ってた。でも、金が欲しかったんだ」
「どういうことだ?」
「この前北の町に行ったとき、町の祈祷師たちに誘われたんだ…勇人アモールの像を盗みだす手伝いをすれば、大金をくれてやるって。だから…」
「祈祷師?」
また異人か、と思ったらキョウラが説明してくれた。
「祈祷師は私達修道士と対をなす種族です。闇と黒の魔法を操り、邪悪なものに心酔する事もしばしばあります」
要は、闇の魔法使いか。
いかにも敵サイドの存在といった感じがする。
「夜中にやった。やつらにここからミフィデルまでワープさせてもらって、渡された使い切りの浮遊魔法の魔導書を使って、あの像を持ち出したんだ」
「なるほど。魔力が残っていなかったのは、魔力をあまり消費しない魔導書を使ったからですか。とすれば、像はどこに?」
「やつらがどこかに持っていった。たぶん北の町だと思うけど、詳しくは知らない。
…これで知ってる事は全部だ。おれがやったのは、あくまでも像を盗み出して、やつらに渡す所までだ」
「…わかった。北の町、だな?」
「確証はないけどな。…なあ、もういいだろ?おれは金を積まれて、仕方なく像を盗んだんだ。盗みをやらかしたことは謝る。だから…なあ?頼むよ…」
すると、キョウラが怒り出した。
「…あなた、自分がしたことをわかってますか!?盗みをしておいて、よくそんな平然としていられますね!」
「えっ…あっ、修道士さん!?」
「私達は、例え罪人でも救われると考えていますが、それは自身の罪を認め、許しを請う者の話です。あなたのように、罪を犯した自覚がありながら、謝罪らしい謝罪もせず、平然としている者は許せません!
ああ、そう言えば前科があると言っていましたね…」
キョウラは何やら物騒なオーラの杖を取り出した。
「今一度、制裁を加えておきましょうか…!」
「ちょちょ…待て!何する気だ!?」
「光の力で、人格を変えます…もう二度と、盗みをしようなどと思わないように…!」
人格を変える、というフレーズでヤバさが伝わってくる上に、キョウラの目が明らかにヤバい。
当然、みんなでキョウラを取り押さえた。
「なっ…離してください!」
「まず落ち着け!」
「私は落ち着いてます!ただ…この不届き者に、制裁を下そうとしてるだけです!修道士として…こんな悪人を放ってはおけません!」
「だからって、そんなことしなくていいだろ!話せばわかるんだ…落ち着けよ!」
「…!」
俺がそう言うと、キョウラは落ち着いた。
結局、次男にはキョウラの前で家族に謝罪をさせ、二度と盗みをしないと約束する、ということでキョウラは納得したようだった。
盗みを知っただけでこんなに怒るとは…キョウラが、いや正確には修道士が、俺は怖い。
ひとまず、次男が言っていた北の町へ向かうことにした。
きっと、そこに黒幕たる祈祷師もいるだろう。




