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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第308話 不穏な濁水

しばらく進むと、水深はさらに深くなり、陸地はさらに減少した。

これまではなんとか歩いて移動できたが、ここからはそうも行かない。

ウォーカーの魔法では、歩く際の水の抵抗を無視することはできるが、泳ぎやすくなるとか、水中でも息ができるとか、水中で活動しやすくすることはできない。

「リトたちを連れてくればよかったかな…」

思わずそう呟いたら、樹が「ん?オレを忘れたのか?」と言ってきた。


「オレの力を使えば、水中でも楽ちんに動けるぜ」

そう言って樹が指を鳴らすと、全員に何かのバフがかかった。

「…何をしたの?」


「水中でも、地上と同じように活動できるようにしたんだ。試しに潜ってみな」

フォルは、恐る恐る水に顔をつけた。

そして数秒後、顔を上げるや否や、「すごい!」と叫んだ。

「水の中で息ができる…魔法を使ったわけでもないのに!」

それを聞いてアーツとイナも試してみて、彼らもまた感激の声を上げていた。


「だろ。しかも水中での暗視と、水の抵抗を受けなくする効果もあるんだぜ」

輝がそう言うと、フォルはちょっと変な顔で樹を見た。

「君は…本当に純正の探求者か?実は海人(うみびと)の血が混ざってるとか、そういう感じなんじゃないのか?」


「いやいや、違う違う。オレは正真正銘、純正の探求者だぜ…まあ、元は人間だったけどな」


「樹は水を操る[水操(すいそう)]の異能を持ってるからな。水中での活動に関しては、海人さながらの強さと適応力を持ってるんだ」


「へえ…」

そうして、俺達は沼を泳ぎ出した。

目指すは、北西にあるという村だ。



ふと気になったが、フォルは海人を見たことがあるのだろうか?うちの軍にいるリトとイルクはフォルに会ったことはないと思ったが。


「そういや、フォルは海人に会ったことあるのか?」


「海人…ねえ。オリジナルの海人を見たことはないけど、その亜種なら見たことがある」


「亜種なんているのか」

すると、樹が口を挟んできた。

「海人は、むしろ亜種の方が多い異人だぜ。で、フォルはどの海人を見たことがあるんだ?」


川人(かわびと)かな。川とかで見たことがある。このあたりには海がないから、淡水性の海人系種族しかいないんだ」


「淡水性の海人か…一応確認するけど、汽水域で見たわけじゃないよな?」


「汽水域だと、何か違うのかい?」


「海人系種族ってのは、結局魚とかと違って海水でも淡水でも生きられるからな。川人が海まで降りてきたり、逆に海人が川を上ってくることもある。特に汽水域は海人と川人が入り混じるから、見間違えやすいんだ」


「そうなんだ…川人と海人、違いは何かあるの?」


「んー、海人って言ってもいっぱいいるから、正直かなり難しいとこだけど…強いて言うなら、川人は小柄で、泳ぐスピードが速めだな。あと、川人は全体的に水守人とよく似てるんだけど、一応の違いとしてエラとヒレがないが鱗はある、ってのがあるな」


「ふーん…」

フォルはしばし考え込んで、「なら、僕が見たことあるのは川人だな」と言った。

「アンベル村の横の崖の下には川が流れてるんだけど、そこに水汲みに行ったりするとたまにいるよ。やけに大きなボチャンって音がしたら、彼らが来た合図だね」


「話したことあるのか?」


「何度かね。彼らは村の人みんなに対して友好的だし、揉めたり攻撃してきたりするようなことはないから、釣りとかする時のいい話し相手になってくれる存在だ」


「釣りか…間違えて川人がかかっちまう、なんてことはないのか?」


「それはないよ。少なくともうちの村の川ではね」


「でも、川人も魚を食べてるわけだよな?」


「確かにそうだけど、彼らは僕らが魚を釣ることに文句を言ったりしてこない。それに向こうも、たまに陸に上がって草を食べたりしてるっけから、お互い様みたいなものさ」


「まあ、競合いしてないなら大丈夫だろ。…一部では川人を食べる地方もあるらしいが、さすがにそんなことはしないよな?」


「まさか。そんなことするわけないよ。これから向かうマクス村の人たちにすら、そんな文化はない」

そこまで言って、彼は妙に険しい顔になった。

「そういえば、この沼にも川人がいたはずなんだけど…」


「…」

ちょっと辺りを見回してみたが、水の中には誰もいないし、誰かいる気配もない。

「ねえ、本当にこの沼に川人なんかいたの?」


「そのはずなんだけど…」

フォルは顎に手を当てた。

「これは…何か、良くないことが起こっていそうだ」







その頃…




「…おい、お前。扉を開けろ」


「あ、あなた様は…!ははっ、すぐに…!」



「…誰だ」


「私が誰であるかは、お前には関係あるまい。それより、面白い話がある」


「…何だ」


「お前をここから出してやる。その代わり、この砦の外でひと暴れしてもらいたい」


「外ですぐに、というのか?」


「そうだ。ちょうど今、この沼地にガリバーを連れた小生意気な若造どもが来ている。そいつらを相手に、ちょっと遊んでやってほしい。…どうだ?」


「…ふむ、面白い。久しぶりの外だ、腕を鳴らさせてもらおうではないか」


「ほう。…さすがは、かつて『狂える英傑』と呼ばれた狙撃手だな。相手のことを詳しく知らされずとも、戦えるならば喜んで腰を上げる…その血の気の多さも、かつてその強さと凶暴さを恐れられて捕らえられ、幽閉されたといういきさつに相応しい」


「私を変に持ち上げるのはやめてもらおうか。貴方は上位種族のようだが、あいにく私は礼儀など弁えるつもりはない」


「その根性…いいな、気に入った。では、ささやかな餞別だ。お前にこれをやろう」


「…これは」


「それを以て、奴らを根絶やしにするのだ。…まあ、お前ほどの実力者なら、言うまでもないとは思うが」


「自由にしてくれた上、復活の祝賀の会場まで用意してくれるとはありがたい限りだ。言われずとも、派手なものをお見せしようではないか」


「その言葉、信じているぞ。…私をがっかりさせるなよ、狙撃手アスリル…かつてのロロッカの支配者よ」

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