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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第306.5話 文化と略奪の理由

その頃、アンベル村では…



「なあ、ここでいいのか?」


「ああ。そこに差し込むような感じで置いてくれ」


「こうか…」


「そうそう、そんな感じだ…あ、ちょっと待った!悪いが、やり直しだ!一回降りてくれ!」


「え!?…まあわかったよ」

残されたガリバー及び軍のメンバー、そして村の住民が協力して村の修復に精を出していた。

先の略奪者の襲撃…俗に言う『レイド』では、姜芽たちとガリバーの活躍により、村人への直接の被害はほとんどなかった。だが、序盤の略奪者たちの攻撃、及び彼らの戦いによって不特定多数の建物が壊れ、または傷ついた。

それを、みんなで直しているというわけだ。


この村の建物は、その多くが比較的軽量かつ容易に調達が可能な木や藁などの素材で作られており、中には地面から床を高く上げたタイプの家も少なくない。これらはロロッカの多雨林地帯の伝統的な家屋で、1年を通して高温多湿かつ植物が多い環境ではとても暮らしやすく、また作りやすいのだが、火や物理的な攻撃に弱いという面がある。

一応魔法で強度が上げられたりはしているが、それでもやはり耐久性は心もとない。


しかし、この村においてこの従来の方法とは違ったやり方で家が建てられることはほとんどない。それは、ひとえに狩人が伝統や文化を重んじる種族であるからだ。

狩人は元より家族や恋人など少数単位で暮らすことを好む種族だが、それは言い換えれば多くの者と関わること、代々続く文化や家風、価値観が変化することを嫌うということでもある。


もちろん、本当に孤独に生活するのではできることに限りがあるし、何よりこの世界、この国で少数ないし1人で100年以上もの年月を生きるのは容易ではない。なので、いつの頃からか複数の家族が1つの場所に集まり、必要最低限の大きさの集団を作って生活を送るようになった。

これが狩人の村の始まりであり、その歴史は短いところでも数百年に渡ると言われているわけだが、どこでも各家庭の伝統や価値観は厳格に守られ、引き継がれ続けている。


それ故、古来からの文化は徹底的に現代まで貫かれている。

もちろん、家の立地や建て方、間取りもだ。

そして、それゆえに彼らは変化を望まず、いかなる理由があろうとも長き伝統を守ろうとしているのだ。



だが、そんな考えを他の種族も理解できるとは限らない。


「しっかしまあ、古くさいデザインだよなあ…もうちょっと現代風って言うか、頑丈な家にすればいいのに」

家の修復が一段落つき、しばしの休憩をしていた猶が呟いた。

「それは思う。まあこの国の環境的にこれがベストなのかもだけど、ちょっと不用心だよね」

煌汰も、苦笑いしながら言った。


「狩人は文化を大事にする種族だ…って前に輝から聞いたけどよ、ご先祖様々ーって考えにも限度があるよな。どんなに昔の考えを引きずりたくても、時代は変わるもんだぜ」


「そうだよ。それについていけなくなれば、いずれ潰れるんだ。これじゃ、狩人の未来がちょっと心配だね」


「まったくだな。ははっ」

そんな会話をしていた2人は、直後に背後からただならぬ気配を感じて振り向いた。

そして、そこには何もいない…という恐怖と共に、頭を弦でひっぱたかれる痛みを味わうことになった。



「狩人には狩人の気持ち、文化があるんだ。事情も知らない上に気持ちを理解できないなら、変な口出しはしないでもらいたいね」

アルテトは、かつて狩人であった身として、2人の非礼を怒った。







「…ふう、これでいいかな」

木の板を打ち付け、最後の壁を塞いで、ナイアはこの家の住民に確認した。

「うん!大丈夫!ありがとう!」


「そう。よかった。…これで最後だよね?」


「そうだよ。もうみんな大丈夫。お姉さんたち、ありがとね!」

住民の少女は優しく微笑んだ。

これで、村の家々の修理は全て完了した。



「終わった終わった。…あれ」

ナイアは、つい先ほど修理が完了した高床の家をぼんやり眺めているラウダスが目についた。


「ラウダス、何してるの?」


「ん?…ああ、ナイアさんか。大したことじゃないよ。ただ、狩人の家ってのはこんななんだなーって思って」


「なに?建築に興味があるとかそういう感じなの?」


「正確に言うなら、異人の文化に…かな。僕は探検家だけど、同時に学者でもあるからね、様々な種族の文化に興味があるんだ」


「あ、そういうことね」

ナイアはこれまでラウダスとはあまり話してこなかったが、彼が人間上がりの祈祷師であること、元々旅の探検家であり学者であることは人づてに聞いていた。


「この国は、激しい雨や風が吹き荒れることも珍しくないと聞くけど、この家はそういう自然の脅威にも耐えられる作りになってる。遠い昔からの伝統を守ってるからこそだ」


「確かに、そもそもの土台…ってか底を上げる家なんて他の国ではまず見かけないね。これなら、略奪者に襲われてもすぐには登ってこられないようにも思えるけど…」


すると、ラウダスは目を見開いた。

「それなんだけどね、その略奪者の正体を、君は知っているかい?」


「正体?あいつらって、狩人の亜種だって聞いたけど…そういうことじゃなくて?」


「確かに、略奪者は生物学的には間違いなく狩人の一種だ。でも…不思議に思わないかい?元々狩猟や採集を生業とする種族の仲間である彼らが、なぜ略奪なんてことをするようになったのか?」


「言われてみれば…」

確かにそうだ。

略奪者が普段どこでどうしているのかはよくわからないが、たぶん相変わらず他の村や町を襲っているのだろう。しかし、それは狩人という種族の一種であることを踏まえて考えると極めて異質なことだ。

「実はね、略奪者が他の人を同族か否か問わず襲う理由は、長い間よくわかっていなかったんだ。でも、わりと最近になって判明したんだ」


「どんな理由なの?」


「まず、彼らは元々狩人の一種だ。だから当然、遥か昔は普通の狩人だった。もちろん略奪なんてせず、普通の狩人と同じように狩猟生活を送っていたんだ」


「それが、どうして?」


「ある時、彼らはある存在に襲われた。その正体は今もわかっていないんだけど、とにかくそれは狩人たちの住んでいた村を派手に荒らしていった。狩人たちは無事だったけど、大切な村を失ったも同然となった。怒り、悲しみ、絶望。様々な感情を抱いた彼らは、一種の自警団のようなものを組織した。そしてかつて自分たちを襲った存在を見つけるために、疑わしい存在を片っ端から殺すようになったんだ」


ここまでは、まだ理解できなくもない。だが、ここからどう略奪につながるのか。


「ある時、彼らは大きな商隊を襲った。そしてその商隊の荷物を奪い、しばしの裕福な生活を送った。その時、彼らは気づいたんだ…普通の狩猟生活を送るより、他人から奪ったほうがよほど楽だし、豊かになれると。それから、彼らは普通の狩人とは異なる種族『略奪者』となり、目に付く異人やその集落を襲うようになったんだ」


「…ああ、なるほどね。殺人者とは、また違った理由があったのね。でも、どうしてそんなことわかったの?」


「数年前、ロロッカのある遺跡から、合計5枚の石碑が見つかったんだけど、それらに書かれた碑文を解読したら、そういう歴史があったことが明記されていたんだ。どこも欠けたりしてなかったから、さほど時間はかからなかった。しかも、5枚のうち2枚には絵が書いてあったからね、ありがたい限りだったよ」


「へえ…もしかして、その碑文を解読したのって…」


「ああ、わかったか。そうだ、それを解読したのは僕なんだ」


「すご…で、その結果は誰かに伝えたの?」


「もちろん。セドラルの中央王城と、サンライトの神殿に報告したよ。その功績を称えられて、僕はたくさんのお金を得ることができた。だから、それを持って旅をしていた所なんだ」


「あ、そういうことだったんだ。てか、あんた元々人間だったって聞いたけど…」


「当時はまだ人間だった。けど僕は、元々祈祷師になろうと思ってたからね。その後2年ばかり術士をやって、それから祈祷師になった」


「元々祈祷師になろうと思ってたの?変わった奴だったのねえ…」


「僕の家系は祈祷師系の異人が多くてね、僕もそれに習おうとしたわけさ」


「…まあ、なんの種族になるかは本人の自由だけどさ。けど…くれぐれも悪党、それこそあの略奪者たちみたいになるようなことはしないことだね」


「そのつもりさ。だから、異形とかとの契約も結んでない」


「そういやそうだね。てことは、昇格は考えてないの?」


「いや、それについては割と真剣に考えてるよ。いつかは呪術師、そして陰陽師になることが、種族的な意味での僕の最終目標かな」

呪術師は祈祷師の、陰陽師はその呪術師の上位種族だ。

「…そっか。まあ、頑張ってよ」

ナイアもこの旅で防人から守人に昇格した身故、彼にもそのような機会があるかもしれないと思った。

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