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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第295.5話 元狩人の話

ロロッカは狩人の国である。

故に、姜芽は種族「狩人」の仲間を連れて村へと繰り出したのだが、姜芽達についていかず、ラルトで待機していたメンバーの中にも狩人はいる。



先のジルドックで一行に参加したアルテト。

彼は今でこそ殺人者だが、元は狩人だった。

そのことは、彼の姓である「ラルカース」が何より証明している。

というのも、現在の狩人は苗字が30通りあるとされているのだが、「ラルカース」はそのうちの1つであり、彼と同じ苗字を持つ狩人はたくさんいる。そして、狩人以外でこれらの苗字を持つ異人はいないとされている。


そんな彼は、人と関わることは得意ではない。しかし、その独特な雰囲気に魅力を感じる者は少なくない。




「えっほ、えっほ…」

アルテトはモップを手に、廊下を走り回っていた。

そこへ、ある人物が通りがかった。


「あれ?掃除してるの?」

アルテトは声の方を振り向いた。

「あ、あんたは…」

青髪のショートヘアに、青い目の少女。

彼女は、タッドの妹のナフィーだ。


「ナフィー…私はナフィー」


「そうだったよな。どうしたんだ?」


「いや、あなたが掃除してるのが目についたから」


「なんだ、そういうことか」


「じゃなくて。なんで掃除なんてしてるの?今日は、私と樹さんの担当なんだけど…」

この拠点では、個室を除く各区画の掃除は日替わりで数人に割り当てられることになっている。

そして、この廊下の今日の掃除担当はナフィーと樹なのだ。


「ありゃ、そうだっけ?そりゃ悪いことしたな」


「いや、別に嫌じゃないけど…どうして、掃除なんて進んでやってるの?」


「おれには、これくらいしかみんなのためにできることがないからな」


「え?」


「おれは狩人として失敗作だ。だから殺人者になったんだが、殺人者としても正直微妙だ。だから、こうやって掃除をしてみんなの暮らす環境をきれいにするくらいしか貢献する方法がないんだよ」


「そう…」

ナフィーは、自然と手を伸ばしていた。

「な…何だよ?」


「あなたの体の底から、感じるものがある…今は冷たいけど、かつてとても熱かったものが…あなたの中にはある」

ナフィーは「心響」の異能を持ち、他者の心の底にある本心、あるいは本当の人格を見通すことができる。

その名前の割に、他者の心に何かを響かせるということはできないのだが。


「…へえ、あんたわかんのか?」


「何となくね。私はそういう異能がある」


「ほう…」

アルテトは鋭い目つきで彼女を見た。

「でも、それを聞くことはしないよ。私には、殺人者の過去を聞く勇気はないから」


「賢明な判断だな」


「けど、これだけは言いたい。あなたは、自分が思ってるほど価値のない人じゃない。少なくともこの軍では、あなたに価値がないと言う人はいない。それだけは忘れないでね」

ナフィーは、殺人者と直接関わったことはない。だが、その成り立ちというか生まれる理由については何となく知っている。

彼らは元々普通の異人あるいは人間だったのが、成長の過程でとても辛い経験をし、極限まで追い込まれた結果自ら命を絶った、あるいは心が壊れてしまった者たちなのだ。

その過去を知ることは、並みの者にはとてもできない。


「…ありがとな」

アルテトは、ただ一言だけ答えた。







「あら、あなたは」

掃除を続けていたアルテトに、はなが声をかけた。

「ん…ああ、はなさんか」


「当番でもないのに掃除するなんて、感心ね」


「まあ…な。おれがこの軍のためにできることなんて、これくらいだからな」


「ふーん…」

言いながら歩いていたはなは、置かれていたバケツにつまずいてしまった。

中にはたっぷりの水が入っており、当然のように床にこぼれた。

「うわ…やりやがったな!」


「ごめんなさい…!すぐに拭くから!」

はなはすぐに雑巾を持ってきて、こぼした水を拭き始めた。

幸い範囲がそこまで広くなかったので、拭くのにそんなに時間はかからなかった。

その間に、アルテトは新しくバケツに水を汲んできた。


「ふう…拭き終わったわ。ごめんね」


「いや、いいけどよ…」


「ごめんね、本当に」

はなは、彼の磨いた床を見た。

「…ずいぶんきれいになってるわね。でも、ここの廊下は長いし、1人で全部やるのは大変じゃない?」


「そりゃ大変ではあるさ。けどな…言ったろ?おれができるのはこれくらいしかないんだ」


「果たして、本当にそうかしら。自分で勝手にそう思ってるだけ…ってこともあると思うけど」


「かもしんないな。けど…おれはいかんせん自分を客観視するってことが苦手でな。そこはよくわからないんだ」


「へえ…まあ苦手を克服するのは大変だから、何も言わないでおくけど。…そうだ」

はなは、ほのかな黄色い光に包まれた人形を3体召喚した。

その手の部分には、アルテトの持っているものほどではないが、それなりに大きなモップがあった。


「おっ…?」

アルテトが見ている間に、それらの人形は動き出して床を掃除し始めた。

「この子たちが、あなたの掃除を手伝ってくれるわ。お詫び…じゃないけどね」


「なんだこりゃ…魔法か?」


「魔法じゃなくて異能。わたしは[自立]の異能を持ってて、作ったものに自立能力を与えることができるのよ」


「へえ…てことは、これはあんたが作った人形なのか」


「そう。普段は攻撃とか防御に使うんだけど、こうして雑用に使うこともできるのよ」


「便利だな。…ま、とにかく助かるぜ」


「いいのよ。それじゃ、わたしはこれで」

去ろうとして歩き出して間もなく、はなはまたバケツにつまずいた。

「…おい」


「…」

はなはもはや何も言わず、表情で謝罪した。

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