第24話 種族と昇格
ルルク山は木があまりなく、傾斜も急な所が多い岩山だった。
おかげで、少し進むだけでも苦労する。
平坦な道があまりなく、大きな岩を登ったり、でこぼこで足元が不安定な道を通っていかなければならないため、体力を消耗するのだ。
キョウラはちょっと辛そうだったが、柳助はそんなでもなさそうだった。
やはり、体力があるのか。
俺は元々趣味で登山をしていたこともあり、こういう所を登るのは慣れている。
勿論、体力もある程度ある。
やがて、傾斜はさらに大きくなった。
ここまで来ると、さすがに俺でもちょっとキツい。
だが、どうにか登っていく。
「み、皆さん…待ってください…」
キョウラは息を切らし遅れを取っているが、仕方あるまい。
聖女って、そんな体動かしてるイメージないし。
「ちょっと…まだ先は長いのよ?ほら、つかまって」
「あ、ありがとうございます…」
ナイアが伸ばした手をつかみ、キョウラはなんとか這い上がってきた。
キョウラの体重がどのくらいなのかは知らないが、大人一人が手につかまっても大丈夫なナイアもなかなかだ。
もしかしたら、異人はみんなそうなのかもしれないが。
「はあ…しかし、君は平気そうだな」
俺は、半ば驚きながらタッドを見た。
「僕は狩人だからね、こういう所には強いんだ」
「狩人…それもまた種族か?」
「そうだよ。僕らの種族…『狩人』は、山や森で狩りをして生活する狩猟種族なんだ。だから、山とか森での行動は得意なんだよ」
「へえ…というか、君確か弓使いだって言ってたよな?」
「うん。僕はいつも、この山で狩りをしてるからね、弓の扱いには少し自信があるんだ」
彼が背負っている弓は白塗りの金属製のもので、所々塗装が剥げている。
「なんか古びてるな。何年くらい使ってるんだ?」
「大体15年かな。狩人は5年の命を持ってるから、僕は14歳の時に使い始めたことになるね」
15年…これもまた、人間ならベテランを名乗れる年月である。
「そ、そうか…」
「それだけ生きてるなら、昇格できてもよさそうなもんだと思うんだけど…なんで昇格しないの?」
「いや、狩人が昇格するにはある程度の戦闘経験が必要なんだけど、僕はいつも狩りをしてるだけで、戦闘の経験はあまりないからね」
「なるほどね。私と同じ感じか」
これを聞いて、俺はナイアに質問した。
「え、どういう事だナイア?」
「そのまんま。防人は、戦いに勝ち続けていけばいずれ昇格できる。でも、町で暮らしてるとなかなか戦う機会がなくてね…。ま、このままあんた達と旅をしてればそのうち昇格できるような気もするけどね」
昇格って確か、上の種族になる…要は、上級職になるようなもんだっけ。
正直、俺もやってみたい。
と、柳助がまた喋り出した。
「たとえ戦いの経験がなくとも、一度戦場に立てば、異人の本能が体を動かす。だから、戦った事がないからと怯える必要はない。そこへ戦闘の経験を取り込む事で、異人は強くなるんだからな」
「…そうなのかな。僕はもし昇格できたら、妹を…町のみんなを守りたいな」
「私は別に昇格しなくてもいいんだけどね。そんな戦闘狂でもないし。でもまあ、周りが昇格してるのに私だけ昇格しない…っていうのもなんか嫌だし?昇格できるならしたいな」
「私も、いつか昇格したいと思っています。今はまだその資格がないかと思いますが、いつかは…」
キョウラは、どこか切なげに言った。
「ならば戦闘あるのみだな。異人の昇格は、基本的には戦闘の経験を積むことが条件になっているからな」
柳助の言う通りなら、このまま冒険を続けていればいずれ昇格のチャンスが巡ってきそうである。
ちょっと、嬉しかった。
さて、山を登ること約1時間、ようやく山賊団のアジトが見えてきた。
ソネットの時と同じく自然の洞窟を利用しているもののようで、入口は一つしかないようだ。
キョウラは特に、このまま突っ込むのは体力的にキツい。なので、少し離れた所にある林みたいな所でしばらく休むことにする。
「ここならバレないよな…しかし、疲れたな。
そうだ、柳助は何百年も生きてるんだよな?なんで昇格しないんだ?」
「必要がないからだ。少なくとも俺がこの世界に来てからは、平和が続いている。だから、昇格しても倒す敵がいない。異形はいるが…そんなものの相手は誰でもできるからな」
なるほど、つまりは強いヤツと戦いたいのか。
柳助…いつの間に戦闘狂になったんだ。
「へえ…。てかよく考えたら、狩人って輝と同じ種族じゃないか?」
「そうだな。異人は種族ごとに扱う武器の傾向が違うから、同族なら同じ武器を使っていても不思議はない」
「そうなのか。ってことは、俺とナイアの種族…防人は斧を使う種族なのか?」
「まあ、そうだな。防人は斧、剣、短剣、鎌を使う事が多い傾向にある。もちろん他の武器を使っている防人もいるがな」
鎌…か。
なんか死神とかが使ってる印象がある。
…こんな事を言ってはなんだが、昔から鎌って武器として強いのか?と疑問に思っていた。
アレだったら、斧とか振り回した方が強いような気がして仕方なかったのだが…もしかしたら、この世界の鎌は強いのかもしれない。
「それで、狩人は弓を使う事が多いと?」
「ああ。弓の他に短剣、斧、槍…」
と、ここでタッドが割り込んできた。
「僕の妹は槍を使ってるよ。ゼスルの騎士に訓練をつけてもらった事があって、なかなかの腕なんだ」
「ゼスル…?あ、セドラルの北の町か」
地図を見ていた時、名前を見たことがある。
セドラルの真北に位置する町だったと思う。
「そう。僕も一回行ってみたいと思ってるんだ」
「俺達も一度は行ってみようか。柳助は行ったことあるのか?」
「ある。セドラルに負けず劣らずの大きさを誇る、騎士の町だ」
騎士の町…なんか急にファンタジー感が出てきた。
「騎士の町…か。シンプルに行ってみたいな。
さて、そろそろ行くか。キョウラ、もう大丈夫か?」
「はい…お気遣いありがとうございます」
「よし。それじゃ…行くか」
入口の前であくびをしてる奴がいたので、タッドが射抜いた。
そして、俺達はアジトの中へ突入する。




