第284話 蟻の群れ
「[火炎の床]!」
まずは、地面に火を燃え広がらせる。
さっきの蜘蛛は、これで片付いたからだ。
火にさらされた蟻たちは、これまたパニックを起こして走り回った。だが、意外にもすぐには死なない。
「やっぱり、ある程度耐性を持ってるね…」
「あの火で死なないということは、そう考えたほうが良さそうだな。次は、俺が行く」
柳助は一匹の蟻に殴りかかった。「虱潰し」という技らしい…名前からして虫に特効がありそうだ。
果たしてその結果、どうなったか?
…蟻は、見事に潰れた。
「効いた…特効は効くのか?」
「いや、今の手応えからすると特効そのものはあまり意味がなさそうだ。シンプルに火力のある技でやったほうがいいだろう」
と、柳助の背後から蟻が飛びかかってきた。
「させるかよ!」
アルテトが「ブレイクスリンガー」の技名を叫ぶと同時にやたら太い矢を放ち、蟻の顔面に命中させて撃墜した。
「こいつら、ジャンプしてくるのか…!?」
「そうよ!そのせいで私たち、さっきあんなになったんだから!」
沙妃は奴らの方を向いて、短剣を取り出した。
…と思ったら、それは2本の短剣をくっつけたブーメランだった。
「投技 [メガトンブロウ]!」
武器を投げ、シンプルに敵全体を攻撃する。ただし、その投げられたブーメランはかなり重みがあるようだった。
それで、蟻たちは倒れはしないまでもダメージを受けたようだった。
「よし!次は僕だ!」
イーダス王子も飛び出して、技を放つ。
「剣技 [二次元斬り]!」
意味もなく剣を振るったと思いきや、しっかりと蟻たちに斬撃を当てた。
それは奴らの眉間を切り裂き、一気に数匹を撃破した。
「いいぞ!行けるぞ!」
しかしその時、後方にいた蟻のうちの一匹が何かを空に打ち上げた。
それは空の上で止まり、こちら目掛けて急降下してきた。
「危ない…!」
俺は、すぐにその下にいたはなを突き飛ばした。そしてその直後、背後に液体が降ってきて広がった。
それは、黄緑色をした粘性のある液体だった。
「なんだこりゃ、蟻酸か…?」
「気持ち悪い色ね…」
そう言っていた矢先、空中から俺とはな目掛けて再び何かが飛んできた。
今度は、蟻そのものだった。
「うおっ!」
俺たちは、慌てて左右に飛び退いた。しかし、飛び退いたところに別の蟻がいて見事に噛みつかれた。
肩を掴まれ、額に牙を突き立てられる。
血が溢れたが、先ほどの蜘蛛と違い焼けつくような痛みはない。どうやら、毒は持っていないようだ。
しかし、噛まれたその痛みは強烈だった。手に力が入らず、握っていた剣を落としてしまった。
「まずい…!」
柳助の声の直後、沙妃が技を放つ声が聞こえた。どうやらさっきと同じ技を出したらしい。それが蟻の顔を真横に切り裂いてくれたおかげで、俺は解放された。
「姜芽!無事か!?」
すぐに柳助が「ガイアヒール」の術を唱えて回復してくれた。しかし、虫に額を噛まれるというのはなかなかな経験だった。間近で顔を見たし、虫嫌いなやつがこれを味わったら気絶するかもしれない。
「は…はなは…!?」
「彼女は大丈夫だ。イーダス王子が助けてくれた!」
見ると、さっきまではなを掴んでいた蟻はイーダス王子の剣によってバラバラにされていた。
そしてその傍らには、血が流れ出す額を押さえて回復術を唱えるはなの姿があった。
「大丈夫だったか、はな!」
「ええ…何とかね。こんな大きい蟻に噛まれる日が来るなんてね…」
「それは俺も思う。けど…!」
話してる間にも、蟻は襲いかかってくる。
「あいにく、余計なことを考えてる暇はなさそうだ…!」
前方の蟻はそのまま噛みついてくるし、後ろの方にいる蟻は尻を持ち上げて蟻酸を飛ばしてくる。空から降ってくる蟻酸に気をつけつつ、噛みついてくる奴らを上手く躱して攻撃せねばならない。
しかしこいつらは地味に硬く、斧の技でも一撃では倒せないことがあった。「ラスタードヨーヨー」や「岩砕打」なら一撃だが、それ以外の技…「ブレイクムーン」や「アクスカッター」ではそうはいかない。後者に至っては、弾かれてしまう。
「体の表面が明らかに硬くなってる…一体、誰がこいつらにこんな改造を!」
美羽がそう言っていた。
「突然変異、という可能性はないのか?」
柳助が、蟻と取っ組み合いをしながら言った。
「あり得なくはないけど、だとしてもこんなにでかくなるはずない!地底の虫はみんなでっかいけど…ここまで行くやつは見たことないわ!」
「ってことはさ…こいつら、魔人の差し金なんじゃない?」
降ってくる蟻酸を避け、ジャンプして噛みつきを避けつつはなが言った。
「どういうこと…!?」
「魔人が、こいつらに改造を施して強くしたんじゃないかってこと!先に地上に出して、わたしたちを牽制するために…!」
はなはそう言いつつ「ありね」を蟻の首に取り付け、すぐに飛び降りて直後に爆発させた。
「可能性はあるな…!そんなことが出来るような奴らなのかは知らねーけど!」
アルテトは、蟻酸を飛ばしてくる後方の蟻を矢で打ち抜いていた。
「だとしたら、やっぱり魔人は地上に上がってくるつもりなのね…!そして、地上を侵攻しようとしてるんだ!」
沙妃はブーメランを短剣に戻し、蟻二匹を相手に舞っていた。
「そして、こいつらがその露払いとして選ばれたのよ、きっと!」
「ってことは…やっぱりこいつら、全滅させないとダメだな!」
俺はそう答えつつ、技を放った。
「『火炎の衝撃を!』奥義 [フレイムポール]!」
炎と共に蟻を打ち上げ、燃やしつくした。




