第22話 失われた像
後で樹達から詳しく話を聞いたところ、次の町には、八勇者の筆頭であり、このセドラルの国を立ち上げた"勇人"のアモール・ペラスの「八勇者像」がある。その像には特殊な魔力が込められており、防人系種族の異人がお参りすると加護を受けられる、との事だった。
つまりは、俺のために行くのか。
そこまでしなくても…と思ったが、「八勇者の像の加護はなかなかバカにできない。受けといた方がいい」と言われてしまった。
像の加護…なんて、どれくらいの効果があるのかちょっとわかりかねるが、樹達の方がこの世界で暮らしてる時間が長いのだ。ここは信じてもいいだろう。
カーノを出てから4日ほどで、次の町…ミフィデルについた。
町の外れに馬車を停め、煌汰、柳助、猶、ナイアに残ってもらい、残りのメンバーで町中へ繰り出す事になった。
だが、町に出てすぐ、何やら町が騒がしい事に気付いた。
「なんだ…妙に騒がしくないか?」
猶も気付いたようで、他のみんなも同様だった。
「何かあったのかもしれないな…とりあえず、誰かに話を聞いてみよう」
柳助がそう言うと、すぐに樹が近くにいた人を捕まえて話を聞いた。
「失礼、ちょっと話をさせてもらえるか?」
「ん?ありゃ、なんだあんたら、旅人さんか?」
「ああ。なんか町が騒がしいみたいだけど、何かあったのか?」
「いやあ…この町の中央には、かつてこの国を作った勇者様の像があるんだけどな、今朝になってそれがなくなってたんだよ。それでみんな、大騒ぎしてるんだ」
「え、像が?まるまるなくなったのか?」
「ああ、台座だけ残してきれいさっぱり…な。昨日の夜までは間違いなくあったから、夜中に盗まれたんだろうって、みんなが言ってる」
「盗まれた…まあ、そうなるよな。けど、そんなこと、誰が何のために…」
「さあてな。おれとしては、あんなもん盗ってどうすんだ?って感じだけどな」
すると、樹は険しい顔をした。
「なんだ、あの像の力を信じてないのか?」
「いや、そういう訳じゃない。ただ、おれは人間だから、あの像の加護を受けれないから…」
「あ、そういう事な」
「詳しいことは、町長に聞いてくれ。今、あの像…のあった台座の前にいるおっさんだ」
「わかった」
しばらく行くと、上が平たくなってる石のオブジェがあった。
…いや、正確には像の台座、か。
で、さっきの男が言ってた通り、その前でぼんやりしてるおっさんがいた。
俺が声をかける。
「なあ、おっさん。あんたが町長か?」
「…?は、はい。私がこのミフィデルの町長です」
「俺達は旅人で、ついさっきこの町に来た所なんだが…勇者の像が盗まれたって本当か?」
「はい…この町には、勇人アモール様をかたどった八勇者の像があるのです。その像は、昨晩までは間違いなくここにあったのですが…今朝、町の者が像がなくなっている事に気付いたのです。それで今、町中が騒ぎになっておりまして…」
「そうか…何か、犯人の目星とかないのか?」
「それが、まったく。強いて言うとすれば、台座に像を引きずった痕跡がないので、浮遊魔法を扱える者が犯人だろう、とは考えておりますが…」
浮遊魔法、とはよくわからないが、おそらく字面通り物を浮かせる魔法だろう。
「なるほど。この町に浮遊魔法を使える奴はいるのか?」
「何名かおります。しかし、本人たちはみな知らないと言っておりまして…嘘を言っているのか、あるいは…」
町長は、頭を抱えた。
と、キョウラが台座に近づき、その真上の空中をじっと見始めた。
「…ん?何してるんだ?」
「魔力の痕跡を見ているんです。私は魔力の流れや痕跡を、目で見る事ができるので」
「魔力の痕跡?」
そう言えば、キョウラはそういう異能を持ってるって聞いたっけ。
「そうか、異能か。で、何かわかったか?」
「これは…少しばかり、変ですね。浮遊魔法を使った痕跡はありますが、魔力がほとんど残っていません」
「え、それってどういう…」
「つまり、犯人が像を盗んだ後、どこをどう通っていったのか追う事ができないんです。普通は、浮遊魔法のような魔法を使うと、対象物やまわりのものに魔力が付着します。そしてそれは、動かされたルートに沿ってしばらく残留するはずなのですが…」
「マジか…。わかった、町長さん、俺達も犯人を探してみる」
「!?協力して下さるのですか?」
「ああ。ちょうど、俺は防人で、その像を拝むためにこの町に来たからな」
「そうでしたか。では、何卒お力添えをお願いします」
「とは言ったが、どっから探せばいいんだ…?」
「うーん…とりあえず馬車に戻って、みんなの意見を聞こうぜ」
「そうですね。私達だけで考えても、仕方ありませんし」
「…それもそっか。よし、一回戻ろう」
今更だが、俺達が使ってるアレは、馬がいない。なのに、馬車と言えるのだろうか。
さて、とりあえず戻ってきて、みんなに経緯を説明する。
すると、すぐにナイアが食いついてきた。
「そういう事なら、私がなんとかできるかも」
「え?」
「私、[託宣]って異能を持ってて、精霊っていう存在を呼び出して、知りたい事とか、それにつながる手がかりを教えてもらう事ができるの」
「おお!じゃあそれを使えば…」
「うん…像を盗んだ犯人か、それにつながる手がかりがわかるはず」
すると、キョウラがこんな事を言った。
「なら、信憑性はありますね。精霊は、私達がいつも信仰を捧げている対象の一つですから」
「あ、そうなの?…とにかく、試してみるね」
そして、ナイアは座ったまま目を閉じた。
数分後、ナイアは目を開けた。
「どうだった?何かわかったか?」
「犯人そのものはわからなかった。けど、3つの手がかりを聞き出す事ができた」
「ほう?」
「一つ、犯人はこの町の者ではない。
二つ、犯人は人間。
三つ、犯人はここからさほど遠くないどこかの町に隠れている。
わかったのは、以上三つね」
「ふーむ、ヒントがないよりましだが…わかりづらいな」
柳助が腕を組んで唸った。
「人間…って、像は…まあ何で出来てたにしろ、おおよそ人間が持てるような重さじゃないよね?一体どうやって…」
「いや、だから浮遊魔法使った、って言ってただろ」
「…あ、そうだっけ。でも、やっぱり人間が盗む理由がわかんないよ」
「誰かが指示したのよ…恐らくは」
ナイアが言うと、煌汰はハッとした。
「確かにそれなら説明つく…けど、誰が?」
「それはわからない。でも、なんとなくだけど…話し合いでなんとかなるようなヤツではないと思う」
「俺もそう思うな。八勇者の像を誰にも気づかれずに、かつ痕跡をほぼ残さずに盗んでくなんて、ただ者じゃない」
「とにかく」と、俺は言った。
「今俺達がすべきことは一つだ。みんな、わかるよな?」
「ああ。行こうぜ…こそ泥捕りに」
「じゃ、すぐに出発しよう。近くの町って、どこにある?」
「ここから一番近いのは…東の山の麓にある町だな。とりあえず、行ってみようか」




