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第21.5話 拠点会話・ナイアと樹

姜芽たちの旅。大まかな目的はあるにせよ、行き先もルートもほとんど決まっていない、気の向くままの旅。

それは、この日のためと言わんばかりに作られていた不思議な馬車を拠点とし、彼ら7人の他に1人の修道士と防人を加えて始まった。



今回新たに一行に加わった、防人のナイア。

彼女は町最大の酒場「カトル」のオーナーの娘であり、父親とは似ても似つかぬ美貌とやや強気な性格の持ち主だ。

そして、その美貌と性格には見合わないほどどんよりした男と交際しているということで、町では有名になっている。


さて、彼女はこのチームと拠点に馴染むのはすぐだった。

今も、拠点内の一室で実家にいた時のように自主訓練を始めるため、必要なものを運んでいた。


「なあ、それ重くないか?」

彼女に声をかけてきたのは、樹だった。

「え、重いって?」


「そんないろいろ持ってたら、重くて歩くの大変だろ?」

ナイアは今、手には訓練に使う木製の人形と鉄製の人形を抱え、さらに大剣を背負っている。

人形はどちらも人間大なので、傍からみればかなり重そうに見えるだろう。というか、実際そうだ。


「いや、そうでもないよ」

ナイアがそう答えると、樹は驚いた。

「え…マジで言ってんのか?」


「そんなびっくりするようなこと?」


「いや、魔力を使えば楽だよ」

すると、樹はまた驚いた。

「…え、魔力で重さ殺せるのか?」


「そりゃね。え、まさか知らないの?」


「いや、そうじゃない…防人が、そんなことできるんだなって…」

この世界では、武器に魔力を通すことで使用者に感じられる重さを軽減し、扱いやすくできる。武器自体の質量が変わるわけではないため、威力が下がったりはしない。

これは「武器軽量化」と呼ばれ、非常に有用かつ重要なテクニックとして認識されている。

しかし、これを知らない、またはできない異人も少なくなく、特に魔力が控えめな防人や戦士はこの傾向が顕著である。

そのため、樹はナイアがこの「武器軽量化」を使えることに驚いたのだ。


「まあ確かに、防人はこれができない人も珍しくないって言うね。でも、私は術もそれなりに行けるから、武器の軽量化はできるんだよ」


「へえ…いやまあ大剣なんて重い武器を振り回せるくらいだから、めっちゃ腕力あるんだろうな…って思ってたけど、そういうことなんだな」


「っ…。私に、そんな馬鹿力があるように見える?」


「…確かに、見えないな」


「あと、私は大剣だけじゃなくて斧も使えるからね」


「やっぱりヘビー級の武器じゃねえか。…となると、術は何を使えるんだ?」


「風だね」

武器には大剣と斧を扱い、術は風属性を扱う彼女は、防人には珍しく物理も魔法もある程度扱えるタイプなのだ。


「風か…うちのチームだと、猶も風を使えたな。けどあいつは短剣使いだし殺人者だ、ナイアとは違うな」


「え、殺人者?このチームに殺人者いるの?」


「…まあ、猶は悪い奴じゃないし、悪さも基本働かないから大丈夫だ…たぶん」


「信憑性ないんだけど」


「と、とにかく大丈夫だ。猶はオレたちの昔からの知り合いだし、話のわかる奴だから」


「ふーん…」

ナイアの歯切れの悪い反応とその表情から、樹は何かを感じとった。


「なあ、もしかして…殺人者に、何かされたことがあるのか?」


「私自身が何かされた…ってわけじゃないけどね。昔、奴らに店を荒らされたことがあるんだ。夜も遅くなってきて、そろそろ閉めようか…って親父と言ってた頃に、いきなり3人の男の殺人者が押し入ってきた。その時はなんとか私が全員追い払ったけど、それ以降殺人者を見るとそれを思い出すんだよね…」


「1人で3人を追っ払ったのか?すげえな…」


「あの時は必死だったからね。今だったら、たぶんできない。火事場のなんとやら…ってやつだったんだろうね、今思うと」


「かもな」

大陸の各地に存在する異人、殺人者。

他者を傷つけることを厭わず、戦闘力が高い種族だが、彼らの大部分は、当たり前に働いて生きるということができず、略奪や盗みを働く賊として生活している。

山賊などと同様、襲われて撃退できなければ全てを奪い取られることになるが、並の賊より強く数も多いためその脅威は山賊の比ではない。

それを1人で、一気に3人を撃退したというのは、ナイアの実力が垣間見えるエピソードと言える。

しかし、当の本人は自身にそこまでの実力があるとは気づいていないのである。


「で、その時から…ってわけじゃないけど、私は毎日自主的に訓練してるんだ。技と術、どっちも実力がなまることがないようにね」


「そりゃ偉いな。…あんた、美人さんなのにやってることが強者のそれだな」


「そうかな?あと、私はそんなきれいじゃないよ。この見た目はただ、母さんから受け継いだだけだし」


「そんなことないぜ。…あ、そうだ。そんなもの持ってるってことは、これから訓練するんだろ?なら、オレも一緒にやらせてくれないか?」


「え?別に、いいけど…」


「っしゃ!行こうぜ!」



その後、樹はナイアと共に訓練をした。

ナイアは、せっかくもう一人いるのだからと実戦形式の訓練を申し込み、樹はこれを承諾した。

ナイアは大剣のほか、時に斧や術も使って樹と手を合わせたのだが、いずれも樹の予想以上の実力だった。

風属性は軽い武器を扱う者の属性というイメージがあった樹にとって、大剣や斧を用いる風使いというのは斬新だった。

そして同時に、風というものは鈍重な武器にとっても良きサポーターになるのだということを知る、いいきっかけにもなった。

ナイアは大剣や斧を振るいつつ、離れたところを風で攻撃するという戦法を得意としていたからである。


彼女の奥義も2つほど拝むことができた。

『風よ、斬り裂け!』という叫びと共に繰り出される[斧業・風月(かざつき)返り]は姜芽も使っていた「ブレイクムーン」に似ていたが、直前に斧を後ろに構え、風をまとわせるという違いがある。

また、その次に出された[剣業・大盤振る舞い]は『パーティーの時間ね!』という叫びと共に大剣を地面に叩きつけ、無数の小さな竜巻を起こして広範囲を攻撃するというもの。

どちらも結構な威力があり、これなら戦力として十分だと樹は判断した。


そして、同時に実戦でこれらの技を見られる日が楽しみだな、とも思った。


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