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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
1章・始まり・セドラル

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第20話 新たな仲間

事件の後、俺達は5日ほど町に滞在した。

そして6日目、いよいよ明日から次の町を目指して旅立つ事になった。


早速、酒場でその旨を報告した。

「マスター、今まで世話になった。俺達は、明日の朝には次の所に行く」


「そうかい…残念だが、まあ仕方ないね。あんたらにはやらなきゃない事があるんだろ?」


「まあ…明確な目的があるわけじゃないんだ けどな…」


「ははっ、そうですかい。いいねえ、行くあてのない旅。それこそ、この世界の醍醐味ですよ。平和な世界をさすらって、いろんな異人と出会って、戦って…。私も、若い時はあちこちでいろいろやったもんです」


「親父は勘当されたんでしょうが」


「ぬっ、過程はどうあれ結果がすべてだ。あの時した経験の数々…あれらは、間違いなく有意義だった!」


「行く先々で呑んだくれて、女に手出して…それが有意義だっての?」


「余計な事を言うな!」


そんな二人に、樹は笑いかけた。

「素敵な親娘だな、まったく…」

すると、ナイアは樹を見て、

「あんた達さ…くれぐれも親父のスイッチを入れないでよね。こいつは自分語りを始めると止まんないんだから」

と、釘を刺した。


「へいへい。ま、冒険好きなのは良いことだと思うけどな。…あ、青ワイン一杯」


「はいよ」


なんか、和やかだ。

これこそ、異世界の酒場…といった感じがする。


やがて、煌汰の言葉からロイゼンの話題になった。

「そう言えばさ、ロイゼンは結局何者だったんだろう?」


「確かに。隠者なんて種族は聞いたことないし、どっかの誰かが化けてたんだろうけど」


「ゲノーラの連中の撤退も決まったし、もう現れないかもしれませんね。そう考えると、ちょっと残念です」


「てか、なんかエルアイ…って出てきたよな。あいつは何者だったんだろう」

俺がそう言うと、ナイアが呆れたように言ってきた。

「え、知らないの?」


「ああ…ロイゼンの方は2回くらい見たんだけどな」


「…あ、そっか。あんた達はまだこの町に来て日が浅いんだもんね…私達は、結構エルアイに会ってるんだけどね」


「そうなのか?エルアイって、どんな奴なんだ?」


「ロイゼンとほぼ同じような感じだよ。ただ…なんとなく、女のような気がする」

すると、樹が反応した。

「マジか!ああ、もう一回会ってみたいな…そして、確かめてやる!マントの下が、スタイル抜群の美女かどうか!」


「ヒーローに何を期待してんのよ。それに彼らは、親父の言った通り、もう現れることはない。あの二人は、あくまでもゲノーラ商会の連中を制裁するために出てきてたんだもの」


「そうか…そりゃ残念だ」


「残念がる理由よ。てか、女好きの男って、基本ろくな奴いないのよね」


「まあ、そこは何とも言えないな」

俺が便乗してそう言うと、

「はあ…!?そりゃどういう意味だよ!」

と、樹は喚いた。


「さあてな。それより、そろそろ会計頼みます」


「はいよ。いつもありがとうね」





その日の昼過ぎ、誰かが俺達の馬車に訪ねてきた。

誰かと思ったら、なんとナイアだった。

俺はにわかに驚きつつ、中へ入れた。


「おう。誰だった?…ってえ?誰だその女?」


「酒場の娘だよ。この所、何かと話す機会があってな」


「そうか。で、そのお嬢さんが何の用だ?」


「それを今から聞くんだよ。ここ、座ってくれ」


「ありがとね」

そして、ナイアは俺と猶と向き合って座った。


「で、どうしたんだ?」


「あなた達さ、明日から旅に出るんでしょ?だったら、私を一緒に連れてってくれない?親父にはもう言ってあるからさ」


「…えっ?」

するとナイアは、実はね…と真剣な顔つきで話しだした。

「私、昔から、一度旅をしてみたい、って思ってたのよ。色んな仲間に囲まれて、流浪の旅をする…そんな生活に憧れてたの。だから、店であなた達の話を聞いた時、心の底から羨ましく思った。

多くの仲間と苦楽を共にする、長い冒険の旅…一度、そんな経験をしてみたいの。

だから…お願い。私を、仲間に入れて」


ナイアは、そう言って頭を下げてきた。

「うーん…これは…どうする…?」

こんなことまでされて、断るわけには行かない。

だが、俺の独断で入れていいのだろうか。

猶に意見を乞うた所、「別にいいんじゃね?」とあっさり答えてくれた。


「ちょっと待っててくれ」


俺は自室にいたみんなを呼び、状況を説明した。

そして、ナイアを仲間に入れるか、という話題に入った途端、樹が「いいだろ。居させる所もいっぱいあるんだし」と言ったのをきっかけに、

「そうだな。仲間は多いに越したことはない」


「いいじゃん!同行するメンバーが増えるのは純粋に心強いしさ!」


「そうだよ。女の子がキョウラだけってのもアレだし」


「私も賛成します。同行して下さる方が増えるのは、素直に嬉しいです」


と、みんなが一斉に喋り出した。


「…うーん!」

俺は頭を押さえ、そして、きっぱりと言った。


「よっしゃ!じゃ、ナイアは新しい仲間ってことで決定だ!」


みんなが歓声を上げた。

そしてナイアは、

「ありがとう。私はナイア・ラグホーク、防人。武器は…斧と大剣なら使える。みんな、宜しくね」

と、頭を下げた。





かくして、新たにナイアが仲間に加わった。

これからは、8人で旅をすることになる。

ナイアは荷物をまとめてきていたので、普通に部屋をやるだけで済んだ。

さらに、今日の夕食はナイアが作ってくれるという。

「これから世話になるんだし、その挨拶も兼ねてね」との事だ。

ちなみに、キョウラも手伝うらしい。



リビングで夕飯の完成を待っている間に、俺は樹と猶と話していた。

「しかしよ…酒場の続きになっちまうけどさ、ロイゼンとエルアイは結局何者だったんだろうな」


「さあな…」


「いや、お前ら…逆に気づいてないのか?」


「え?」


「猶はわかったのか?」


「ああ…みんなして、広場でよろしくやってる時にな」


「マジか!誰なんだ?」

妙に元気になる樹。

しかし、猶は気にせず続けた。

「その前に、リベルって知ってるか?」


「リベル…?あ、こないだ酒場の奥にいたやつか」


「そう、そいつだ。あいつ、いつもあそこにいるみたいなんだ。で、俺は時々あいつを見てたんだが、町にロイゼンが現れる時は、あいつがいなくなってた」


「え…?」


「あ、あとついでに言うと、エルアイが町にいる時はあの酒場の娘がいなくなってたな。

…まあ、あの二人は付き合ってるって言ってたし?どこで、ナニをしてるのかは知らねーけどな」


「…」

なるほど、そういうことか。

敢えて答えは言わないようだが、もうわかったようなものである。

とすると、ナイアには少しばかり期待が出来そうだ。

てか、彼氏の方には旅に出る事を言ってあるんだろうか。



それから程なくして、ナイアとキョウラの手料理が運ばれてきた。

キョウラは料理の腕は並程度らしいが、それにしてはなかなか美味だった。

まあ、ナイアがいたから…という説もなくはないが、さすがにそれを考えるのは野暮だろう。


ひとまずは、美味しくいただいた。

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