第18話 町が為に
馬車に戻り、みんなにロイゼンの活躍を見たこと、それで感じた事をありのまま話した。
ほぼ全員が俺に同意してくるかと思いきや、意外にそんな事はなかった。
「いや、ヒーローってそんなもんだろ」
「寧ろ地味なヒーローの方が面白みがないってか、つまんないよね」
なんなら、俺の意見は潰されたまである。
この世界の連中は人間界とは考え方…というか感性も違うのか。
いや、でもこいつらは俺と同じ、元人間界の住人であるはずなのだが。
「あれ、ところで樹は?」
煌汰の言葉でふと気付いた。
確かに、樹だけがいない。
「私と一緒にいたのですが、戻る際に先に行ってろと…」
キョウラがそこまで言った時だった。
「…みんな!いるか!?」
妙に慌てた様子で樹が駆け込んできた。
「遅かったな」
「そんなに慌ててどうした?」
「町の北に…異形の群れが襲ってきた!」
途端に、場の空気が緊迫した。
「…本当か!」
「ああ…町の人達が戦ってるけど、数が多すぎる。みんなで援護に行こう!」
「はい!」
キョウラが、いつになく力強く言った。
町の北口に行くと、すでに10人くらいの人達が武器を手にしてスタンバイ…いや、戦闘していた。
敵は、セドラルの洞窟にいたのと同じような獣人型の異形。
人々は剣や鎌などで異形とやり合っている。
この世界での人間はどうなのか知らないが、町に敵が来た時にああして一般人が率先して迎え撃つというのは、人間界のフィクションではなかなか見ない光景だ。
防人という種族は、名ばかりではないようだ。
「やってるな…行くぞ!」
猶は短剣をブーメランのように投げ、輝は弓を射る。
残りの面々は、町の人達と同様に異形の近くまで踏み込んで戦う。
無論、俺もその一人だ。
「[水平割り]」
斧を横に振るい、広範囲の敵を攻撃する。
さらに、光魔法も使う。
「光法 [スコールフラッシュ]」
これは今使った技と同様、広範囲に攻撃できる。
そして、たった今新たに閃いた技も出す。
「斧技 [ミキサーボウル]」
斧を横に振り回して全方位を攻撃し、最後に敵に斧を投げつける。
そして斧が戻ってきたら、一度下に下げてから振り上げる。
「斧技 [登り割り]」
この数秒間に魔法を一つ、技を二つ出したが、それでもまだ足りないくらいだった。
何しろ、敵の数が多いのだ。
「まだか…」
思わず、そうつぶやいた。
横に目を移すと、煌汰が奮闘していた。
「[隼返し]」
一体の敵を剣で2回切りつけて倒し、
「[裏返し]」
相手の背後に回って払い抜ける。
さらに煌汰は、手に鋭い氷を作り出し、それを敵目掛けて飛ばした。
「氷法 [ブリザーショット]」
詠唱が聞こえたから、やはり氷の魔法であるようだ。
魔法を唱え終わった所に、異形が高々とジャンプして飛びかかってきた。
そこで煌汰は、
「氷法 [針氷樹林]」
先端が鋭い氷でできた木のようなものを複数作り出した。
異形はそれに刺さり、血を撒き散らして動かなくなった。
「…おっと!」
俺は俺で、しれっと近づいてきてた狐みたいな顔をしたやつが棍棒を振り下ろしてきたのを躱し、反撃する。
斧で顔を切りつけてやると、一撃で倒せた。
たかが棍棒と言えど、異形が使う武器だ。当たればそれ相応の威力がある。
…と、俺の中の何かが言っていた。
他にも柳助はハンマーで地面を叩いて地割れを起こし、そこに異形を複数体まとめて落としたり、樹は水を広く滝のように降らせたりと、やはりみんな広範囲を攻撃できる技や魔法で攻撃していた。
もちろん、キョウラもめちゃくちゃ頑張っている。
遠慮なく魔法をドカドカ打ち込み、次々に異形を倒していく。
さらに、キョウラは負傷した町の人がいればすぐに回復し、とにかく誰も死なせないように尽力していた。
町の人達も、なんかよくわからないが、とにかく技とか魔法を出して異形をなぎ倒していた。
この異形達が弱いのか、それともここの人々が強いのかわからないが…。
そうして、ついに最後の一体を俺が倒し、異形の群れは全滅した。
「終わった…のか…?」
「ああ…勝ったぜオレ達…!」
樹がそう言うと、町の人達も口々に喜びの声をあげた。
「やった…やったぞ!」
「異形がいなくなった…オレ達の勝利だ!」
「町を…みんなを、守れたのね!」
「そうだ、みんなでこの町を守ったんだ!」
柳助がそう言うと、人々は俺達を見て感謝の言葉を述べてきた。
「ありがとうございます…助けて頂いて!」
「いやいや、大したことはしてない。あの程度の異形を倒せなきゃ、話になんないしな」
「異形と戦い、立ち向かうのは当然の事だ」
「なんとなーくやったことなんだが…そんなに感謝されるようなことしたか?」
樹、柳助、猶がそれぞれ違う反応をした。
「ねえ、あなた達!」
駆け寄って話しかけてきたのは、ナイアだった。
「ん?どうした?」
「あなた達、強いじゃない。町を守ってくれて、ありがとうね」
「いや、だからそんな大した事はしてないって…」
樹は明らかにデレていた。
「しかしよ、こういう時に隠者ロイゼンは現れないのかねえ」
猶が呆れたように言った。
「それは仕方ないよ。彼が駆けつけるのは、あくまで町の中でのトラブルだからね」
「そうか…まあでも、みんな無事なんだよな?」
「ええ。あなた達の仲間の修道士さんのおげでね」
「ならよかった。さあ、帰ろうぜ」
猶は、たぶん早く帰りたいのだろう。
翌日、俺は酒場にいた。
ナイアとマスターと樹で、昨日の件について話していたのだ。
「いやー、あいつらホント、数が多くてさ。この人達がいなかったら、危なかったわ」
「はっはっは、そうか。いやー、お客さん。あんたら、やるね。びっくりしちまったよ」
「そりゃ、オレ達は手慣れの冒険家だからな。ところで…」
樹は、店の奥で椅子に座ってぼんやりしている男に視線を移した。
「なあ、あいつは何なんだ?」
「彼はリベル。私の彼氏よ…一応ね」
「あ、そうなのか。でも、なんか顔色悪くないか?」
「彼はこの所、体調が良くないみたいでね…丈夫な人だから、大丈夫だとは思うけど」
そこに、マスターも入ってきた。
「あいつは昔から娘と仲良しでしてね。いつかは付き合ったりするんじゃないかなー、なんで思ってたんですが、まさか現実になっちまうとはねえ。いやー、世の中何があるかわかりませんなあ!」
「うるさいわね。つーか、告ってきたのはあいつの方だし」
「はは、そうか。だがな、わしはお前が望むならあいつとくっついてもいいと思っとるぞ?」
「余計なお世話だよ。まだあいつとくっつくって決めた訳じゃない」
そんな会話をしていたら、急に表が騒がしくなった。
「なんだ、うちの店の前で?」
マスターがそうぼやくと、ナイアが動き出した。
「見てくる。あんた達も、来てくれる?」
「ああ」
「だな」
ずっと座って酒を呑みつつ話すのもいいが、何かコトが起きる気配があったら動くのが冒険家というものであろう。
外に出ると、一人の青年が広場で喚いていた。
「みんな、聞いてくれ!ゲノーラ商会は、とんでもない極悪会社なんだ。盗まれた物でも平気で売り買いしてるし、麻薬の売買だってしてる。オレは昨日、奴らの麻薬の運び屋をやらされかけた!
だからこそ言える…奴らを、この町から追い出そう!そうしないと、この町は…!」
その時、4人ほどのいかつい男達が現れて青年に飛びかかった。
奴ら…昨日路地裏にいた奴らと同じ格好だ。
あれが、ゲノーラ商会の警備員か何かの制服なのだろうか。
「てめぇ、何ぬかしてやがる!」
「っ…!」
白昼堂々、青年が男達に暴行されているにも関わらず、町の人達は黙って見ているだけだった。
いや、昨日みたいに立ち向かえよ…と思ったのは俺だけではなかったらしく、
「なんで動かないんだ…こうなったら、俺が行ってやる!」
柳助が一歩前に踏み出した。
その時、サッと何かの影が地面を横切った。
その正体は…
「あっ、ロイゼンだ!」
誰かが叫ぶ。
「なにぃ、ロイゼンだあ!?」
男達は、一斉にの一軒家の屋根の上のロイゼンを見た。
「私は隠者ロイゼン…この町の平和を守る者!悪党どもよ、私が相手だ!」
そして、ロイゼンは地上に舞い降り、男達と乱闘を始めた。
普通に押してる…と言いたい所だが、あいにくそうでもない。
何なら、むしろ押されているまである。
「やばい…頑張ってくれ、ロイゼン!」
人々はやっと、ロイゼンへの声援を送り始めた。
だが、もはや無駄かもしれない。
そして…
とうとうロイゼンは追い込まれて川に転落、あっけなく捕まってしまった。




