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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
1章・始まり・セドラル

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第16話 防人の町

翌朝目覚めた俺は、すぐに机上のベルを叩く。

こうすると、輝達に起床が伝わる仕掛けらしい。

ベル…というか見た目はほぼ完全に店にある呼び鈴なのだが、これで本当に伝わるんだろうか。


そう思いながら押すと、リーンという音が鳴った。

本当に呼び鈴じゃんか。

「…これでいいんだよな」

詳しい理由はわからないが、昨日、明日朝起きたらこれをやってくれと言われていたのである。

まあ、困る訳でもないし、いいかなとは思うが。




リビングに行くと、すでにみんな揃っていた。

「お、来たな」


「おはようさん。そんじゃ、朝飯にしようぜ」


「まだ、食ってなかったのか」


「お前を待ってたんだよ。(ひかる)(いつき)がそうしたいって言うからな」


「…そうか。そいつはすまなかった」


「いいってことよ」



朝食として運ばれてきたのは、レタスとトマトのサラダ、それにたまごのサンドイッチだった。

ずいぶん簡素な食事だが、まあ異世界っぽい…のだろうか?


味の方はというと、なかなか悪くない。

「どうだ?そこそこだろ?」


「だな…」


「今日のはオレと柳助が作ったんだ。家にいた時と同じように、毎日二人ずつ、交代制で作る事にした。…あ、そうだ、姜芽は明後日の担当にしたんだけど、大丈夫か?」


「?ああ。俺は自炊は出来るしな」


「そうか。なら大丈夫だな。

…しかしすごいな。姜芽、人間界でちゃんと自炊してたのか。龍神なんか、料理はまるでダメなのにな」


「龍神?…あー、確かにあいつはそうかもな」

『チーム・ブレイブ』の中で唯一ここにいないメンバー…望月龍神は、俺の知る限りめちゃくちゃ不器用で、料理というか読書とゲーム以外はほとんどダメダメだった。

そういえば、今は冥月龍神って名前に改名して、あちこち放浪してるらしいが…色々と大丈夫なんだろうか。


「あれ、そう言えばあいつに連絡はしたのか?」


「大丈夫だ、俺がしといた」

(なお)が龍神に連絡したらしい。

「なら大丈夫そうだな。あいつもいつ帰ってくるかわかんないからな…」


ここで、キョウラが口を開いた。

「あの、その方は旅がお好きなのですか?」

それに答えたのは煌汰。

「…まあ、そんな感じじゃないかな」


「その方、お一人なんですか?」


「うん、あいつはいつも一人だ。でも、大丈夫だと思う。あいつは何考えてるのかわかんないけど、なんやかんやで強いのは間違いないから」


「そうですか…ところで、目的の町にはいつごろ着きそうですか?」


「もうすぐだと思う。輝が朝起きてすぐに出発させたみたいだから」


「…あ、夜止まってたのか」


「夜は異形の活動が活発になるからね、変に動くより止まってた方が安全なんだ」


「なるほど」





それから2時間もしないうちに町についた。




「ついたぞ!」

樹の声と共に、俺達は馬車を降りる。

そこは一見普通の町だったが、セドラルとはどこかが違った。

建物の感じはそうでもないのだが、道行く人たちの雰囲気がなんか違う。


この違和感が何なのか、樹に聞いてみた。

「なあ樹、なんかこの町…変な感じがしないか?」


「そうか?」


「ああ、なんというか…住んでる人たちの雰囲気がセドラルと違うんだ。これ、何なんだろう?」


「あー、そういうことな。それは多分、この町の住人が姜芽の同族だからだよ」


「同族…ってことは、防人なのか?」


「この町は防人の町なんだ。まあ、実際には住人は人間と防人が半々らしいけどな」


「へえ…」

言われてみれば、通行人を見ていると、なんとなく人間だとわかる人と、そうでない人が存在している。

人間でないのは、俺の同族であるのだろうか。



とりあえず情報集めをすることにした。

具体的には、とにかく町の人たちから話を聞く、というものだ。

単純だが、馬鹿にできない。

人の話をちゃんと聞くのは、RPGの基本だからな。


通行人を適当につかまえて話を聞いた所、最近町に現れているという謎のヒーローについて詳しく知ることができた。

ヒーローは隠者ロイゼンと名乗る謎の人物で、紫の仮面にマントという姿をしている。

声は中性的で、性別はよくわからない。

そして、数年前からこの町を牛耳っている「ゲノーラ商会」という豪商の連中がいるのだが、ロイゼンはこいつらを成敗してくれるのだという。


町の人たちは「隠者ロイゼンカッコいいなー」とか、「ロイゼンが現れるようになってから、みんな活気が出てきたよ」なんて言っていた。


昼前に馬車に戻ってきて情報整理をしたのだが、柳助は何やら考え込んでいた。

「ゲノーラ商会…か」


「なんか知ってるのか?」


「ゲノーラ商会は、かなり昔からこの地方で勢力を振るってる商人の一族だ。

何なら、大陸でも指折りの富豪なまである。

そんな連中が町を守ってくれてるのに、なんでみんな嫌がってるんだ?」


「やつらは裏で違法な物の売買とか犯罪組織の片棒を担いだりしてるらしい。だから町の人たちはみんな、ゲノーラの連中が嫌いなんだってさ」

全員が煌汰を見た。


「それ、本当か?」


「町の人から聞いた話だけどね。ただの噂話か、それとも…」




昼食を済ませ、しばらくみんなで自由行動することになった。

俺は、酒場で少し話を聞いていた。


店主は、大柄なハゲ頭の男。

「いらっしゃい。お、お客さん、見かけない顔だね。外から来た防人かい?」


「ああ。ここの連中は俺の同族だよな?」


「そりゃねえ。なんせ、この町は防人の町ですからねえ。ま、半分くらいは人間なんですけどね」


「そうらしいな」

俺は、注がれた酒をぐいと呑んだ。

まあ、悪くない。


「ところでお客さん、隠者ロイゼンを知ってます?」


「なんかそういうのいるらしいな」


「そうなんですよ。隠者ロイゼン。あいつはちょくちょく現れては、ゲノーラ商会の連中に一矢報いてくれるんです。どこの誰だかは知らないですけどね、まあスッキリしますよ」


「それも聞いた。ていうか、そのゲノーラ商会ってのは悪いやつらなのか?」


「ええ。やつらは数年前にこの町にいきなり来て、物の流通ルートをことごとく乗っ取っちまったんです。おかげで、この町で商売をやるにはやつらのご機嫌を取らなくちゃない。うちの店だって、もう長い事ここでやってますが、やつらのせいでどれ程苦しんでることか…」

まあ、ここまでは正直、典型的な悪徳豪商といった感じだ。

「しかもね、やつらは犯罪に手を染めてるって噂もあるんですよ。なんでも野盗の一団と裏で手を組んでるらしくて、密かに麻薬や盗品なんかを売りさばいてるそうです。

まあそうじゃなくても、うちらはやつらが嫌いなのに変わりはないですけどね」



と、マスターの背後の扉が開き、黒髪ロングヘアーの女が現れた。

「おお、なんだ帰ってたのか。一言言ってくれればよかったのに」


「店に出てるのにそんな事言えるわけないでしょ?…あ、珍しい。外のお客さんいたんだ」


「こら、失礼だぞ。…いやはや、これは失礼しました。こいつはうちの娘なんですが、いかんせん礼儀知らずでしてね。全く、もう17歳にもなるのに、困ったもんですよ」


「親父こそ、余計なお世話ばっかりかけてくれるじゃん。私はもう一人前の大人だよ」

そして女は、俺を見てきた。

「へえ、同族さんか。見かけない顔だね…どこから来たの?」


「セドラルからな」


「ふーん。私はナイア。あなたは?」


「俺は姜芽だ。仲間と一緒にあてのない旅をしてる」


「仲間…ねえ。防人なのに旅するなんて、物好きだね」

マスターが「お、おい!」と止めたが、女は気にしていない。

「そりゃ、どういう意味だ?」


「防人は普通、家族とか友達を守る事を最優先にするもの。目的もない旅に出るなんて、そんな事する奴はあんまりいないよ」


「そうなのか?いや、実はな、俺は人間界から転移してきたばっかりでな。この世界を色々と見て回りたいんだ」


「あ、あんた白い人(パパラギ)だったのね。なら…そう…なるほどね。この世界もなかなかだから、せいぜいお仲間と楽しんでね」


「こ、こら、ナイア…!」

マスターが小言を垂れ流すが、女はそれを完全に流していた。

ここまでスルースキルがあるのは、ある意味羨ましい。

「素敵な親娘だな、はは…」

俺は、特別な作り笑いをした。







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