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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
1章・始まり・セドラル

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第15.5話 キョウラと樹

姜芽達の紅一点にして唯一の魔法種族であるキョウラことキョウラ・リエス。

生まれた時から修道士である彼女は、その8割近くが北の砂漠の国サンライトで生まれる魔法種族にしては珍しく、セドラルの生まれだ。

母はサンライトの出身であり、またそのサンライトの高位の司祭でもある。


キョウラは、サンライトの国家に正式に所属している司祭である母を尊敬している。

いつか、私もお母様と同じ、人々を救う心優しき司祭になりたい…。

それが、彼女のささやかな目標であったりする。


さて、そんな彼女は、修道院の外で集団生活をするのは初めてだ。

果たして、どのような生活を送るのだろうか。





ある日の昼下がり、キョウラは壁に向かって祈っていた。

「カトリア様。偉大なる、司祭カトリア様…」

カトリアとは、かつて異形の王を倒した八人の異人、八勇者の一人にして、大陸の北方にサンライトの国を開いた司祭。

すべての魔法種族にその偉大さを知られている存在であり、特に修道士にとっては崇拝の対象でもある。

そして、修道士はこうして日々カトリアの名を呼んで祈りを捧げるのだ。


「カトリア様…どうか、私がこの生活に馴染めますように。どうか、私があの方々の邪魔になることがありませんように。どうか、私に活躍の機会がまわってきますように…」

目を閉じ、切実な願いを口に出すキョウラ。

彼女にとって、これから始まる生活は不安と緊張でいっぱいだったのだ。


しかし、それを打ち壊すようなイベントが、この後起きるのだった。



「キョウラさん!」

拠点内の、ある公共スペース。

そこで、キョウラは樹に出会った。


「あっ、樹様…」


「様、なんてよそよそしいな。ま、そういう呼び方されても悪い気はしないけどさ」


「そ、そうですか…?」


「普通にさんづけでいいと思うぜ。まあ修道士にはいろいろ掟とかあるんだろうし、そういう事情があるんだったら干渉しないが」


「いえ、別にそういうわけでは…ただ、なんというか、癖で…」

修道院内では、上の種族や階級の者には「様」をつけて呼ぶという決まりがあった。

キョウラは長らく院内で生活していたため、その癖が抜けていないのだ。


「あ、そういうことか。ま、それならそれでもいい。…それより、今ヒマか?なら、一杯やらないか?」

樹はあろうことか、魔法のかかった小さな酒樽を持ってきていた。


「いえ、遠慮しておきます。私は、戒律で飲酒ができないので…」


「ありゃ、そうか。…まあいい、それじゃあな」


どこか残念そうにしながら去る樹を見て、キョウラは申し訳なく思った。

種族としての戒律は守らねばならない。だが、それがために人と関わる機会を失ってしまうのは、仕方のないこと…なのだろうか。





数日後。

樹は、またもやキョウラの祈りが終わる頃に現れた。


「なあ、キョウラさん。ひとつ、協力してくれないか?」


「何でしょう?」


「町の人から受けた依頼なんだが、町の近くに悪魔系の異形が出没してるらしくてな。一人でやるとちょっと時間かかるから、助けてくれないか?」


「もちろんです!」

光を専攻する種族であるキョウラにとって、闇と異形は宿敵と言える。

特に後者は、人間や異人に害をなす存在であるため、迅速かつ早急な討伐を心がける必要があるのだ。


「おっ、やってくれるか?じゃ、行こう!」





「[フラッシュ]!」

キョウラが光魔法を唱えると同時に、異形はすべて消え去った。


「おおー!片付いたな。やっぱり一人で来なくてよかったぜ!」

樹は、キョウラの方を見た。


「キョウラさん、結構範囲攻撃できるんだな」


「光魔法と白魔法は、共に広範囲の攻撃魔法が多いので…」


「いやー、いいな。剣なんか使う必要ないよ。魔法だけで、全然頼りになるぜ!」


「そうでしょうか…」

いや、樹の言う通りではある。

もともと修道士は、光と白の魔法による攻撃やサポートが得意な種族であり、武器を使った肉弾戦には適性はない。

ただ、彼女は剣士と呼ばれる騎士の家系に生まれたので、剣の腕がある程度あるだけだ。


「そういや、キョウラさんは剣士の騎士の家系の出だって言ってたよな。親がそうなのか?」


「いえ、私の両親は防人と司祭です。父が防人で、母が司祭でした。騎士だったのは、父方の祖父母です」


「あ、そういうことか。…あれ、てことは騎士から防人が生まれたのか?」


「はい。そしてその防人である父と、司祭である母が結ばれて生まれたのが私です」


「…すげえ家族だな」

親と異なる種族の子供が生まれる現象、『チェンジリング』は珍しくはないが、2代に渡って、それもまったく別の種族で起きるというのは珍しい。


「ですが、そのおかげで私は剣の腕を保証された修道士となることができました。この境遇に酔いしれず、これからも精進しようと思います」


「たくましいな。剣を使えるシスターかあ…」

樹は、目を泳がせた。

ちなみに、シスターとは女性の修道士の別名であり、聖女という呼び方もある。


「樹様?目が泳いでいますが…」


「あっ!?ああ、なんでもない。さあ、戻ろうぜ。町の人達への報告は、オレがやっておく。キョウラさんは、先に戻っててくれ」


「わかりました」

そして、キョウラは馬車に戻った。



しばらくして、樹は3000テルンの金貨を持って戻ってきた。

彼はそれをすべて懐に入れようとしていたが、キョウラはそれを阻止するように言った。

「姜芽様に届け出て、報告をなさった方がいいかと思います」

また、そのお金はこのチームの共有財産にすると良いのでは、とも助言した。

もっとも、本音は樹が独占するのを防ぐためだが。


彼女は、間違ったことは嫌いな性格なのだ。

それは、修道士であるが故のことでもある。

しかし、徹頭徹尾徹底したものではない。

やむを得ないなら、過ちを犯しても仕方ないと考えている面もある。

とはいえ、己だけが利益を貪るような真似をする者はやはり放ってはおけない。



ちなみにその後、樹はキョウラを狙っているというような話をしていた。

もちろん直接言われたわけではないが、妙に親密になろうとしているところを見る限りそのように感じられた。

なので、キョウラは樹と少し距離を取ることにした。

不純な交友もまた、修道士にとっての禁忌である。


とはいえ、彼自身が嫌いになったわけではない。

だから、彼女は毎日の祈りで言うことを一つ追加した。

「この集団の人がみな、(よこしま)な考えを持つことをやめますように…」




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