第188話 突然の崩壊
深夜、突然の激しい揺れで目が覚めた。
地震か!?と思ったが、揺れたのは一瞬だけだったので違うと判断した。
時計を見ると、3時過ぎを指していた…
「!?」
次の瞬間、すごい音と共に何かが落ちてきて視界が塞がった。
気がつくと、俺は何かの中に埋もれていた。
何か、とは言ってもなんとなく見当はつく。おそらく、天井が崩れてきたのだろう。
とすると、今俺は瓦礫の中に埋もれている。
地震で建物が倒壊するとどうなるのか…なんてテレビでやってるのを見たことがあるが、実際に自分が巻き込まれることになるとは。
顔のあたりに隙間があるからか呼吸は出来るので窒息はしなさそうだが、全身が痛い上にのしかかる瓦礫が重くて起き上がれない。
かといって、瓦礫を燃やすわけにもいかない。木製のため、迂闊に燃やすと火が広がって他のみんなにまで危険が及ぶ。
でも、助けなんぞ待ってはいられない。他の奴らの安否も気になるし…。
(どうすりゃいいんだ…そうだ!)
ふと、思いついた。
一か八か賭けだが、瓦礫に魔力を伝わらせて軽量化させる。
要は、武器と同じやり方で軽くするのだ。
幸いにも、左の手のひらに瓦礫が当たっている。
それを掴み、魔力を込めた。
木に魔力が伝わるかが心配だったが、問題はなかった。
そのまま掴んだ瓦礫だけでなく他の瓦礫にも魔力を伝え、軽くなるよう念じた。そして、覚悟を決めて一気に吹き飛ばした…砂の中から現れるが如く。
次の瞬間には、きれいに晴れ渡った夜の空が見えていた。
体も動かせる。俺は、速やかに立ち上がった。
まだ全身が痛むし、瓦礫が落ちてきた時の衝撃で何箇所か怪我をしたことも考えられるので、「修復光」を使って傷を癒す。
「うっ…寒っ…!」
そうだ、外は寒いのだという事をすっかり忘れていた。
ふと思い出したが、故郷でも冬場はこのくらい冷えることがたまにあった。おそらく、マイナス8℃くらいあるだろう。
当然防寒具など着ていない。だが、このままでは動くどころではない。どうにか暖まる方法はないか…と考えて、閃いた。
「炎法 [ファイアーランプ]」
手頃な大きさの火球を浮かべて、暖を取りつつ辺りを照らす。
これなら、なんとか動けそうだ。
辺りを見渡すと、びっくりするくらいの面積が瓦礫の山となっていた。
まあ当然か。あの馬車、見た目はともかく中身はえらく広かったし。
とにかく、きっとこの下にみんながいる。
そう考えると、自然と動き出していた。
「おーい!みんな、大丈夫かー!?」
時折瓦礫に足を取られながらも足を進め、声を張り上げる。
しばらくは反応がまったくなかったが、やがてか細い声で「ここです…」という声が聞こえた。
「どこだ?どこにいる!」
少しあたりを見回すと、すぐ目の前の瓦礫の隙間からわずかに手らしきものが見えた。
当然すぐに瓦礫を取り払う。
やがて、その顔が見えてきた。
それは、メニィだった。
「メニィ!大丈夫か!?」
「姜芽さん…助けて…」
「ああ…待ってろ!」
彼女の体にのしかかる瓦礫を1個1個、丁寧に取り除いてゆき、なんとか助け出せた。
「あ、ありがとうございます…痛っ…」
メニィのスカートは少し破れ、血が出ていた。
「怪我してるじゃないか!すぐに回復を…」
「はい…[アースライブ]」
メニィが術を唱えると、その足元から黄色い光が噴き出し、彼女の傷を癒した。
「地魔法にも、回復魔法があったのか…」
「ええ。それより、他の皆さんは!?」
「わからん。今から助けようと思ってる」
「でしたら、私も手伝います!」
「助かる。ただムリはするなよ!」
そうして、時間はかかったが何とか全員を救出できた。
瓦礫という都合上間に隙間ができてたからよかったが、もしこれが土砂崩れだったらみんな窒素死していただろう。
水がないといけないリトとイルは助けた時点で死にかけていたが、樹たちが水で包んでやるとどうにか回復した。
とにかく寒いので俺とメニィが火球を作り出した他、柳助やナイアも術でみんなの体を土や小さな岩で覆って寒さをしのいだ。
なんで?と思ったが、土の中は意外と暖かいらしい…。
「それで、なんでこんなことに?」
ナイアは俺に聞いてきたが、わかるわけがない。
「知らねえよ。寝てたんだ。てかそもそも、崩れた時みんな寝てただろ」
「それもそっか。となると、原因がわからないね…」
「そうだな…」
俺が首をかしげると、輝の声が飛んできた。
「いや、原因はわかるよ!」
「…!本当か!」
「ああ。…こっち来てくれ!」
瓦礫の山を乗り越えて輝の元へ向かうと、奴は何やらしゃがみこんでいた。
「これを見てくれ」
輝が指さしたのは、ズタボロになった木の柱。
それは、心なしか他のより破損の具合が激しいように思えた。
「これは…柱?」
「うん。でもこれは、全体を支えてた4本のメインの柱のうちの一つだ。これがやられたから、崩れたんだろう」
「ん?メインの柱は4本あるんだよな?1本折れただけでもアウトなのか?」
「いや、1本くらいなら大丈夫だけど…あっちにもう1本、同じように壊れたメインの柱があった。つまり、2本同時にやられたんだ」
「やられた…って誰に?」
「おそらく、異形じゃないかなと思うんだけど…」
「いや、違うな」
龍神がきっぱりと言った。
「このあたりに、こんな被害を出せるような異形はうろついちゃいない。あり得るとしたら…」
その時、俺の後ろにいた煌汰が悲鳴を上げた。
「ひっ!なんだ!?」
振り向くと、煌汰は暗闇の森の中を見て震えていた。
俺たちもそちらを向くと、そこには暗闇の中に浮かぶ不気味な仮面があった。
それは一つだけではなく、最初に現れたものを中心として周りにいくつも現れる。
やがて、それらはゆっくりとこちらに向かってきた。
「なんだ…異形か!?」
俺も思わずそう言ってしまったが、龍神は首を横に振った。
「違う…マスカーだ」
その言葉とほぼ同時に、火球に照らされてその全体が明らかとなった。
それは全身を青や灰色のローブで覆い、頭にはフードを被り、手には手袋をつけた異人だった。
全身を徹底的に隠してはいるが、そのフォルムは間違いなく人のそれだ。
みな鎌や槍などの武器を手にしており、一斉に近づいてくるので襲われるかと思ったが、向こうは途中で止まり、リーダー格らしき青い仮面が語りかけてきた。
「大きな音がしたと思ったら…外国の旅人か。その様子だと、貴殿らが暮らしていた拠点が潰れたようだな」
それで、俺は答えた。
「ああ…これは俺たちの馬車だ。寝ていたら、突然何者かに襲われて…!」
「そうか…」
青仮面は他の者達と顔を見合わせて言った。
「ならば、私達の集落に来るといい。ここからそう遠くないし、寒さもしのげる。あまり良いところではないかもしれないが、野宿よりはましだろう」
そうして、俺たちはこの青仮面の一団…
マスカーに、ついていくことになった。




