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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
間章・仮面の者

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第186話 雪国の馬賊

 なんとか山を降りられたが、地上に出ても寒さはあまり変わらなかった。

この国に来て初めて見る平原――だが、見渡す限り一面の雪景色で、地面の姿を拝むことはできない。


しばらく進んでいると、たまたま窓の外を眺めていたタッドが、ぽつりと口を開いた。


「…なんだ? あれ」


「どうした?」


「なんか、後ろから馬に乗って走ってくる人たちがいるんだ。この寒いのに、何やってんだろうな」


「馬に…? 確かに妙だな。何者だ?」


 この吹雪の中、馬で走り回るなんて、ちょっと考えられない。

訓練でもしてるのか? それとも――。


そう思っていると、部屋にいた猶と青空が、ほぼ同時に叫んだ。


「それ、盗賊だ! もう出てきやがったか!」


「“ハイウェイマン”だね、それ……! 追いつかれる前に、迎え撃とう!」


 困惑する俺たちをよそに、2人は天井の非常口を開けて、素早く屋根の上へと駆けていった。


盗賊と聞いて黙ってはいられない。俺も仲間を数人連れて、後に続いた。



 屋根の上は、風が容赦なく吹きつけてきて、凍えるような寒さだった。

体感では、マイナス10℃を下回っているかもしれない。


だが、それ以上に衝撃だったのは、姿を現した“ハイウェイマン”の風貌だった。


 彼らは、確かに馬に乗っていた。

人数は4人。それぞれ分厚い防寒具を着こみ、マフラーやスカーフで顔を隠している。

整った装いで、見た目には盗賊らしさがまるでない。まるで、どこかの騎士団か、護衛部隊のようにも見えるほどだ。


そのうちの1人が、唐突に槍を構えた。…いや、投げ槍か。


「おっと、そうはいかないよ!」


 青空がすぐさま術を唱えて風の壁を展開し、飛んできた槍を受け止めて弾いた。

しかし相手はすぐに、新たな槍を生成する。


「えっ…!?」


「魔力で投擲武器を生成してる。ってことは、弾切れはないってわけだ!」


青空が「[嵐の爪]」という技を繰り出した。

風属性の魔力をまとった爪を両手に形成し、引っかくように空を裂く。

放たれた三本の風の斬撃が、一直線に槍使いを襲う。


 だが、相手は槍を水平に構えて、そのまま斬撃を受け止めた。

…ただの盗賊じゃない。下手すりゃ、俺たちより上手かもしれない。


「ちっ…やっぱそう来るか!」


今度は別の敵が、空高く弓を掲げて放った。放物線を描いた矢は途中で複数に分裂し、雨のように降り注いできた。


 咄嗟に盾を構えて迎撃し、なんとかすべてを弾いたが、背筋が冷える。

あれは明らかに技だ――多分、「矢の雨」の類だろう。


「なら、こっちも!」


タッドも弓を構えて放つ。

「矢の雨」を真似た技を放つも、敵は見事に散開して躱してきた。


「なっ…!」


「今までの盗賊とは違うな。動きが整ってる」


「そりゃあな!」


 猶が、やや苦々しい表情で言った。


「ハイウェイマンってのは、馬に乗った殺人者の盗賊だ。戦いの経験は一丁前の連中だ!」


「マジか…!」


 それで、ようやくわかった。奴らは、戦いには慣れている。

油断したらやられる。だが、幸いまだ馬車に追いつかれてはいない。


先手を打てるうちに、数を減らしておく必要がありそうだ。


「誰か、輝に『馬車を止めるな』って伝えてきてくれ!」


 一瞬の沈黙の後、ナフィーが頷いて、伝達役を引き受けてくれた。


ナフィー…タッドの妹で、槍使い。

あまり戦闘では目立たないが、彼女には特殊な能力がある。

他者の内に眠る才能や魔力を引き出す、“共鳴”のような力だ。俺には通じなかったが…いつか、その真価を見る日が来るのかもしれない。


 さて、残った5人で奴らを相手取ることになる。

俺、猶、青空、タッド、ラウダス。武器の種類はバラバラだが、全員が遠距離戦に対応できるのはありがたい。


「そろそろ、僕も本気を出そうかな」


ラウダスが魔導書を出すことなく、両手を交差して詠唱を始める。


「[リィム]」


 紫色の魔力の塊が地面から2つ現れ、剣を構えた賊へと襲いかかる。

黒く、うねるような魔力…これは、闇魔法か?


だが、魔導書を使っていないということは、祈祷師である彼が得意とするもう一つの魔法、“黒魔法”のひとつだろう。


 賊は攻撃を受け、よろめく。そこへ猶が短剣を投げつけて追撃。

バランスを崩した相手は、馬から落ち、そのまま動かなくなった。


「よし、ひとりは倒した!」


そう思った矢先、別の賊が斬撃のような魔力を飛ばしてきた。

鋭く、速い――ギリギリでジャンプして回避する。


 ラウダスは回避が間に合わず、顔の左側を斬られていた。血が、勢いよく吹き出している。


「…大丈夫か!」


「大丈夫だよ、この程度…[ドレイル]」


 彼は賊に向かって手を伸ばすと、黒い霧のような何かを相手から吸い取る。

そして、その魔力を自らの傷口へと流しこんで回復した。

キョウラが使う白魔法の「リスペア」と同じ、ドレイン系の魔法か。


ほどなくし、てナフィーが戻ってきた。輝は状況を聞いて即座に了承してくれたらしい。

頼りになるやつだ。


 さて、吸収を食らった賊は明らかに消耗していた。俺は魔弾を2発、時間差で放つ。

不意を突かれた賊は防御もできず、そのまま崩れ落ちた。


残るは2人。どちらも槍を持っている…かと思ったが、ナフィーが言う。


「左のやつの武器、槍じゃないよ」


「え?」


「薙刀だよ。槍と刀の性質を持ってる武器。斬るにも突くにも向いてるから、厄介だよ」


 その瞬間、薙刀の賊が斬撃を俺に向けて飛ばしてきた。

反応して横に跳びのいたが、ギリギリだった。


「…まともにやり合うと危ない。ここは、私にやらせて」


ナフィーが前へ出た。槍を横に構え、静かに詠唱する。


「『静かなる地に、寂しく消えよ』。奥義 [セピアサルト]」


 彼女が一歩踏み込み、槍を回転させながら大きく薙ぐ。

その瞬間、ピンク色の魔力が空を裂くように放たれ、数本の斬撃が賊とその馬を一気に切り裂いた。


一瞬で、勝負は決まった。


「…やったな!」


「お前のことすっかり忘れてたけど…やるじゃんか。見直したぜ」


 ナフィーは無言で、槍を肩にかけた。照れてるんだろうか。

青い髪と童顔が妙に映えて、ちょっとかわいかった。…いや、俺はそういう趣味じゃないが。


「とりあえず戻ろう。輝に報告だな」


「うん」




 戦いの報告を聞いて、輝は安堵の息を吐いた。


「よかった…まさか、馬に乗ってるとは」


“ハイウェイマン”、この国の野盗か。

この国にいる限り、あいつらとは縁が切れそうにない。


次に備えるためにも、彼らの詳細を――龍神たちにでも聞いておこうと思う。




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