第15話 旅の支度を整えて
町に戻って柳助達と合流し、一応洞窟での事を話した。
結果的に何もなかった、というのは正直みんな「あー、まあそうよな」って感じだったが、俺が異形と戦ったという話には「お!どうだった!?」とか「初実戦だったわけか。怪我もなくてよかった」とか言ってくれた。
それで、樹は面白くなさそうだった。
「で、何か情報は入ったのか?」
すると、煌汰達は何やら顔を見合わせた。
「どうする?情報…って言えるのかな?」
「まあ…情報には違いないな。それに、アレについての報告もしなきゃだし」
「そうだな。よし」
そして、輝が喋りだした。
「まず一つ。輝達が別行動する必要はなくなった」
「ん?そりゃまた、どうしてだ?」
「それはだな…えいっ!」
輝が指を鳴らすと、虚空から馬車が現れた。
「まあ、立派な馬車ですね」
「馬車…?馬がいないぞ?」
「姜芽、察しろよ。これは普通の馬車じゃない」
「魔法で動くのか?」
「まあそうだね。けど、それだけじゃあない。中を覗いてみな」
言われるがまま、カーテンをよけて中を覗く。
そして、絶句した。
そこには、外見からは想像もつかないほど広くて豪華な部屋があった。
家具もあるし、電球や窓もある。
なんなら、まだ他にも部屋がありそうだ。
「どうだ?すごいだろ!」
輝の声が聞こえてきた。
「輝、これは一体…」
「これはな、『マドゥルーの馬車』。大人数で旅をする旅人の為に作られた魔法の馬車さ!一応10人まで住めるようになってるけど、頭数が増えてきたら増築もできる。これさえあれば、大人数での冒険も問題ないぜ!」
「でも、こんなもの一体どこで…」
「輝が作ったんだぜ?煌汰と柳助と一緒にな。輝は、いつか姜芽が来たら、絶対みんなで旅をしたいと思ってたんだ。だから、その為にこれを作ってたのさ!」
マジか。
いや、輝は地味に頭がいいし、手先が器用なのは知ってたが…まさかこんなものまで作れるとは。
「そうだよ。あと少しで完成って所で止まってたのを、僕と柳助も協力して、姜芽達が洞窟に行ってる間に何とか完成させたんだ」
ずいぶんな付け焼き刃…というか、取ってつけたような感じである。
しかし、内装や外見を見る限り、しっかり計算されて完成されたもののように見える。
何より、輝の工作…いや、創作の技術は俺もよく知っている。
「これにみんなで乗ろう!そして、みんなで旅をしようぜ!輝、一度はみんなで旅をしてみたかったんだ!」
健気なものだ。
というか今気付いたが、何気に輝の一人称が自分の名前に変わっている。
昔は「ひっか」って言ってたのに。
「この馬車には、生活に必要な施設は全部揃ってる。なんなら、武器庫とか図書館だってあるぜ!」
図書館…って。
一体どれだけの本を買い漁ったのだろうか。
というか、なんでそんなもんを作ったのか。
輝はそんな本読まないだろうに。
まあ、それは俺もだが。
「えーと…キョウラ、だよね?聖女さんもぜひ使ってくれ」
「私も乗車させて頂いていいのですか?」
「もちろん!姜芽と一緒に旅をするなら誰でも大歓迎さ!」
それ、本当は俺の台詞のような気がするのだが。
「ありがとうございます。そうだ、図書館と仰っていましたが…魔導書はありますか?」
「もちろん。魔法種族用の武器庫の役割も兼ねてるからね!」
「でしたら、聖典…修道士用の魔導書はありますか?」
「あるよ。あちこちの本屋とか道具屋を回って集めたからね。まあ、お気に召すものがあるかはわからないけど」
「わかりました。ありがとうございます」
「いやいや。それじゃ、みんな乗って!」
中に入り、改めて見回すと、本当にすごい。
ハリ◯タのテントの皮を被った家を思い出す。
「うっは、こりゃすげえ。めちゃくちゃ豪華じゃん」
猶もそう言っていた。
「だろ?でもな、まだまだ改良の余地があるんだぜ。奥に個人用の部屋があるから、好きなのを使ってくれ。それじゃあ!」
輝は、一人うかれながら奥へ行った。
「ずいぶんはしゃいでるな」
「そりゃ、あいつが作ったものだからな。俺達も手伝ったんだけどな…」
柳助がぼやいている。
「ま、いいじゃんか。オレたちも適当に部屋決めようぜ」
奥には長い通路があり、一定の間合いを開けて部屋の扉があった。
俺は一番奥の部屋の前まで歩き、扉を開いた。
中は、白いベッドにテーブル、あと座椅子…という、至ってシンプルなレイアウトだった。
他の部屋もこんな感じなのだろうか。
これから色んな奴を仲間にしていくのなら、部屋のカスタム性は高い方がいいだろう。
だから、これが正解であるのかもしれない。
俺としても、あまり小洒落た部屋は好きじゃない。
何だったら、散らかってた方が好きなまである。
俺は片付けができないし、実家も結構散らかってたので、部屋が汚くても別に気にならないどころか、むしろ居心地がいいまであるのだ。
とりあえず、のんびりしよう。
そう思ってくつろいでいたら、突然ドアが叩かれた。
「姜芽!食料の補充に行くけど、来る?」
煌汰の声だった。
食料補充…か。
そう言えば、この世界の食べ物についてまだほとんど知らないな。
この際、いろいろ見て回るか。
「行くよ」
「わかった。じゃ、来てくれ」
みんなで市場に出て食料を買い込む間、店の品揃えをさらっと見たのだが、人間界のものと然程違わないようだった―細かい材料は違うんだろうが。
まあ、俺は料理とか別に好きじゃないし、特にこだわりとかもないから、そんな気にすることでもないか。
「この馬車、キッチンとかあるのか?」
「もちろん。ガスとかは魔力結晶で代用してる」
「魔力結晶?」
「魔力を結晶にして固めたもの。込める魔力次第で、属性を付与する事もできる。で、砕くか、特定の魔法を当てると、秘められた属性の効果を放つ。あと、砕かずに魔力を吸い出して、属性の効果を使うこともできる。
ここで使ってるのは火の魔力結晶だから、火の効果を使える」
「なるほど、それをガス代わりにしてる訳か」
「そういうこと。ま、使い方は後で教えるよ。それより、最初の目的地なんだけど、南の町を目指そう」
「南の町、な」
「あ、そういや言ってなかったね。二つ目の情報は、南の町で正体不明のヒーローが活躍してる、って話だよ」
「正体不明のヒーロー…なんだ、怪傑〇〇みたいな感じか?」
「そう、そんな感じ。まあ、怪傑じゃなくて隠者って名乗ってるらしいけど」
「隠者…ねえ。まあ確かに、興味は湧くな。それ、樹たちには話したのか?」
「いや。これから話そうと思う」
そして、樹たちを集めて話をした。
「…ていうわけなんだ。どう?」
「南の町っつうと、カーノか。ま、他に行くあてもないし、行ってみるか」
「ようし!じゃ、出発だ!」
そうして、馬車は走り出した。
引いてる馬がいないのに走り出す様子は、どうも不思議な感じだ。
俺は、向こうまでの所要時間を樹に聞いてみた。
「で、向こうまでどれくらいかかるんだ?」
「1日もかかんないと思う。まあ今夕方だから、到着は明日になるだろうけどな」
「そうか…」
この馬車には風呂やトイレも完備されており、普通に生活していけそうだった。
もはや、これは馬車ではなく家だ。
移動が可能な家、しかもなかなかの豪邸である。
「こんなの作るって…輝はどんだけ暇なんだ」
思わずこぼした。
入浴を済ませて部屋に戻り、地図を広げてみた。
ところどころに湖らしき穴が空いた、見たこともない形の大陸。
それが、今俺達がいる大陸なのか。
地図の左上には『セントル大陸図』と書かれている。
翻訳魔法のおかげで、字も読めるのは助かる。
やっぱり、早く魔法覚えたいな…。
詳しく見てみると、大陸のほぼ真ん中にセドラルの文字があった。
まさか、ど真ん中にあったとは。
すると、その南は…。
下に下っていき、すぐに見つけた…「カーノ」と書かれた町を。
「なんか、すごい事になっちまったなあ…」
昨日まで普通のサラリーマンだったのに、まさかこんな事になるなんて。
人生、何があるかわからないものだ。
ぼんやりと外を見上げた。
今夜は快晴だ。しかも見事な満月。
…いや、満月なのか?
人間界では、パッと見満月でも欠けてる事があったが、この世界ではどうなんだろう。
まあいい。
斧をベッドに立て掛け、布団に潜った。




