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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
間章・仮面の者

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第185話 仮面の異人

 みんなの前で話すと、銘々がユニークな反応をした。


「なんだよその夢」と笑い飛ばす者、「まあ夢っぽくていいんじゃないか」と鼻で笑う者、「なんか小説みたいだな」と、ちょっと理解に苦しむことを言う者――といった感じであった。


 しかし、俺はなぜだか引っかかる言葉があった。


「仮面の人…」


夢の中に出てきた、仮面を被った異人。

素顔こそ見ていないが、あの不思議な雰囲気は、どこか惹かれるものがあった。


「仮面の人?それって、もしかしてマスカーのことか?」


 樹が、俺の言葉に反応した。


「マスカー…って何だ?」


「異人の一種だ。いつも不思議なデザインの仮面を被って、全身をきれいに覆う装束を着込んでる。雰囲気とか見た目からして祈祷師と間違われることがあるけど、全然違う種族だぜ」


「へえ…なるほど、仮面を被ってるからマスカーなのか。素顔はどんな感じなんだろうな」


すると、樹は少々意外なことを言ってきた。


「奴らに素顔なんかないぜ。仮面がそのまま奴らの顔だ」


「…え?どういうことだ?」


「マスカーの正体は、仮面に魔力が宿って異人として動き出したものなんだ。だから素顔なんてないし、実体もない。いつも全身を服でぴっちり覆って、素肌を見せないのもそれを隠すためのことだ」


「え、でも夢に出てきたやつは人型をしてたぞ?」


「そりゃ、魔力の塊が人の形をしてるからな。その服をちょっと捲れば、その下には何もない。普通の人には魔力の塊は見えないから、ただ服と仮面だけが浮いてるように見えるのさ」


 要はゴーストみたいなもの……というか、肉体を持たない異人なのか。

まあ、そういう種族がいてもおかしくはないか。


その後も話を聞いたところ、マスカーは実体こそないが“本体”は存在しており、それを破壊されると「死ぬ」らしい。そして、その本体とは――仮面そのものである。


なんというか、まさしく「仮面に魂が宿った存在」という感じがする。


 ちなみにマスカーは、仮面を作り、それに魔力を込めることで子孫を残す繁殖形態らしい。

それが元となって、「マスカーは生物と言えるのか?」という論争が研究者の間で巻き起こっているとのことだ。


「オレ的には、マスカーも立派な生物だと思うんだけどな。奴らは一応遺伝子を残せるみたいだし、生命活動もしてる。肉体がない以外、普通の異人と比べても遜色ないと思うんだが…」


 それでいて、もしかして?と気になって聞いたのだが、どうやら樹は学者でもあるらしい。

中学のときはそんな頭のいい奴でもなかったのに、なんでそうなったんだ。


というか、この旅を始めてから、樹が学者っぽいことをしてる場面なんて見たことがないんだが。


 それを言うと、樹は心外だな、というように言った。


「そんなことないぜ。これでも自室にいるときはレポート書いたり、次の調査目標を立てたりしてるんだ。せっかくいろんな種族に会えるんだから、随時研究して記録しとかないと勿体ないしな」


意外とまともな理由である。

正直、これまでの樹のイメージは“ただの女好きの探求者”という感じだったのだが、なんか大きく変わった。


 …と思ってたら、龍神の一言でガラッと印象が変わった。


「マスカーはどうだか知らんが、奴らの上の『ペルソナ』には美男美女が多いって聞くぜ。…あ、そういえばこのあたりにはマスカーとかペルソナが多くいたような気がするな…?」


「なにっ…!?そういうことは早く言えよな! 今からでも間に合うよな…ペルソナのこと、調べてくる!」


奴は急いで部屋に戻っていった。

…やっぱり、樹は樹である。



 ところで、俺は今の会話で気になるところがあった。

だから、龍神にそれを聞いた。


「なあ、さっき言ってたペルソナってなんだ?」


「ん?ああ、マスカーの上位種族だ。長年生きて多くの経験を積んだマスカーが昇格した姿で、見た目はマントを羽織ってたり、やたら髪が長いマスカー…って感じだ。マスカーとの違いは、上位異人らしく強大なパワーを持ってるってこと、あとちゃんとした肉体を持ってて、少なからず素肌を見せる格好をしてることだな」


「素顔はあるのか?」

しつこいようだが、気になる。


「もちろんある。で、それがさっき言った通り…まあ綺麗なんだ。顔だけなら、異人で一番のルックスかもしれんな」


「顔だけ…ってことは、性格が終わってるとかそういう感じか?」


「いや、そうじゃない。確かにその可能性もなくはないが、ペルソナはその割合はかなり低いんだよな。問題は、他のところにある」


「というと?」


「奴らは…まあマスカーの時からそうなんだが、“性別”って概念がないんだ。そりゃそうだよな?子供を作るったって、仮面を作ればいいだけだし。で、ペルソナは…見た目は男でも中身は女とか、体つきは女でも声とか心は男、とかってことがザラにあるんだ。だから、誘う時はよーく本質を見極めないとえらいことになるぜ」


「え、それじゃ樹は…」


「ま、大丈夫だろ。調べるって言ってたし。それに、ペルソナは希少種族だ。このあたりは一応マスカーの生息域だが、それでもペルソナはそう簡単にお目にかかれるもんじゃない。せいぜい叶わない夢で終わるか、心を砕かれるのが関の山だろうさ」


 わかってて言ったのか。なんとも素敵な奴である。

まあ、あの女好きにはいい薬かもしれんが。


ちなみに、龍神からは他にも面白い話を聞くことができた。


 実は、マスカーは殺人者と同じ祖先を持つ種族であり、見た目はともかく分類的には近い関係にある。そのため、殺人者とは比較的相性が良く、友人関係を持つ者も少なくない。


このあたりにマスカーが住んでいるのには、そのような事情もあるのだとか。


「殺人者とマスカーの祖先は、『ジョーカー』って言われる種族だ。詳しいことはよくわからないが、そいつが今から2億年くらい前に分岐して、殺人者とマスカーが生まれたらしい」


 そこから関連する話として聞いたのだが、他にもかつて存在した現存種族の祖先としては、「チェイル」「ヴァリエル」「ディフェル」などがあるそうだ。


チェイルは狩人、ヴァリエルは騎士、ディフェルは防人の祖先で、それぞれ4億年前から2億年前にかけて進化したらしい。


人間界の歴史では、そんな時代にはそもそも人類自体がまだ出現してなかったような気がするのだが……まあ、ここは異世界だし。

歴史のロマンを感じる――と言っておけば、間違いないだろう。



 その後、程なくして山のふもとが目前に迫ってきた。

もうすぐで、地上に降りられそうだ。

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