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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
4章・ロードアの長旅

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第182話 霊騎士の像と勲章

 その後、国内は目まぐるしく変わった。

騎士王と王女、そして軍師が亡くなったことが速やかに公表されると同時に、各地で起きていた異形や浪人たちの騒動──すなわち「悪党」どもの異変も、軍師であったアジェルによるものだったことが国民の知るところとなった。


 事情を知った民たちは立ち上がり、主要都市とその周辺から異形や浪人、アンデッドたちを排除しようと動き出した。

結果、二週間もしないうちに、大半の悪党が国から姿を消した。


もちろん、完全にいなくなったわけではない。今でも各地で残党狩りが続けられている。


これなら、もう安心していいだろう。


 この国の民は、ほとんどが騎士である。

防人以上の戦力があると言っても過言ではない。

それにイーダスの命を受け、王立騎士団も動き出した。これで残党の掃討に困ることはないだろう。


 ちなみに、王立騎士団には美羽と煌汰が指揮官として参加した。


煌汰は「一日も早く奴らを片付け、平和を取り戻したい」美羽は「アードルが夢見た平和なロードアを、私が必ず取り戻す。彼に安心して眠ってもらうためにも」と語っていた。


二人の働きもあって、騎士団の出陣からわずか一週間足らずで、アジェルによって力を得た悪党たちは姿を消した。


──これで、本当に終わったのだ。





 事態が落ち着いた後、イーダスが王位に就くものと思われたが、そうはならなかった。

彼は今回の件で「大切な人を失う悲しみ」と「この大陸に迫る邪悪な影」に気づき、自ら王座に座るよりも、「旅人」として人々を守る選択をしたのだ。


 国の政は、古くから彼と親交があり、信頼に足る一人の貴族に任された。

「イーダス様が帰還なさるその日まで、必ずこの国を守り抜いてみせる。ギルック様に、安らかに眠っていただくためにも」

──そう、その貴族は語ったという。


貴族まで腐敗していなかったことは、まさにこの国の救いである。


 イーダスは、今回の活躍の礼としてあるアイテムをくれた。

それは銀色に輝く紋様入りのシンボルで、「名誉の勲章」と呼ばれるものだった。


俺には使い道がさっぱりわからなかったが、煌汰はそれを見た瞬間、目の色を変えた。

イーダスが笑って使ってみるよう促し、煌汰が天に掲げると、それは眩い光を放ち始めた。


 どうやらその勲章は、騎士系の異人を「昇格」させるアイテムだったようだ。

煌汰はこれにより『聖騎士』へと昇格したらしい。


聖騎士になると、光の術に対する適性が生まれ、すでに適性がある者はさらに火の術にも適性を得るという。

煌汰は前者で、初めて光の力を手に入れた。


 思いがけない昇格に、煌汰は心から喜んでいた。

その隣で、美羽も嬉しそうに微笑んでいた。





 次の目的地に向かう前に、俺たちは城の中庭にある八勇者像に参拝することにした。


この国にあるのは、「霊騎士」オレグ・エルティアカの石像。

落ち着いた性格の持ち主だった彼は、永遠に溶けない氷で作られた剣──「雪氷の剣」を操り、行く手を阻むものすべてを凍らせ、斬り伏せたと言われている。


 この像に騎士系の異人が触れると『冷静』の加護を受け、いかなる時でも動揺せず、冷静に判断できる精神力を授かると伝えられている。


煌汰とイーダスは参拝が初めてだったようで、実感はないながらも「きっと加護を得られたはずだ」と喜んでいた。

一方、美羽は何度も訪れたことがあるようで、「ここに来ると落ち着く」と呟いた。


 『冷静』の加護は、像の周囲に立つ者の心までも落ち着ける──そういう意味もあるのかもしれない。





「いよいよだな…ついにこの時が来たって感じだ」


 龍神が、ぽつりと意味深につぶやいた。


「…どうした?」


「次の目的地だよ。聞いてないか?」


「ああ、確か…ジルドック、だったか?」


「そう。ようやく来た、ってわけだ」


「そんなに特別な国なのか?」


「ジルドックは、反逆者ルーシュが建てた国だ。そして、俺とか猶、紗妃の仲間──つまり“殺人者”たちがうようよいる場所でもある」


「そ、そうなのか…」


 新情報を話すとき、自分が全部知ってる前提で話し始めるのは相変わらずだ。まあ、最近はあまり聞かなかった気もするが。


「意外かもしれないがな、ジルドックって実は、むちゃくちゃ治安の良い国なんだぜ」


「え、殺人者がいっぱいいる国なのに?」


「逆だよ。だからこそ、変に悪さしようなんて奴がいないんだ。少なくとも、首都のあたりのメインの町中にはな」


──“メインの町中”って表現、ちょっとわかりづらいが、まあ、こいつの説明はいつもこんなもんだ。


 樹に聞いたところ、やはり次の目的地はジルドックの国であるとのこと。

アラルから東に行けば、3日ほどで国境が見えてくるらしい。その間に、殺人者組から国のことについて聞き出すことにした。




 猶、龍神、紗妃、青空(そら)、亮の5人を部屋に招き、1時間ほど話を伺った。


そこで得られた情報をまとめると、まずジルドックは大陸の東に位置する国で、山に囲まれた国であり標高が高い土地が多い。


その地理的条件と特殊な季節風、そして海流が相まって、2ヶ月ほどある夏以外は常に雪に覆われるほど寒い、という特異な環境の国であるという。


 そして、そこはかつて八勇者の1人である反逆者ルーシュによって作られた国で、国民はほとんどが人間または殺人者系の異人。


人間がいるというのもそうだが、何より驚いたのは首都及びそこからある程度の範囲にある集落は非常に治安がいい、ということだ。

龍神の話は、嘘ではなかったようだ。


 まあ辺境の所は普通に治安が悪いらしいし、「闘技場」とか「賭博場」とかあまり良くない響きの施設があるとも聞いたが…大丈夫だと信じたい。



 そうこうしているうちに3日が過ぎ、ジルドックとの国境を通過した。

するとすぐに険しい岩山が現れ、さらに急激に寒くなってきた。


猶によると、この山は「パルテリア山脈」と呼ばれ、ジルドックと隣国との実質的な国境の役割を果たしているらしい。


同時に、ジルドックの地を他の国々と異なる環境を有する国たらしめているものでもあるという。


 山自体は、越えるのは不可能ではなさそうだった。

道はろくに整備されていないが、ないわけではない。


寒さ故か緑もなく、異様なほど冷たい雨が濡らす山道を、静かに馬車で進んでいく。

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