第178話 異形の王女
まず、俺が魔弾を飛ばした。続いてナイアが小さな竜巻を飛ばし、煌汰が複数の小さな氷を飛ばす。そして輝やタッドが弓を撃ち、猶が風の刃を飛ばす。
ここまでいずれも間接攻撃であるが、これは仕方ない。
近接攻撃を仕掛けたいところではあるのだが、向こうが腕が長い上に鞭を持っている都合上、下手に近づくことはできない。
そんな俺たちの考えに気づいたのか、ジームリンデは鞭を投げ縄のように回し始めた。
すると鞭が怪しい光を発し、生き物のように伸び始めた。
そして鞭が伸び切った時、彼女はそれを一振りしてきた。
ただでさえ彼女自身の腕が長いことに加え、鞭が伸びていることでリーチは異様なまでに長くなっており、俺たち全員がダメージを受けた。しかも足元をすくうように薙ぎ払ってきたため、みんなは足を取られて転んだ。
そこを間髪入れず、手を上げて何かの術を唱えてきた…が、素早く立ち上がって身を反らしたので回避できたのか何も起きなかった。
幸いにも、今の術の対象とされたのは俺の他にナイア、煌汰、輝だけだったようで、まだ立ち上がっていないほかのメンバーには何も起きていなかった。
「王女…」
「私は兄様の身柄が欲しいだけ。あなた達を傷つけたくはないですが…仕方ありません!」
ジームリンデは、次は鞭を一度振りかぶってからやたらめったらに打ち付けてきた。
乱れ打ち…といったところか。
みんなをかばうように結界を張ってなんとか防いだが、攻撃の後半は結界にヒビが入っていた。もう少し長く受けていれば、やばかっただろう。
「姜芽!結界はやめたほうがいいわ!このまま受け続けるより、早めに倒しましょう!」
苺の声が飛んできた。
「いや、それはわかるんだが…うわっ!」
話している最中に、また鞭を叩きつけてきた。
間一髪斧でガードしたが、もうちょいで頭を叩き割られていたところだ。
たかが鞭で…と思われるかもしれないが、ジームリンデの振るう灰色の鞭はよくしなる上に異様に硬く、鋼か何かで出来ているのかと思うほどだ。だから結界にヒビを入れたり、俺たちみんなをまとめて転ばせたりできたのだろう。
そして、もしそんなものをまともに食らえば…普通に骨を折られるだろう。
彼女自身も、異形化に伴ってパワーが増大していると思われる。そんな状態の奴の攻撃をまともに頭に食らったら、即死もあり得る。
いや、即死しなくても気絶はするだろう。
…と思っていたら、早くもそれが現実になってしまった。
弓を撃とうとしていた輝が、額を叩かれて卒倒したのである。
「輝…!」
一瞬、一発で落とされたかと思ったが、タッドが駆け寄ったところ気絶しているだけとわかった。
死んでなくてよかったが…一撃頭に食らっただけで意識を飛ばされるのはヤバい。仮に頭以外の場所に食らってもかなり痛いし、食らわないようにするに越した事はない。
とは言え、振るう速度が早くリーチが長い武器による攻撃を回避するのは難しい。
今も、隙を見て魔弾や術で攻撃しているが、こちらの攻撃は結構躱されるのに対して、向こうの攻撃は普通に当たっている。
しかもこれが結構痛いので、前に出て戦う者と後ろで回復する者に分け、これを定期的に切り替えている。
星術のおかげで各自回復できるが、このままではいずれみんな魔力が尽きる。
そうなれば、今度こそおしまいだ。
なので、俺は一か八かの賭けに出た。
「[防衛光]!」
かつてセニアが使っていたのと同じ術を使い、光の防御柱を生成する。
こうすれば、簡単にはダメージを受けないはずだ。
この隙に空高くジャンプし、飛び込む。
ジームリンデは顔の口を開き、どす黒いブレスのようなものを吐き出してきたが、防御柱を破壊されることはなかった。
そのまま彼女に飛びかかり、振り上げた斧に魔力を込めて力いっぱい振り下ろした。
同時に彼女の顔面を蹴って後ろに宙返りし、追撃を放った。
「奥義 [フレイムポール]」
久しぶりとなるフレイムポールを放ち、炎と斧で追撃した。
彼女を吹き飛ばすことこそ出来なかったが、それでも仰け反らせることは出来た。
もっとも、すぐに立ち直ったが。
「火の奥義…素晴らしいです。ですが、ここで妥協するわけには…!」
彼女は鞭を低く振るってきた。
水平飛びの要領でジャンプして躱し、宙で回転しつつ再び飛びかかる。
その時、また一つ技を閃いた。
骨を叩き割る、骸骨系に有効な斧技。
「斧技 [スカルブレイク]」
勢い余っていたこともあり、斧を構えて回転しながら技を繰り出した。
決めた瞬間は見えなかったが、直後に着地して彼女を背後から見た限り、右腕を根本から落とせていた。
やはりというか再生しようとしてきたが、自然に体が動いてもう片方の腕も落とした。
ついでに、体の各部から生えた赤い骨のようなものもまとめて叩き切った。
「…っ!」
王女が怯んだ隙に、ナイアとタッドが大剣と弓を構えて飛びかかった。
そして空中でナイアがぐるんと一回転して彼女の頭を切り裂き、タッドがそこへ矢を連続で撃ち込んだ。さらに樹と柳助が飛び出して、頭と胸に棍とハンマーを叩きつけた。
ジームリンデは大きく仰け反って一度倒れたが、数秒もすると傷を癒やして立ち上がってきた。
「うう…ひどい、私にこんなことをするなんて…」
「酷いのはどっちだ!自ら異形になり、父親をアンデッドにした挙げ句、兄までも取り込もうとするなんて!」
樹が叫ぶと、彼女は怒りに震えた。
「あなたに何がわかるの!私は…お父様が、兄様が大好きだった!なのに…なのに!」
ここで、ふと龍神やキョウラの姿が見当たらないことに気づいた。
あれ、あいつらは?そう口に出そうとした瞬間、ジームリンデはあざ笑うように言った。
「そうでした…私は1人じゃない。あの方が、私を助けてくれる…」
その直後、龍神の叫びが耳に入ってきた。
「姜芽!!」
「…?」
振り向くと、真っ赤な瞳をした謎の男が剣を持って飛びかかってくるところだった。




