第14話 異形の戦争
黒い世界…
1人の男によって作り出された、「あらゆるものを受け入れる」世界。
そこには進化した人間である「異人」が存在し、大半の異人は原種でもある人間と支え合って生活を送っていた。
人間もまた、異人を心良く思っており、自分たちと異人を合わせて「人類」と名乗っていた。
しかし、そこにあったのは人間と異人だけではなかった。
既存の動物や植物の性質を有する、しかしながら人々の理解の及ばぬおぞましい姿の怪物。
並の生物を逸脱した能力を有する、自然法則に反する存在。
人々は、それらを異形と呼んだ。
異形は人間を、異人を喰らい、人々の作り上げたものを破壊した。
人々は当初、異形に怯えるしか無かった。
しかし月日の経つうち、次第に異形への対策が講じられてゆき、徐々に異形と共存してゆけるようになっていった。
それから何億年かの後…
その均衡は、突如として崩された。
一部の異形が目覚ましい進化を遂げ、異人をも上回る知能と能力を習得したのである。
これによって異形の中にヒエラルキーの概念が芽生え、異形はその実力によって上位異形、中位異形、下位異形に分かれた。
それは同時に、異形が始めて文明を形成した瞬間でもあった。
そんな「進化した」異形の中で最も強く、かつ獰猛であったのが、かつては鳥であり、全ての異形の遺伝子を取りこみ進化した異形、ガルディアル。
それはその力で全ての異形を指導し、中央大陸セントル及び人類文明への侵攻を開始した。
人々は異人を先頭として、武器を手に異形に立ち向かった。
文明を、大切なものを、守るために。
それは長い戦いだった。
戦いは200年に及び、人も異形も甚大な被害を被った。
そして人類の勝利が迫ってきたとき、ガルディアルがその恐るべき力を発揮、形勢を逆転させ、そのまま人類を一気に追い込んだ。
圧倒的優勢から一転、絶滅の危機に追い込まれた人類。
そんな中に、希望は舞い降りた。
ガルディアルを討伐し人類を救わんとする、八人の高位の異人が現れたのだ。
勇人アモール。
反逆者ルーシュ。
魔戦士バレス。
司祭カトリア。
陰陽師イード。
霊騎士オレグ。
魔女イーサルミー。
狙撃手リーエン。
彼らは、その圧巻の友情と圧倒的な戦闘力でみるみるうちにガルディアルの軍勢を退け、ついにガルディアルをも討ち滅ぼした。
その後、彼ら八人は大陸の各地に渡り、異形との戦いで乱れた村々を復興し、それぞれが国を作った。
ルーシュの国ジルドック。
バレスの国アルバン。
カトリアの国サンライト。
イードの国エルメル。
オレグの国ロードア。
イーサルミーの国ラーディー。
リーエンの国ロロッカ。
そして、アモールの国セドラル。
元は一介の人間であり、そこから世界を救い、大国を立ち上げるまでになった八人の異人は「八勇者」、彼らによって立ち上げられた8つの大国は「八大国」と呼ばれた。
そして、人々はこの長く悲惨な異形との戦いを「異形の戦争」と呼んだ。
それから数千年…
八大国はいずれも健在であり、互いに均衡を保っていた。
取り立てて強大な異形も現れず、目立った悪事を働く異人も現れず、平和が続いていた。
しかし、どこかで…
どこかで、何かが狂い始めていた。




