第167話 首都への道・終り
リトたちのおかげで浪人を撃退できた…と思ったら、程なくして空はきれいに晴れた。
海人2人は馬車に入ると、いつも通り部屋に戻った。
一応感謝の言葉を言っておいたが、2人は口を揃えてこう返してきた。
「私達は、やれることをしただけ」。
ザムの山を越えて地上に降り、森の中に入った。
そんな鬱蒼とした森でもなく、光もそれなりに差し込んでくる。
しかし、やはりというか小雨が降っていて空は暗く、また時折冷たい木々から垂れてくる雫がひときわ冷たい。
俺は雨に濡れると満足に戦えなくなるので、厄介な敵が現れないことを祈りながら進む。
「あっ!誰か倒れてる!」
輝の声が響き、馬車が止まった。
それと同時に、美羽や龍神と共に外へ飛び出した。
馬車の目の前に、誰かが倒れていた。
俺は最初それが誰かわからなかったが、数秒後に理解した。
「あっ…アードル…!」
「アードル?なんだ、あいつもここに来てたのか?」
彼は俺と龍神の声に反応しなかった。気絶してるのか?と思ったが、近づいてみて違うと気づいた。
「し…死んでる…?」
「え…!?」
「…まさか!アードルは、騎士としてもかなりの実力者なんだぞ!?」
だが、龍神の思いは届かなかった。
しばらく美羽と共に彼を観察し、龍神は言った。
「息も脈もない…確かに、死んでるな」
「嘘、だろ…」
知り合って日が浅い相手であるが、俺はショックだった。
それは、彼女も同じだろう。
「そっか…あんた、くたばったのか…」
美羽が、どこか切なげに言った。
龍神は、美羽の方を見た。
「今度の仕事が終わったら、スパイなんてやめさせてうちに来させようと思ってたんだけど…間に合わなかったね」
特別な作り笑いを浮かべる美羽に、龍神は申し訳無さそうに言った。
「美羽…ごめんな」
「なんであんたが謝るのよ。アードルは仕事でミスった。ただ、それだけのことだよ」
「いや、だが…アードルは、お前の…」
「しゃーないよ。騎士である以上、戦いとかいざこざに巻き込まれてあっけなく死ぬのが運命。…私だって、いつかはこうなるだろうなって思ってたから」
「そうか…」
龍神は、数秒の間をおいてまた、「ごめんな」とつぶやいた。
「二人共、お願いがあるんだけど」
「…なんだ?」
「なんか、適当な大きさの石持ってきてくれない?こいつ、弔ってやりたい」
「わかった」
「適当…って。まあいい。森の中だし、ある程度でかい石くらいあるだろ」
そうして、俺たちは森の中で一抱えほどある石とティッシュ箱くらいの大きさの石を見つけて美羽の元へ戻った。
その頃には、美羽はアードルの亡骸をほぼ埋め終わっていた。
「美羽、持ってきたぞ」
「ありがと。…じゃ、それここに置いてくれる?」
石は俺と龍神で1つずつ持ってきた。墓石にするのに2つも使うのか?と思ったが、美羽が弔うのを見て少々違うと知った。
1個は普通に立てて墓石にし、もう1個はその前に置いた。龍神に聞いたところ、これは騎士独自の埋葬の仕方で、メインの墓石は人間界のものと同様に故人と想い人を繋げる役割を持ち、墓石の前に置く小さめの石は故人の生前の功績を象徴し称える「勲章」のような役割があるという。
墓を作り終わり、美羽は墓石をじっと見た。
「アードル…」
静かに手を合わせ、彼女は頭を下げた。
俺と龍神もまた、同様に頭を下げた。
場は静まり返り、冷たく降る雨の音だけが聞こえていた。
「それにしても、なんでこんな所で死んでたんだろう?」
素朴な疑問を口にすると、龍神と美羽は露骨に怒りを浮かべた。
「アードルが、そう簡単に死ぬはずがない…ヤツが、死体を置いてったに違いない!」
「城の祈祷師が彼を殺して、私達への見せしめとして捨ててったんでしょ。…最低だわ!許せない…!」
「…美羽!アードルの仇、必ず討とう!」
「言われなくても!」
正直、敵の勢力のやる事としてはよくあるヤツだ。そして、それで犠牲者の関係者が怒りに震えるのもお決まりである。
だが、美羽はともかく龍神が怒りを口にするのは珍しい。
色んな意味で、祈祷師に会うのが楽しみになってきた。
その後は敵も現れず、町に到着した。
町に入ってすぐ、青髪の痩せた男に声をかけられた。
「君たち、もしかして旅人さんかな?」
「ああ。何か用か?」
「いきなり図々しいお願いで申し訳ないんだけどさ、旅人ならいろんなところに行くよね。僕も同行させてくれないかな?」
唐突な発言に、驚きを隠せなかった。
「え?」
「僕は旅の学者兼探検家なんだけど、1人では行ける範囲が限られててね。君たちの旅に、同行させてほしいんだ」
学者であり探検家…か。なんか、いい感じの肩書きだ。
だが、それより気になったのはその後の台詞であった。
「もちろん戦いの手伝いくらいはするよ。僕は祈祷師っていう種族でね。闇の魔法と黒魔法ならいくらか使えるんだ」
なんと、ここに来て祈祷師が仲間になりたいと申し出てきたのだ。
その言葉に困惑していると、彼は訂正するように言った。
「あ、もしかして何か企んでるじゃないか、とか思った?…なら、心配しないでほしい。僕はついこの前まで人間だった身だ、余計な感情なんかないよ」
「…本当だろうな?」
「もちろん。僕は、ただいろんなものを見て回りたいだけさ」
これまでのことがあるので、祈祷師という種族はすぐには信用できない。だが、彼の優しく素直な目を見る限り、嘘を言っているようには思えなかった。
「…わかった。俺は姜芽だ」
「僕はラウダス。自分のことくらいは出来るから、よろしく頼みます」
こうして、祈祷師の男ラウダスが仲間になった。
何気にこの軍では初めての闇使いであるが、心配なのは他のみんなの反応だ。
何しろ祈祷師だ、すんなり受け入れてくれるかどうか…。
しかし、そんな心配は無用だった。
確かに、最初はみんな怪訝な顔をしていたが、苺が魔法で精神鑑定みたいなのを行い、彼が嘘を言っていないことを確認すると、たちまち受け入れてくれた。
彼自身は、軍に他の魔法種族がいることに驚いてはいたが、修道士に対しては特にこれといった感情は抱いていないようだった。
正直これが一番心配だったので、大丈夫ならオーケーだ。
ちなみに今の俺たちの目的を話したところ、彼はさして驚かずに「なるほど。そういうことなら、戦う他ないな」と真剣な眼差しで言い、協力すると言ってくれた。
また、城にいるであろうアジェルの考えそうなこともある程度予想して語ってくれた。同族というだけはある。
なお、彼は学者ということでか本が好きらしく、馬車内に図書室があると知って驚きつつもえらく喜んでいた。
それなら、キョウラと一緒に司書をやるか?と聞いてみたが、「それは遠慮するよ」と断られた。
別に何か変な感情があるわけではなく、純粋に好きなように本を読んでいたいかららしい。
そう言えば、メニィやセルク、苺も読書は好きだと言っていた。
魔法種族は、みんな読書好きなのだろうか




