第165話 首都への道・始め
リビングでみんなで地図を見て、アラルへ向かうための経路を確認した。
ルートとしては、まず村のすぐ西の草原を通り抜け、ザムの山と呼ばれる小さな岩山を越える。そしてさらにその向こうの森を通り抜け、少し進めば、アラルに到着する。
なかなかの大冒険だが、いかにもファンタジー世界という感じがあって悪くない。
また計算の結果、ざっと10日ほどかかる道のりであることもわかった。
距離と経路がはっきりした以上、あとは道なりに進んでいき無事に到着できることを祈るのみである。
しかし、これがなかなか簡単にはいってくれなかった。
まず、最初の草原では異形の襲撃にあった。
見た限りは軟体系と植物系、つまり例の村で遭遇したのと同系統の異形であった。
軟体系にはスライムのような不定形のものはあまりおらず、真っ白い体に紫色の目を持つヒルのような姿をした「アスラーダ」と呼ばれる異形や、目も体も不気味なほど濃い青色をした空飛ぶタコ、といった姿の「ベオマンテ」といったように、人間界にも存在する軟体動物と同じような姿をしたものが多かった。
植物系は、緑をベースにいろんな色が混ざったグロいキノコ、といった感じの見た目の「ザザルゼット」、顔があって動くモミジの木といった見た目の「ラーリャー」、なんだかよくわからない見た目の植物「ランディナ」といった感じの連中がメインだった。
軟体の異形もそうだが、地味に精神的にくる見た目の連中が多いのは何なんだろうか。
しかもこいつらは戦闘面でなかなか厄介で、ラーリャーやベオマンテはそうでもなかったが、他の異形は毒を移してくることがあった。
ひとくちに毒と言っても、何もしなくても体力を奪っていくもの、体を痺れさせるものと二通りあり、前者はアスラーダ、後者はザザルゼットが移してきた。
後者に関しては「麻痺」であり、毒とは別物のような気がしたが、樹や柳助の説明によるとこの世界では「麻痺毒」または「神経毒」と呼ばれる毒の一種として扱われているらしい。なお、毒ではない「麻痺」というのはちゃんと別にあり、そちらは主に異人の技や術、武器に追加効果として付与されるとのことだ。
前者…徐々に体力が奪われる「負傷毒」は、受けた時点ではさして違和感はない。しかし時間が経つにつれて体力が落ちていく上、明らかに傷を負いやすくなる。
それまでかすり傷程度だった攻撃でも、血が滴る程度の傷を負わされるようになるのだ。
この毒には守備力を下げ、ダメージを受けやすくする効果もあるそうなので、断じて気のせいなどではない。やはり、こちらも受けたくはない。
幸いにも馬車には解毒薬があったし、修道士組の解毒魔法「エスト」、あるいは俺やメニィが覚えている太陽術「修復光」を使えば治療できたので、対処は難しくなかった。
ただし、場面によってはすぐに治療できないこともあり、その場合は毒を受けてもしばし戦い続けねばならないので少々辛かった。もっとも、麻痺毒に関してはこの限りではなかったが。
ちなみに異形自体に関してだが、最初こそ毒や慣れない攻撃に苦戦させられたものの、しばらく戦っていくうちにみんな攻撃を見切って躱せるようになり、また奴らは耐性がはっきりしていたので撃破には手こずらなかった。
軟体系は地属性、植物系は火属性と風属性に弱いようだったので、それぞれ柳助やメニィ、俺や猶、ナイアが出て適当に薙ぎ払った。
植物はともかく、軟体系の異形が地属性に弱いというのはなんか意外だった。
また、奴らは闇属性にも弱いらしい…こっちもなんか、しっくりこない。
それでふと思ったが、この軍には闇使いがいない。まあ、いた所でどうなるということでもないかもしれないが。
そうこうしているうちに草原を抜け、ザムの山のふもとに出た。
それは見上げた限りまさしく「岩山」で、木々はほとんどなく、緑は多少苔や背の低い草が岩場の所々を覆っている程度だ。
見晴らしがよく、そんなに標高の高い場所ではないにしろなかなか悪くない眺めだった。
しかし、眺めを楽しんでいる余裕はなかった。
山を登り始めてしばらくして雨が降り出したのだが、これがやたらと激しく、文字通り「滝のように」降ってきた。
最初は普通に進んでいたが、激しい雨によってあたりが霧がかかったようにかすみ、視界が悪い。また道が狭く、滑落の危険があることから、中腹の平坦になった道の途中で一時停車した。
「なんてこった…こんなことで足止め食らうなんて」
「仕方ないさ。山の天気は変わりやすいって言うし、それに…ロードアは大陸の中でも雨が多いところだから」
煌汰とそんな話をしていると、外から妙ながなり声が聞こえてきた。
やたら荒々しい口調からすると、山賊だろうか。
「山賊か?わざわざこの雨の中出てきたのか」
「山賊…というか、浪人というか。元々この山を縄張りにしてた連中だと思う。アラルから東に行くには、この山を越えないと遠回りになるから」
「輝のやつ、透明にするのを忘れてたか?…まあいい。見つかっちまったからには、お相手してやらないとな」
「だね。行こう」
煌汰と共に外に出ると、あたりにいたのはやはり山賊だった。ただし、手に剣や槍を持っていたので、一目で騎士の浪人だとわかった。
「へへ、外国からの旅人さんがた。哀れな村人におめぐみくだせぇや」
ボスと思しき髭面の男が語りかけてきた。
「お前たちは村人じゃないだろ。…なんで、この雨の中出てきた?」
「そりゃあ、わざわざ近くにきた獲物を逃がすわけにはいかないんでね。それに、よそ者のぼっちゃんどもに町に行かれちゃ困るって人がいる。ってわけで、おまえさんらにはここで消えてもらうぜ!」
男が叫ぶと同時に、取り巻きの浪人たちが剣を手に向かってきた。




