第163話 解決の余韻
気づいたら、見慣れた天井を見上げていた。
ここは…、俺の部屋だ。
同時に、見覚えのある顔も目に飛び込んできた。
それは、キョウラのものだった。
彼女は俺を覗き込んでいて、目が合った途端に泣いて喜んだ…「姜芽様!よかった…もう目覚めないかと思いました!」なんて言って。
「キョウラ…?俺は、一体…」
「覚えておられませんか?姜芽様は、殺人鬼に胸を刺されて致命傷を負ったんですよ」
「ああ…」
そうだ。思い出した。俺はあの殺人鬼と戦ってて、胸を刺されて…。
胸を触ってみると、包帯が巻かれていたものの傷は感じられず、痛みもなかった。
「もしかして、キョウラが助けてくれたのか?」
「いえ、私だけではありません。みんなで姜芽様をお救いしたんです」
「というと?」
「あの後、みんなでどうにか殺人者を破り、すぐに姜芽様を馬車へ運び込みました。そして、私とお母様達で一生懸命に治療して…ああ、本当によかったです、上手くいって…!」
キョウラは何やら手を合わせた。意味はよくわからないが、神に感謝します的な感じだろうか。僧侶だし、そういうことをやりそうだ。
「そうか…それはありがとな。で、奴はもう倒したのか?」
「はい。最後は、お母様と龍神様が彼にとどめを刺し、終わらせました。村長さんはご無事です」
「ならよかった。…あれから何日経った?」
「5日です。あと、今はまだ村にいます。あの後、姜芽様が目覚めて回復なさるまで村に滞在していいことになりまして」
「てことは、もう出発しなきゃないな」
意識は戻ったし、傷も塞がっている。包帯は外れてないが、痛みや後遺症の類いもない。これは、回復したと言っていいだろう。
「いえ、その前に村長さんの所へ行きましょう」
「村長の所に?あ、挨拶しにか?」
「それもありますが、村長さんが姜芽様にお礼をしたいらしく…目覚めて回復したら、是非一度来ていただきたいと言っていました。姜芽様、申し訳ありませんが、村長さんのお気持ちに応えるためにも、なるべくお早めに…」
「わかってる。今から行こう」
すると、キョウラは驚いたようだった。
「なんだ?あ、もしかして今夜か?」
「いえ、昼間ですが…その、姜芽様、もう立って歩いて大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ…たぶん」
痛みも苦しみもないので、普通に大丈夫だろう。そう思ってベッドを降りて歩いてみたが、やっぱり大丈夫だった。
「うん、やっぱり大丈夫だ。キョウラ、色々ありがとな」
一人で村長のところへ行こうとしたら、キョウラが引き止めてきた。
「待ってください!私も…同行させてください!」
「えっ…?」
何か警戒してるのだろうか。もう呪いは解けたのだし、1人で会っても大丈夫だろうに。
「村長の呪いはもう解けたんだよな?なら、1人で会いに言ってもいいだろ?」
「そうではなくて…!その…私、姜芽様のお近くにいたくて…」
キョウラは何やら照れながら言った。…なんかかわいい。
まあ俺としても、女の子にそんなこと言ってもらえると正直嬉しい。なので、拒否はしなかった。
「まあ、いいけどな」
「ありがとうございます。では…行きましょうか」
村長の元を訪れると、彼女はすぐに感謝の言葉を言って俺の手を握ってきた。
どうやら既に真実を聞いていたらしく、俺が命がけで彼女を救った事に感謝してくれていたらしい…俺が奴を倒したと言えるかは疑問だが。
「あなた方のおかげで、私はもう村のみんなに迷惑をかける心配はなくなりました。そして、私が私でなくなるリスクもまたなくなりました。本当に、ありがとうございます」
「いやいや。それに、俺はただ奴にやられただけで、倒したわけじゃない」
「ですが、それで他の皆さんが殺人鬼を倒せたと聞きます。どちらにせよ、あなた方が私を助けて下さったのに変わりはありません」
どういうことだ?とキョウラに聞いたところ、どうやら奴が俺を貫いた時、一瞬だけ隙ができた。そこを吏廻琉が突いて奴にダメージを与え、それからはみんなでわざと受け止められるような攻撃を繰り出しつつ、隙を見て攻撃を決める…という戦法を取り、見事奴を撃破したらしい。
つまるところ、俺は最初の囮になっただけであったようだ…まあ結果的に奴を倒せて彼女を救えたのだし、いいとしよう。
ついでに、俺自身もこうして復活できたわけであるし。
「彼女の呪いは、お母様と私で解きました。もう、異人に変身することはありません。そしてかの異人を倒せたのは、姜芽様のおかげです。私からも、言わせてください。ありがとうございます。そして…ごめんなさい」
キョウラは、深く頭を下げた。
「別にいいさ。結果オーライだしな。村長さん、呪いのこと…黙っててごめんな」
「いいんです。姜芽さんは、私の性格を考えた上でそうなさったのでしょうから」
そこまで見破られていたとは。人間、侮りがたし…である。
馬車に戻り、復活をみんなに伝えた。
キョウラが諦めなかったから助かったんだ…と抜かして勝手に騒いでいる樹と康介はさておき、吏廻琉と苺、あと龍神は純粋に喜んでくれた。
もちろん、他のメンバーも喜んでくれたが。
ちなみに、メニィ達にも一言礼を言っておいた。
彼女らのあの薬がなければ、村長を助けることはできなかったからだ。
残念だったのは、奴を討伐する場面をこの目で見られなかったこと。あと、せっかく習得してきた太陽術をろくに披露できなかったこと、であろうか。
まあ前者はともかく、後者はこれからも取り返すチャンスがあるだろうからいいとする。
翌日には村を出た。アラルに戻り、クレシュの討伐を報告するためだ。
相手が相手だったので物証はないが、何人もの証人がいる。きっと、本当のことだと認めてもらえるだろう。
そして王城に入ったら、国を乗っ取った祈祷師を問い詰めて、そいつをぶっ飛ばして、この国を救う。
いかにも主人公らしいことである。
そう思うと、自然と行く先が楽しみになるのだった。




