第161話 いざ戦いへ
龍神は村長の家に向かい、吏廻琉を呼び出した。
村長は寝ていたので、キョウラも一緒に呼んで話をつけた。
その際、キョウラは奴が村長に乗り移るような形の呪いをかけたことに驚いていたが、吏廻琉はそれより奴の裏にアジェルがいたことを気にかけていた。
「殺人者に、そんなことができる者がいるなんて…」
「へえ…高位の月術を使えるなんて感心ね。それより、裏に…アジェルだっけ?あいつがいたのね。どうりで、妙に呪いの力が強いはずだわ」
「そうなんだ。で、呪いの元凶…というか、奴のパワーを強化していた源である悪辣石はさっき割って、月の魔力を消した。だから、呪いの力は幾分弱まったはずだ」
「なら、私達で呪いを解けるかしら」
「できなくはないかもだが…それより、そろそろ魔女っ娘たちの薬ができるだろう。それを試してからでもいいんじゃないか?」
「それもそうね。彼女らの頑張りを無駄にするわけにはいかないわ」
その日の昼すぎには、薬が出来上がったと報告があった。
さっそく飲ませよう…と思ったが、龍神が「夜にやったほうがいい気がする」と言うので、夜まで待った。
そして、夜…
いよいよ村長の元へ出向き、薬を飲ませた。
メンバーはメニィ、吏廻琉、キョウラ、龍神、煌汰、そして俺。別に戦うわけではないが、彼女の身を案じる者が集まった、という感じである。
幸いにも彼女は薬をすんなり飲んでくれたので、ここでごねるようなことはなかった。
薬を飲むと、彼女はすぐに眠ってしまった。
「言い忘れてましたけど、今回の薬にはいくつか追加効果もありますよ」
メニィがそう言ったので、俺は驚いた。
「どういうことだ?」
「睡眠導入と精神力増強、あと回復力増強の効果を持たせてあります。一応言っておくと、これは私が自分で考えたんじゃなくて、主に美羽さんの提案です」
すると、なぜか龍神が文句を言った。
「おい!俺も助言してやっただろうが!」
「主に…って言いましたよ」
メニィは、冷たい横目で彼を見た。どうやら、まだ彼の事が好きになれないようだ。
まあ、仕方あるまい。
「薬は飲ませたし、これで…いいのか?」
「効果があれば、明日正常な状態になって目覚めるはずです。…言っておきますけど、薬なので効かないこともありますからね」
「それはわかってる。…覚悟の上だ」
どんなに強い効果のあるものであろうと、所詮は『薬』である。絶対、あるいは究極の効果があるものではあるまい。
呪いの力は弱まっているのだから、大丈夫だとは思うが…もし薬が効かないなら、吏廻琉達にもう一度解呪を頼むか、最悪彼女の命を絶ってでも終わらせる。そのつもりだ。
「では、戻りましょう。明日、彼女の呪いが解けていることを願って…」
「おっと、待ちな!」
龍神が肩を掴むと、メニィは振り向いてめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「…何ですか?」
「まだ、やることがあるだろ?」
「…は?」
龍神は村長の方に目線を移す。
それで、みんなも同様に目線を移した。
すると…
「!!」
村長は突如目をぱっちり開け、痙攣したようにビクビク動き始めた。
「なんだ!?薬の副作用か!?」
「いや、違う…これは…」
龍神が怪しげに微笑んだ次の瞬間、村長の口から紫色の霧のようなものが噴き出てきた。
それは最初モワモワと煙のように漂っていたが、やがてしっかりした形を取った。
そして、最終的には大柄な異人の姿となって落ち着いた。
「これは…!」
間違いない。以前、アラル近くの山で見たのと、先日村の中央で見たのと、同じだ。
「こいつが、殺人鬼クレシュ…」
吏廻琉がそうつぶやくと、奴は彼女を視界に捉えた。
そして、
「っ…!」
奴は電光石火の速さで、吏廻琉に剣を振り下ろした。
吏廻琉は杖で受け止めていたが、その表情はやや苦戦していた。
「[アクスカッター]!」
斧を投げたが、奴の体をすり抜けた。
驚いている間に、奴はこちらに目線だけ向けて右手を向けてきた。
すると、その掌から強烈な光が照射された。
「うわっ!」
声を上げたのは、単に眩しかったからではない。光が目に入った途端、激しい痛みが襲ってきたのだ。
それはまるで、目玉を潰されたかのような…そんな、痛みだった。
しかも、思わず目を手で覆って離した時に気づいたのだが、視界が白くぼやけてよく見えない。どうやら、目潰しの効果もあったようだ。
「[月光の怒り]か…おっと!」
龍神は奴の術が何かわかったようで、最後の声からすると目を覆って躱したのだろう。
他にも何人かが術を食らったらしく、数人の悲鳴が聞こえた。
逆に躱したのは、声からすると煌汰と吏廻琉か。まあ煌汰は月術を使えるらしいし、龍神と吏廻琉はなんか色々経験してそうなので、おかしくはない。
「[ムーンベール]!」
煌汰が術らしき言葉を唱えると、途端に目の痛みが消え、同時に視界も回復した。回復系の術か。
「こいつは霊体だから、実体はない…つまり、普通の攻撃は効果がない!」
龍神がそう言うと、煌汰が反応した。
「なら、聖水を使おう!龍神、持ってない!?」
「いや、無駄だ!あれはあくまで、アンデッドを殺せるようになるだけのもの…普通の霊体の敵には、別のものが必要だ!」
「別のもの…!?」
それを聞いて、俺ははっと閃いた。
そして、意識せずして体が動いていた。
「[サンオーラ]!」
術を唱え、あたりにオレンジ色の光を展開する。
神聖な光で、全員の傷を癒やしつつ「対霊」、つまり実体を持たずアンデッドでもない敵を滅ぼせる効果を付与する、太陽術だ。
「姜芽さん…!?」
「姜芽様…!」
俺が初めて実戦で太陽術を使ったことに、メニィとキョウラが驚いている。
だが、今はそんな場合ではない。
斧を手に戻しつつ、俺は言った。
「みんな、武器を構えろ。今ので、攻撃は当たるようになった。あとは、こいつを倒して村長を救うだけだ!」




