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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
4章・ロードアの長旅

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第159話 彼女が為に

ラナの枕元には、やはりと言うべきか吏廻琉とキョウラがいた。ラナは普通に身を起こして2人と話していたので、既にだいぶ回復したようだ。


彼女は俺たちの方を見てきた。

「あっ、あなた方は…」


「久しぶりだな。傷は大丈夫か?」


「はい…吏廻琉さんとキョウラさんのおかげで、だいぶ良くなりました」


「そうか」


俺は、座り込んで彼女をじっと見た。


「怪我したときのことは、何も覚えてないんだよな?」


「…はい、まったく」


背後にいる輝たちの顔を見回すと、みんなは無言でこちらをじっと見てきた他、数人は無言で頷いてきた。


「もしかして、何かご存知なんですか?」

ラナはそう聞いてきた。

どう答えるかは、すでに決めている。




「いや、特には。ただ、君の怪我がなかなかだったって聞いたから、気になってな」


「そうでしたか。たしかに、私はかなりひどい傷を負っていたそうです。何なら、昨日目が覚めたばっかりですから」


「そうか…でも、とにかく助かってよかったな」


「はい。皆さんにも、ご心配をおかけしました」



…あの後、改めてみんなで話し合った。

本当に、真実を彼女に打ち明けるべきなのかと。


実は、美羽たちが拾ってきた情報の中には村長…すなわちラナの性格について知れるものもあった。

それによると、彼女は責任感が強く真面目な性格なのだという。

真面目なのはともかく、責任感が強いというのは、こういう事があった場合は邪魔…というか少々厄介な行動を本人に取らせる原因になりやすい。


村の人達は、異人に変身した村長は危害を加えてはこないが怖い、だから夜は出歩かないし、子供も早く寝かせる…と言っていた。

それを彼女が知ったら、どうなるだろう。

自分が気づいていない間に異人に変身し、毎日村の人達に怖い思いをさせていたのだ。おそらくは責任を感じ、村を出ていってしまうだろう。


そうなれば村の人達は色々と困ることになるし、何より彼女自身も変わらず、誰も救われない。そんな結末を辿ったのでは、あまりにやりきれない。

なので、ここでは敢えて彼女に真実を伝えず、ごまかす。

それが、俺たちの最終的な決断であった。




もちろん、そのままこの件から手を引くなんてことはしない。ちゃんと、次の手をうつ準備はしてある。


馬車に戻ってすぐ、俺は調合場へ向かった…ちなみに調合場とは、文字通り魔法薬などを調合するために作られた場所で、いかにもな感じの大鍋や大きなつぼがある。

以前、美羽から魔法薬調合が好きだと聞き、さらにこの軍に同じ趣味を持つ者が複数人いると知った王女様が、置き土産として残していってくれたものだ。


王女様は「構築」の異能を持っており、建物や部屋、銅像などを何でも一瞬で作り出せるらしく、それを使ってこの部屋を作ってくれた。

その能力には心底驚かされた…王子も、「こんなことができたのか」と驚いていたほどだ。

いっそ我が軍に入って欲しいと思ったのだが、彼女は兄とは違う。惜しくはあったが、引き止めはしなかった。


…で、この調合場には現在メニィと樹と美羽がいる。

俺は、3人に声をかけた。


「帰ったぞ。どうだ、うまくいきそうか?」


「はい。時間はかかるけど、何とかできそうです」


「材料も足りそうだし、この子の腕も確かだし。大丈夫だと思う」


「だな。オレたちが補佐に来るまでもなかった、って感じだぜ」

この3人には、ある魔法薬を作ってもらっている。

詳しいことは知らないが、それを使えば呪いを安全に解くことができるらしいからだ。


実は、2日ほど前に吏廻琉から連絡があった。それによると、ラナにかけられた呪いは本来彼女の自我と肉体を完全に乗っ取り、異人として暴れまわるようにするはずのものだが、彼女自身の強い精神力のおかげで暴走を制御できているという。

村にただ現れるだけで、暴れなかったのはそういうことのようだ。


そして、この呪い自体は非常に強力なもので、すでに彼女の体の大半を蝕んでいる。

吏廻琉はキョウラと共に毎日彼女の家に泊まり込み、呪いの進行を止めつつ変身を阻止していたが、それでも少々辛い。


このままでは埒が明かないし、何より根本的な解決にならない。それに、ずっとここにいるわけにもいかない。しかしもし吏廻琉たちが彼女の元を離れば、彼女の呪いはまた進行していく。最終的には、完全に自我を失って暴れまわるようになるだろう。

そうなる前に、どうにかそちらで解決策を見つけ出してほしい。申し訳ないが、こちらはもう手一杯だ。

吏廻琉は、そう言ってきた。


一度は苺が向こうに赴いて解呪を試みたが、何らかの邪悪な力に阻まれて出来ず、一時的に吏廻琉達の魔力を減らないようにするのが精一杯だったという。


そこで、俺たちは緊急で会議を行った。何か、いい案はないかと。

その場で、美羽が「解毒の秘薬」という魔法薬を試してみては、という案を出した。これは毒を治療する「解毒薬」の強化版とでも言うべきもので、飲めば衰弱や弱体などの毒のみならず、他者にかけられた術や呪いももれなく解除できる魔法薬なのだという。


独自の製法で作られる薬品であり材料と時間が豊富に必要だが、幸いにも材料と設備はこの馬車にある。効果があるという保証はないが、試してみるのはどうだろうか。

それが、美羽の案であった。


もちろん、採用しない手はなかった。

そのため、魔法薬作りが得意なメニィ達に調合を頼み、その間に俺たちはラナ本人と話をつけにいった、というわけである。


「なら、大丈夫だな。どのくらいかかりそうなんだ?」


「あと5日ほどです。なかなか溶けない材料があったりするので、どうしても時間がかかります」


「まあ、仕方ないな。吏廻琉たちには当分村長の様子を見るよう言ってあるし、時間は大丈夫だから、失敗しないよう作ってくれ」


「はい!頑張ります!」

メニィは明るい笑顔で笑った。

大丈夫だとは思うが、くれぐれも失敗せずに完成させて欲しいものである。


あとは、俺たちがどう時間を稼げるか、だ。




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