第12話 始まりの終わり
家に戻り、教会で聞いた事を話した。
そして、早速だが冒険に出ようと思っている、という旨を話したら、みんな全面的に賛成してくれた。
さらに、柳助がこんな事を言い出した。
「なあ、せっかくだから俺達もみんなで冒険に行かないか?」
この一言で、なんと家にいるみんながついてくることになった。
とは言え、どうしたものか。
さすがにみんなでゾロゾロと移動するのは目立つ。
それを樹とキョウラに話したら、キョウラが「二手に分かれればいいのではないでしょうか」と言ってきた。
「つまり、俺達と一緒にくるやつと別に動くやつに分かれると?」
「はい。4人程度の旅人なら、然程怪しまれないかと思いますし」
「だな。それに分隊がいれば、何かと便利だし」
樹は元より、他の面々も反対してこなかったので、そうする事にした。
結局、俺はキョウラと樹の他に猶を加え、残りの3人に別動隊として動いてもらう事にした。
柳助は「俺達は別動隊か」と言ってたから、不満だったのかなとも思ったが、その直後に「まあ、いいだろう」と。
「でも、別にどこに行くっていうあてもないし、この町にいる間は一緒に行動する、でもいいんじゃないか?」
「それもそうだな」
というわけで、しばらくは集団行動する事になりそうだ。
「そう言えば、姜芽が何の武器を使うのか聞いてなかったな」
猶が言い出した。
「あ、確かにね。何を使うんだ?」
「斧、だな」
「斧…か。なるほどね」
煌汰は妙に納得したようだった。
「そういう煌汰は何を使うんだよ?」
「僕は剣だよ…盾とセットで使うんだ」
「へえ、要は勇者スタイルなわけか」
「ま、そんな感じだね」
他の3人の武器はというと、猶は短剣を二本持ちで扱い、柳助はでかいハンマーを扱うらしい。
そして、輝は弓を扱うとのこと。
「結構バラバラなんだな…あれ、龍神は何を使うんだ?」
「龍神は…刀と弓、だったかな。あとブーメランとか短剣も使えたと思う」
4種類の武器を扱う訳か。
なぜ、1人だけそんなハイスペックなのだろう。
「ま、言うて僕もブーメランと短剣は使えるけどね」
「俺も斧と大剣、なら使えるな。ハンマーだけだと分が悪い場面もあるからな」
「輝だって、爪と鞭は使えるぜ。あと、猶は扇と剣を使えるし、樹だって槍と大剣を使える。みんな、一つの武器種の専攻じゃない」
その辺も、RPGみたいだな…と思った。
「へーえ。俺はまだ斧しか使った事ないけど…他のも使えるのかな」
「使えると思うよ。っていうか、姜芽…」
輝は、何やら俺をじっと見てきた。
「なんだよ?」
「…いや、なんでもないよ」
そこに、煌汰が割り込んできた。
「なあ、まずはどこに行く?」
「どこに…って言われてもな」
すると、樹が発言した。
「それなら、町を一通り回ってみるのはどうだ?姜芽はまだ、施設とか詳しく知らないだろうし」
「それもそうだな。じゃ、町めぐりといくか!みんな、いいよな?」
「ああ。基本的な事を知らないと始まらないしな」
「施設について知らないと、RPGなんてやれないもんね!」
煌汰はもろにRPGと言っていた。
まず訪れたのは、鉄みたいな金属の屋根が被せられた家。
入口には、交差させた剣…が彫られた看板がかけられている。
これは…まあ、何となくわかる。
ここは、たぶん武器屋だ。
「まずはここからだな。ここは…」
樹が説明を始めてくれたが、正直聞くまでもない気がする。
「武器屋、か?」
「ああそうだ。なんでわかった?」
「看板から察したよ」
「…あ、なるほどな。で、ここでは錬金、錬成っていうのも出来るんだ」
「それって、アイテムから違うアイテムを作ったり、装備を強化したりできるあれか?」
「まあそうだな。で、錬金・錬成にはそれぞれ、素材になるものが必要で…って、説明する必要ないかな。ここだけじゃないけど、この世界の施設は、基本的には字面から察せる通りの使い方だ」
「そうか。なら安心だ」
そうであるなら、こちらとしても余計な事を考える必要がないので安心である。
「でも、とりあえず一通り回ってみようぜ?」
「だな」
それから、あちこちの施設を回った。
防具屋、道具屋、魔法店といった店の他に、酒場や市場、教会なんかもあった。
教会はさっき行った所以外の2つを見て回った。
こうして見ると、この町は結構大きいようだ。
そして俺は、気になっていた事を言った。
「冒険に出る前に、王城に挨拶とかしなくていいのか?」
「ああ…言っただろ?王城には主がいなくて、王妃と兵士しかいないんだよ」
「王妃…か。その人では王の代わりはできないのか?」
「できなく…はないんだろうけど、みんな従わないと思うよ。やっぱり国王でないとな」
「そうか…」
男尊女卑の考えは、この世界でも健在なのか。なんとも残念なものだ。
「正直、それも変だと思うけどな。それに、ここの王妃はめちゃくちゃキレイな人なんだぜ…?細身で背が高くて、剣と刀、あと槍を使いこなすし、異人としても最高位の騎士なんだ。ああ…いつか一緒に冒険出来たらなあ…」
「騎士、って煌汰の種族だっけか。上位種族はどういうふうになってるんだ?」
「騎士の上は聖騎士、その上が魔騎士。魔騎士の上が、霊騎士だ。この国の王妃は、その霊騎士なんだよ」
「霊騎士…名前的に精霊とかと関係あるのか?」
「いや、霊騎士は『魂』と関わりがある。死んだ者の魂を冥府…死者の世界に運び、これからこの世に生まれてくる者の魂を連れて来る、っていう案内人みたいな役目を果たしてるらしい。
そして霊騎士は『霊魂』っていうのを持ってて、これが完全に破壊されない限りは死なないし、仮に死んだとしても、記憶をとどめた生まれ変わり…俗に言う『輪廻転生』が自分の意思で出来る。だから、実質不死身みたいなもんだぜ。寿命もほぼないと言っていいくらい長生きだしな」
「なんだそのチート種族…」
「おっと、勘違いするなよ?チート種族なら他にもいるぜ。例えばオレの種族は『探求者』だけど、探求者系の最上位種族の『冒険者』は、めちゃくちゃ頭が良くて、あらゆる仕掛けや謎を解けるし、体と心は何万年経っても青年のままだ」
年を取らない、って事か。
そりゃ、素直に羨ましい。
「さて、これで町めぐりは終わりだ。ここからは…どうするかな」
すると、柳助が提案してきた。
「なら、西の洞窟にでも行ってくるといいだろう。あそこなら、実戦訓練も可能だしな」
「あー、あそこか。…そうだな、よし!西の洞窟に行こう!」
「西の洞窟と言いますと…異形の巣窟として有名な、あの洞窟ですか?」
「そうだ。一般人なら危険な場所だけど、オレたちは冒険家だ、あそこくらいは突破できないとな!」
樹の言い方からすると、たぶん最初のダンジョン的なものなのだろう。
ならば、行かないという選択肢はない。
「姜芽様…どうしましょう?」
「行く。ぜひ行かせて欲しい。キョウラは…行かないか?」
「いえ、姜芽様が行かれるのなら…」
「決まりだな。よし、行くぞ!」
「よっしゃ、派手に暴れてやるとするか。
姜芽、キョウラ!遅れんじゃねえぞ!」
猶はさっさと走っていってしまった。
「あ、おい!…はあ、仕方ないやつだ。まず、行こうか」




