第11話 フィーリルの教会
向こうへ向かう途中、少し話を聞いた。
「なあ、適正…ってなんなんだ?」
「術の属性との相性だ。この世界では異人が使う魔法を『術法』、もしくは『術』って呼ぶんだが、これには光と闇の他、理と総称される火、水、電、地、風、氷の8つの属性がある。で、その中でどの属性と相性が良いかは人によって異なる。相性が良いと強力な魔法も扱いやすくなるし、威力も高くなる。悪いとその逆だ。だから、属性との相性は大事なんだ」
「なるほど」
さて、家を出て左に直進すること数分、青塗りの壁の立派な建物が見えてきた。
「あれか?」
「ああ。この町に3つある中で一番大きい教会だ」
教会なんて行くの初めてだ。
まあ、人間界の教会とこの世界の教会は違うんだろうが。
「キョウラはここの僧侶と知り合いなのか?」
「はい。この教会の僧侶、メキラ様とは幼い時からの知り合いなんです」
「へえ…」
幼い時…と言っても、一体何年前の話なのだろうか。
キョウラは見た感じ20代だが…30年は生きてるって言ってたよな。
「てか、僧侶ってもしかして異人か?」
「ええ。僧侶は私達修道士の上、司祭の下の種族です。中級の光と白の魔法を扱う他に、『杖』を用いて自身の魔力を底上げすることもできます」
「へえ…あれ、てことは、牧師とか神官とかって異人もいるのか?」
「牧師…はいませんが、神官という種族は存在します。僧侶の亜種で、大神官と司祭のどちらかに昇格できます」
亜種とかいるのか。
これまたモ◯ハンを思い出す要素である。
「失礼します」
教会の扉を開け、キョウラは声を上げた。
奥では1人の女が何かの本を読んでいて、キョウラの声に反応して顔を上げた。
「…おや、これはキョウラさん」
「お久しぶりです、メキラ様」
「そちらの方々は?」
「白い人の姜芽様と、樹様です。私、外界回りの修行に際して、お二人の旅に同行させていただいているんです」
メキラと呼ばれたその女は、こちらを真剣な眼差しで見てきた。
「…なるほど。それで、そちらの方の魔法の適正を知りにきた…という訳ですね」
「なんでわかるんだ」
樹の言う通りである。
「失礼致しました。私は僧侶のメキラ・ウィテールと申します」
「いや、そうじゃなくて、なんでオレたちが姜芽の魔法の適正を知りたくて来たってわかったんだ?」
「私はこれまでに50人ほど白い人の方の魔法の適正を見てきました。なので白い人の方の訪問には慣れておりまして」
「そ、そうか。じゃ、姜芽の適正も見てくれるんだな?」
「もちろんです。では姜芽さん、こちらへ」
望み通り前に出ると、女は、台の上に透明な水晶玉みたいなのを出現させ、この上に手を乗せるよう言ってきた。
言われるがまま玉に手を乗せると、球体の中に黒い濁りが浮かんできた。
それはやがてもわーっと全体に広がり、球体全体が黒くなった。
「まだ手を離さないで下さい。これからです」
それには答えず、黙って見ていると、やがて球体の真ん中に白い濁りが現れた。
それはみるみるうちに全体に広まり、赤と白を混ぜたような色に変色した。
「…OKです。手を離していいですよ」
「結局、これは何なんだ?」
「これは『見極めの水晶』と言って、手に取った者の適正属性を色で判断します。赤と白の混合色になったという事は、あなたの適正は火属性と光属性です」
すると、樹が驚いた。
「へえ、光にも適正があるのか」
「と、言いますと?」
「いやー、実はな、こいつは火を操る異能を持ってるんだ。だから火属性に適正があるのは予想できたが、光にも適正があるとは思わなかった」
「同感です。まさか、姜芽様が私と同じ属性に適正がおありだなんて…」
キョウラの言葉で思い出した。
そう言えば、キョウラも光の魔法を使ってたっけ。
「では、さっそくテストしましょう」
は?テスト?と思った矢先、メキラは透明な結界みたいなのを作り出した。
「私に手を翳し、意識を集中してください。身の底から湧いてくる魔力を感じ、自然と浮かんでくる銘を唱えるのです…」
意味がわからないが、とりあえず手を翳して集中した。
すると、不思議と体の奥底から謎の力が湧き上がってきた。
いや、それだけじゃない、謎の言葉も同時に…。
気づけば、俺は自分でも意味がわからない言葉を叫んでいた。
「炎法 [ソロファイア]」
さらにそれと同時に、俺の掌からサッカーボール大の火の玉が飛び出した。
「…!」
「お見事です。今あなたが放ったものが術法…異人の魔法です」
「術法…」
異人が使う魔法を術法と言うのか。
正直、魔法という呼び方の方がピンとくるのだが…まあ、仕方ない。
「いかがです?術を放つ瞬間、体の奥底から何とも表現できない力が湧き上がってきたでしょう?」
「ああ…これは…?」
「それが魔力…魔法を扱う上で必須の力です。それなくして、魔法は扱えない。しかし、魔力を上手く制御できるようになるには長い努力が必要です」
「努力…どうすればいいんだ?」
「魔法を使っていれば、やがて出来るようになるでしょう。最初は難しいかもしれませんが、繰り返し使用していれば必ず上達します。そして、魔力を上手く扱えるようになれば、術もまた強大なものを扱えるようになります」
「…つまり、魔力を上手く操作できるようになれば、もっと強い術を扱えるようになる…ってことか?」
「そうです。強大な魔法を扱う者は、必ず相応の訓練を積んでいます。あなたも訓練を積んでいけば、必ずそうなれるはずです。では、次に行きましょう」
「次?」
「はい。光の術も試してみたくはありませんか?」
「まあ、な」
「では…」
メキラは再び結界を張った。
「先ほどと同様に、手を翳して念じなさい。
ただし、今度は魔力を制御して…」
魔力を制御、って言われてもな。
そう思いながら手を翳し、浮かんでくる言葉を唱える…
(…!)
その時、伸ばした手に力が集まるのを感じた。
何とも表現しがたい、不思議な力…これが、魔力か。
俺はそれを手に集め、叫ぶように言った。
「光法 [スコールフラッシュ]」
無数の小さな泡みたいなものが現れ、弾けて光を撒き散らした。
「…素晴らしいです。これなら、魔力を完全に制御できるようになるのも時間の問題でしょう」
「本当か!」
俺…ではなく、樹の声であった。
「今しがた術法を覚えたばかりで、ここまで魔力を制御できるならば、十分かと。私はこれまで多くの異人を見てきましたが、防人でこうも最初から魔力を上手く操れる異人は見たことがありません」
メキラは、はっとしたように言った。
「…もしかしたら、あなたは何か、特異な力や役目を与えられた存在なのかもしれませんね」
その言葉に、この上ない興奮と喜びを感じた。
そして、キョウラも嬉しそうにしてくれた。
「やはり、姜芽様には何かとてつもない力が眠っているのですね、メキラ様!」
「私は予言者ではないので、断言はできません。しかし…わかっているかとは思いますが、それを目覚めさせるのは容易ではありません。多くの異人と関わり、時には命をかけて戦い、あらゆる苦難を乗り越え…その上で、成せる事でしょう」
「…なるほど。つまり、とにかく冒険しまくればいいわけだな」
メキラは樹の言葉に「それはちょっと違うんだよなあ…」的な顔をしつつ、「まあ、そうなりますね」と頷いた。
「んだってよ。よしゃ、姜芽!さっそく冒険の旅に出ようぜ!」
「落ち着けよ…まず、帰ってみんなに報告しなきゃないだろ」
「そんなのすぐに済ませられるって。キョウラも、姜芽と冒険したいだろ?」
「え…?まあ、姜芽様が行かれるなら…」
「んだよな。ほら、行くぞ姜芽!」
「ちょ、手引っ張るなよ!」
異能、技、奥義と来て次は魔法か。
正直まだ実感が湧かないし、馴染めてないが…俺、本当に異世界転移したんだな。
しかも、昔の知り合いも一緒だ。
まあ…なんだ。
よくわかんないけど、とりあえず…
この世界を、色々と冒険しますか。




