第132話 浪人の本拠地へ
龍神は颯爽と木の間を通り抜け、右の低木の陰にいた2人を低木ごと斬り裂いた。そして、ついでとばかりに左手を振るって電撃を飛ばし、奥の木の陰にいた3人に浴びせた。
これで、入り口付近の敵は全て倒せたことになる…さらっと電撃が木を貫通していたのには驚いたが。
奴は敵を倒すや否やこちらを振り向き、早くこいよと催促してきた。…言われなくとも行くのだが。
ちなみに木の間を通り抜けて少し進んだ所で、何かが足に当たったので足元を見てみたら、変な形の金属製の物体があった。
メニィによると「鉄の花」というもので、トラバサミとよく似た構造を持った対人用の罠だという。
ただし、持ち上げてメニィに見せたところ、既に壊れているとのことだった。
先ほど龍神が使った魔法は、見せかけではなかったらしい。
みんなが奴の隣へ辿り着くと、今度は龍神が探知結界を張った。
「そこの木から15歩の所の右、そこの木の上に刀持ちが一人。あと、左側の木の上にも斧持ちが一人。そして、道なりに20歩進んだ所に術師が三人。全員、氷持ちだ」
「わかった…」
俺たちは、道の奥を眺めた。
しかし、ここから大体20歩進んだあたりの所は道が広くなっており、サッと飛び出せそうな低木や木はない。
…と思っていたら、龍神が補足した。
「あ、そうだ。術師は木の上とか木陰とかにいるんじゃなくて、地面に掘った穴に隠れてる。で、その上に、シートみたいなものをかけてカモフラージュしてる」
「…?」
目をこらして見てみると、確かに10メートルほど離れた所の地面に茂みのような草の塊があった。
しかし、それは言われなければ普通の茂みと全く区別がつかない。さながらテレビ番組で出てくるカモフラージュのシートのようだ。
もし本当にあれが奴らの偽装なんだとしたら、すごいクォリティだ。
「それで、俺達が近づくと飛び出してくる…って寸法か。まるでゲリラだな」
「ある意味では、間違いではないかな。奴らは正規の兵じゃないし」
煌汰はそう言って、両手を正面で向かい合わせた。
「氷法 [ハイブリザード]」
俺達の頭上、辺りの木々の上の部分と同じくらいの高さを帯状の吹雪が吹き抜ける。
すると、奥の木々の葉っぱの中から悲鳴のような声が聞こえ、浪人が落ちてきた。
「よし、炙り出せた…!今のうちだ!」
煌汰は走り出し、最寄りの浪人の首に剣を振り下ろし、その奥の浪人にも駆け寄って胸を刺した。
「おっ、気が早いな。俺達も行こう」
何も知らないかのように進み、例の茂みの所に来ると、やはり奴らは一斉に飛び出してきた。
複数の小さな氷の刃を飛ばしてくる、大きな氷の塊を落としてくる、地面から氷柱を伸ばしてくるといったように、それぞれが別の術を放ってきたが、いずれも氷の術であった。
メニィは氷柱の攻撃を宙返りで躱し、龍神は身を翻して氷の刃を回避。煌汰と俺は、頭上に盾を構えて落ちてくる氷を防いだ。
そして、俺は剣を振るう。
「剣技 [返し斬り]」
素早く剣を振るって2連続の斬撃を繰り出し、1人を倒した。
残りの2人に対しても、盾を構える。
「炎法 [ガードフレイム]」
火炎放射さながらに炎を噴き出し、焼き払った。幸いにも、すぐ近くにあった奴らの使い捨てた偽装シートには燃え移らなかった。
それからは、基本的に道なりに進むだけだった。
定期的に浪人は出てくるが、一度に現れる数は多くて5人程度なのでそんなに手こずらない。
そもそも、事前に龍神が適当な所で探知結界を張ってくれるので隠れ場所もほぼほぼわかる。
ましてや、浪人の中にそんなに強い相手が紛れているわけでもない。ついでに言えば、何故かぱったりと異形が出てこなくなった。
というわけで、あとはだいぶ楽…かに思われたのだが、そうもいかなかった。
しばらく進んでいき、奴らの本拠地たる森の奥地に辿り着いた。
そこには、焚き火や簡易的な寝袋、テントのようなものなどがあり、小さな集落のようになっていた。
何人かの浪人がうろついているのはいいにしても、その奥の方がちょっとばかり問題だった。
なんと、1人の若い男が狭い檻に閉じ込められていた。はっきりとはわからないが、おそらくアラルの人だろう。
檻の前には、2人の大柄な浪人が立ちはだかっている。
どちらもここまでの浪人より頑丈そうな鎧を身に着け、立派な大剣を背負っており、いかにも強そうに見える。
少なくとも、ヒラの浪人よりは強いだろう。
幸いにも、俺達は今本拠地の入り口横の低木の陰から一連の様子を眺めており、向こうに気づかれてはいない。
だが、このままではいずれ本拠地を出ようとする浪人に気づかれるだろう。
そこで、作戦会議はササッと済ませ、行動に出た。
二手に分かれ、龍神と煌汰が見つからないよう外側を回って男が閉じ込められている檻の後ろまで行く。
向こうが到着した事を確認したら、俺とメニィも行動を開始する。
なんだかんだで、彼女と2人で動くのは初めてな気がする。
となれば、なおのこと失敗はできない。
注意深く行動し、作戦を成功させよう。




