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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
4章・ロードアの長旅

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第122話 宵闇の中の影

夜の町は、控えめに言って暗い。

いや、当たり前だろ…と突っ込まれるかもしれないが、人間界のそれよりずっと暗い。町中に街灯のようなものが少ないので、必然的に暗くなっているのである。

3m先の地面すらまともに見えない。別に目がいいわけではないが。


確かに、こんな暗闇の中ならゾンビとか幽霊が出てきてもおかしくない。

なんか、肝試しに来ているような感覚だ。

最も、肝試しとはわけが違うのだが。


明かりをつけた方がよくないかと提案したのだが、「それはダメだ。明かりをつけるとろくなことがない。夜に奴らと戦う時は、闇戦が基本だ」と、猶に否定されてしまった。


「なんだ…アンデッドって暗がりでも目が効くのか?」


「基本的にはな。逆に奴らはこっちが暗闇で目が利かないことは心得てる」


「そんなの、普通に不利じゃんか…」


「彼らとの戦いは、こちらに不利なのが平常運転です。そもそも、向こうには失う命も恐怖もありませんし」

猶…ではなくキョウラにそう言われた。


「とはいえこのままでは、私達にとって難易度の高い戦いになるのは間違いありません。暗視の魔法を使っておきます」

キョウラが杖を掲げて魔法を唱えると、たちまち明かりがないのにまわりがよく見えるようになった。


「おお…すげえや」


「これなら、問題はなさそうね。さっさと奴らを見つけて、駆除しましょ」


紗妃は率先して前に進もうとしたが、キョウラがそれを止めた。


「あまり先を行かないでください。もしもの時、対応ができないので」


「もしもの時?」


「はい。もちろん、紗妃さんの実力を疑っているというわけではありませんが、念のため」


なんとなくごねそうだな…と思ったのだが、紗妃は意外なほどすんなり納得し、俺たちの中に戻ってきた。






それからしばらく進んで、突然キョウラが立ち止まった。

「いました…!」


彼女の目線の先にいたのは、若干ふらつきながら歩く人影。

その動きは、まさしく酔っぱらいに似ている。


…ん?影?

今、俺はキョウラの魔法のおかげでものがはっきり見えている。

なのに、影のように…全身真っ黒に見える…?


「…なるほどね。ありゃ、完全にアンデッドだわ」

紗妃に言われて、やっと理解が追いついた。

そうか、アレはもとより真っ黒い影のような姿をしたアンデッドなのか。

だが、正直幽霊とかには見えない。


「アンデッド…あれが…?」


「そう。『スペクター』って言ったっけ?霊体系の中級のアンデッド。実体がないから、真っ黒い影みたいに見えるの」


「こういうとこじゃあんまり見かけないヤツだな。何かおかしい気がするな…」

猶が何かを気にしている間に、キョウラは魔導書を構えた。

そして「[シャイン]」と唱えて魔法を放ち、アンデッドを一撃で消滅、というか蒸発させた。


「一撃…!やっぱり光に弱いのか…」


「確かにアンデッドは光に弱いものが多いですが、絶対的ではありません。一方で、白魔法なら確実な効果が期待できるので、白魔法を使いました」

すると、猶と紗妃は「見事だな」「やっぱり修道士…じゃなかった、僧侶がいると違うわ」と口々に言った。


「近くに通行人の方がいなくてよかったです。スペクターは、生きた人を見ると襲いかかって取り憑きます。そうなると、被害が拡大しかねません」

キョウラは、2人の称賛には反応せずにそう言った。

というか、今の白魔法だったのか。

正直、光と白の違いがよくわからない。

だが、効果があるならいいとしよう。




その後も、武器屋の前で2体のスペクターを発見した。

「次は、姜芽様がやってみてください」とキョウラが言うので斧を構えたら、止められた。

「霊体系である彼らに、物理は効きません。術か、異能での攻撃をお願いします」

物理攻撃が効かない…っていうのは、なんか幽霊系の敵っぽいな、と思った。


とりあえず普通に術を放つ。

「炎法 [ソロファイア]」

正直一撃で倒せるか不安だったが、普通に倒せた。

しかし、残ったもう1体のほうに気づかれた。


当然ながらこっちに突っ込んで…はこず、両手を上げるような動きを取ったのだが、動きを取り終える前に猶が術で仕留めたので、結局何をしようとしたのかはわからなかった。


「…猶!」


「複数体いるときは、可能な限り全部まとめて倒せるようにしろ。でないと気づかれて、色々厄介になる」


さらに、紗妃も口を入れてきた。

「まあ、真っ向からやり合って勝てる自信があるんならいいんだけどね?でも、あいつらは敵を察知すると仲間を呼ぼうとするから、余程腕に自信がない限りは不意討ちで確実に仕留めたほうがいい」


「わ、わかった…」

仲間を呼ばれるのか。それは確かに厄介だ。

本職の吸血鬼狩りなら、気づかれても大した問題ではないのかもしれないが…俺は慎重にいったほうが良さそうだ。




キョウラが気配を感じたと言うので家の陰に隠れて見ていたところ、数体のスペクターがぞろぞろと武器屋の前に集まってきた。

その数は、実に7体。

先ほどのやつの仲間呼び…おそらく失敗したのだろうが、偶然近くにいたものが反応して集まってきたのだろうか。

「結構いるな…」


キョウラは顔の高さで掌を上に向け、その上でにわかに白い光を光らせて言った。

「ですが、今回町に現れたスペクターはおそらくあれで全部です。あれらを倒せば、今宵の私達の仕事は終わります」


「そうか…しかし、どうしたもんか…」

奴らは棒立ちして動かないもの、あたりを見渡しているもの、ふらふらと移動しているものに分かれている。

このままでは、奴らはまた散り散りになるだろう。しかし、突っ込むわけには行かない。となると、どうすれば…?


「…私が行きます」

キョウラが名乗りを上げた。


「どうするつもりだ?」


「一か八か、一撃で彼らの全滅を狙います。もし仕留めきれなかったら、皆様に残党の処理をお願いしたいです。…いいでしょうか?」


俺たちは顔を見合わせ、そして言った。

「…いいとも」


「ありがとうございます」


キョウラは道に飛び出し、少しだけ奴らに近づいた。

幸い、奴らはまだ彼女に気づいてはいない。


そしてキョウラは杖を抜き、詠唱した。

「『聖なる光、それは我が主の名の元に』…奥義 [聖性の光の顕現]」



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