第118話 下級異形討伐依頼
「それで、クエストの件なんだけど…」
「ああ、そうでしたね。でしたらまずは…こちらの依頼なんていかがでしょう」
マスターは、A4ファイルくらいの大きさの紙を提示してきた。
「えーと、どれどれ…」
何が書いてあるか覗いてみた…のだが、なんと全く読めなかった。
どうやらメテラル語…この世界の公用語とは別の言語で書かれているようだ。
「どうした?…あっ」
俺がどもったので気づいたのか、煌汰が代わりに読んでくれた。
「えーと…ふむ、この町の人からの依頼だね。『ガランの群れの討伐』か。まあ、これくらいならできそうだ」
「ガラン…ってなんだ?」
「魔獣系の下級異形だよ。見た目は茶色くて、ぼさぼさの毛並みの犬みたいな感じ。わりとよく見かけるけど、まあ…良くも悪くも野犬に近いね。ぶっちゃけそんな危険度の高い異形ではないんだけど…普通の人からすると十分危険な存在だね」
「異人なのにか?」
「異人だからって、必ずしも戦いができるとは限らない。異人の肉体は人間より強靭だけど、異形は異人より強いやつもザラにいる。そんな異形にとっては、異人か人間かなんて些細な違いなんだよ」
人間でも異人でも、一般人では異形にはかなわないってことか。
「その通りです。だからこそこうして、私達ギルドに依頼が来るのです」
「そうなのか…。で、その…ガランだっけ?異形を倒せ、っていうのが依頼なんだな?」
「そうだね。最近町の近くにガランの群れが現れたらしくて、今はなんともないけど、念の為倒してくれ…だって。報酬は2000テルン…まあ、それなりの額だね。目的地はアルトン平原…町の東だ。すぐ行ける距離だよ」
「なら、楽そうだな。マスター、これ、受けれるか?」
「承知しました。少々お待ちを…」
マスターは書類に何かを書き、「はい。では、お気をつけて」と言ってきた。
店を出てすぐ、煌汰に尋ねた。
「みんな連れてったほうがいいかな?」
「みんな…の必要はないと思うけど、一応いつも通り4人で行ったほうがいいかもね。あと、できれば弓を使える人を選んだほうがいいと思う。弓は、鳥とか獣に強い技を多く使えるから」
「わかった。じゃ、タッドと輝を連れていくか」
そうして、馬車からタッドと輝を引き抜き、事情を説明してクエストに赴いた。
狩り場…ではなく目的地の平原には、町を出てから10分ほどでついた。ところどころに茂みがあるが、基本的は丈の低い草が一面に広がる、いかにもな感じの草原だった。
そしてその一角に、何かの動物の群れがあった。
全身に茶色いぼさぼさの毛が生えた、野良犬のような生物。フォルムはほぼ完全に犬だが、どれも犬と比べると多少大きい。
あれが、ガランか。
「いたいた…」
輝は弓を構え、技を放った。
「[ヘルハウンドチェイサー]」
やけに大きな矢が放たれ、獣たちの真ん中へと突っ込んでいく。
群れの真ん中付近にいた獣たちは一撃で潰れ、消滅した。周りの獣たちも、瀕死に近いダメージを負ったようだった。
そしてさらにその周り、ダメージの少なかった獣たちはパニックになったのか、散り散りになって走り回った。
見るが早いかタッドは弓を構え、煌汰は術の構えを取った。
「[尾撃の矢]!」
「[氷片三撃]!」
タッドは尾を引く矢を放ち、煌汰は3つの氷の刃を飛ばした。
それらは全て走り回るガランたちに命中し、ほとんど一撃で葬り去った。
俺も行こうと思ったのだが、高速で走り回るガランを的確に狙って攻撃する技や術が思い浮かばず、何もできずにいた。
と、そこへ一匹のガランが突っ込んできた。
その速度は犬よりも早く、また顔の凶悪さと質量も犬のそれとは明らかに違っていた。
攻撃は容易く躱し、左腕に軽くかすった程度だったが、にわかに血が滴った。やはり、伊達に異形ではないようだ。
とは言え、この程度の傷ならなんてことはない。むしろ、今突っ込んできたガランの背後を取り、「ソロファイア」を撃ち込んだ。
お世辞にも強い術ではないのだが、普通に一撃で倒せた。
倒すとその場に倒れ込み、断末魔を上げるように吠えてから動かなくなり、消滅する。なので、仕留めそこねて反撃されるということはなさそうだ。
さて、あと何匹だ…?と思ったのだが、もうガランの姿は見えなくなっていた。
「終わりだな。群れはこれで全滅みたいだ」
煌汰の言葉を聞いて、なんだか無性に残念な気持ちになった。
酒場に戻り、マスターに依頼の達成を報告すると、すぐに報酬を支払ってくれた。
「ありがとうございます。こちらが報酬金になります」
独自の文様が刻まれた、銀色の大きめの貨幣が2枚。これで、2000テルンか。
「おお!ありがたいなあ!」
輝は喜びの声を上げた。
「2000テルンか…これだけあれば、3日くらいは暮らせるな。僕らの住んでる村の近くにもギルドがあればなあ…」
タッドは、少々残念そうに言った。
「まだ時間あるし、あともう一つくらい受けれるかな。マスター、何かない?」
煌汰が尋ねると、マスターは「お待ちを」と言って、メニュー表みたいな冊子をパラパラとめくった。
そしてあるページを開いて、
「おっ、良さそうなのがありました。これなんてどうでしょう」
と、俺達に提示してきた。
そこに使われている文字は、タッドと輝にも読めないようだった。
どうやらこの世界では、元々種族ごとに日常的に使われている言語が違い、今の公用語である「メテラル語」はそれを統一するために後から作られた言語であるらしい。
そして、この騎士の国でメインに使われている言語はドイツ語だという。
なぜ人間界の言語を使うのか…というツッコミはさておき、煌汰に読んでもらった。
クエストの内容自体は「北の平原に集団で現れた浪人を討伐する」というものであるらしく、そんな変な感じはしなかったのだが、問題は受注を決めた後のマスターの言葉である。
「書類には記載していませんでしたが、ひとつ、注意点がございます。まれにですが、高位の異形や危険な異人が現れることがあるのです。もしそのようなものに出会い、歯が立たないと思ったら、決して無理はせずに撤退なさってください。大丈夫です、たとえ依頼に失敗しても、処罰などはありません。ご自身の命を最優先にしてください」
そう言われると途端に不安になるのだが、ちゃんと依頼を受ける側の心配もしてくれるのか。そこはしっかりしているようでよかった、という安心感も生まれた。
「わかった。気を付けて行ってくる」
タッドと輝を馬車に戻し、代わりにキョウラとイルクを連れ出し、クエストに向かった。




