第8話 異人のギルド
木箱とか樽は結構いっぱいあった。
持ってくの大変そうだな、と言ったら、キョウラと樹は全部を宙に浮かせ、「行きましょう」と言ってきた。
いいなあ。
本当、羨ましい。
俺も魔法、使いたいな。
まずは村に戻って盗賊の壊滅を報告した。
村人達はめちゃくちゃ喜んで、謝礼だとか言って大量の銀色の貨幣…まあ、要はお金か、をくれた。
「こんなにいただけるなんて…」
キョウラはちょっと申し訳なさそうだった。
樹とキョウラから聞いたのだが、この世界では通貨の単位は「テルン」と言い、人間界の通貨の倍のレートだそうだ。
で、今村人達から渡されたのは4万テルンだったらしい。
つまり、円に換算すると8万。
確かに、結構な額である。
樹曰く、「これなら、しばらくは3人で旅が出来るな」とのこと。
この世界の宿や店の値段がどんな感じなのか、気になる所だ。
さて、ギルド、というのは例のファンタジー感あふれる建物だった。
それは村からしばらく行った所にある。
「あ、なんだここだったのか」
「姜芽、来たことあるのか?」
「ああ。こっちに来てすぐキョウラに会ったんだが、その後キョウラに連れてこられたのがここだったんだ」
「そうなのか?」
「はい…姜芽様は、盗賊に襲われていた私を助けてくださったんです」
「へえ…でも、なんで姜芽をギルドに連れて行こうと思ったんだ?」
「お礼を言ったのですが、言葉が通じなかったので…もしかしたら白い人ではないかと思い、少々強引にではありますが、一緒に来て頂いたんです」
「そういうことな。で、何か言われたか?」
「いや、何も…」
俺はそう言ったが、キョウラは違った。
「はい…経緯をスタッフの方に説明した所、やはり恐らくは白い人だろうと言われ…とりあえず面談という事になり、面談をした際に姜芽様からお話を伺い、同時に翻訳魔法をかけていただきました」
「ふむ。それで?」
「スタッフの方が聞いた所、姜芽様は創造主様にお会いしたそうで…何か特別な使命を与えられて転移してきた方なのだろう、という事で、報告を受理していただけました。
恐らく、今頃は本部の方に報告が届いているかと…」
「そうか。なら安心だな」
「あのー、さっきから何の話をしてるんですかねえ?」
空気を壊すようで申し訳ないが、言わずにはいられなかった。
「…あー、わかんない…か。まあ、そうだよな。
まず、白い人ってのはこことは違う世界…特に人間界から来た者の呼び名だ。
聞いたかもしれないが、ここは「黒い世界」って世界でな、これは『黒』って意味なんだ。そして、ここでは別の世界、特に人間界の事を白い世界って呼ぶ。だから、白い世界から来た者、って意味でそう呼ぶんだ」
「ほう…てかノワール、とかブラン、ってなんか聞いたことあるな」
「元は人間界の言葉だからな。で、ギルドってのは…まあ、要は役所みたいなもんだ。新しく異人になった者は皆ここに来て、正式に籍を登録してもらう事になってる。登録を済ませると、正式に関所とか国境を通れるようになるし、いろんな施設を使う事も出来るようになる」
まさしく、役所みたいな感じだ。
というか、ギルドって異世界ものでよく聞く単語のような気がする。
まあ、その場合は冒険者ギルド、なんてよく言うが。
「特に、新しく「黒に染まった」者…つまり、別世界からこっちに来た者は、こっちの住人が見つけたら即刻ここに報告しなきゃない。そして詳しく調査をして、場合によっては元の世界に返したりする」
「え?てことは、俺返されるのか?」
「いや、それはないと思うぞ。だって、創造主…まあ、桐生だな…が連れてきた、って言ったんだろ?」
「まあ…な。じゃ、大丈夫なのかな?」
「だと思う。それより、入ろうぜ」
カウンターの男に樹が経緯を説明した。
「では、あなた方はソネット盗賊団を壊滅させたと?」
「ああ。親玉も倒したし、団員もみんな殺した。
そして、これらは奴らが溜め込んでた盗品だ」
「これらの元の持ち主が私達ではわからないので、可能であればこちらで探していただきたいのですが」
「…わかりました。とりあえず、全て引き取りましょう。」
モノを全て向こうに渡し、樹達が後ろを向いた時だった。
「姜芽様」
突然、スタッフに名を呼ばれた。
「…ん?」
「申し訳ございませんが、こちらへ」
「わかった。…先行っててくれ」
樹達を見送り、俺は1人カウンターに残った。
「生日姜芽様、あなたの登録が完了しました。これにより、あなたは正式に転移者、即ち別世界からこちらに転移してきた者として認められ、各地の施設の使用、関所の通行、及び旅行が可能になります」
「旅行?」
「はい。長期間に渡って不特定多数の国や地方を回る正式な許可が降りたという事です」
よくわからんが、ようは冒険者になる事を認められた、みたいな感じだろうか。
「それから、こちらを。転移者及び転生者の方にお渡ししているものです」
手渡されたそれは、地図のようだった。
字は読めない…と思いきや、不思議と読めた。
「これは、地図…?」
「はい。この大陸…セントル大陸の全体図です。
この大陸には、8つの大国と、大小様々の町。そして、数々の危険な場所があります。くれぐれもお気をつけ下さい。
…それでは、『防人』生日姜芽様。改めて、ノワール界へようこそ。
この世界では、穏やかな生活をするか、過酷な冒険の旅をするかは自由です。この地図を手に、どうぞ快適な異世界生活を」
スタッフは、そう言って頭を下げた。
外に出ると、キョウラが走ってきた。
「姜芽様」
「ああ…待たせたな。地図をもらったよ」
「まあ。それでは、だいぶ移動が楽になりますね」
「だな。あ、樹。地図ってのもらったぜ」
「やっぱりもらったか。オレももらったもんだ。…懐かしいな、この紙の質感」
「懐かしいって、お前何年前にこっちに来たんだよ」
「んー、大体1300年くらい前かな」
「はっ…!?」
こいつ、今1300年、って言ったか?
なんだ、樹はひょっとして仙人か何かなのか?
「まあ…ずいぶんな長生きをされているのですね」
「いや、長生きなんてもんじゃないだろ…」
「あー、実はな、オレは『ブレイブ』の一員だからこんなに長生き出来てるんだ」
「ブレイブ…?」
「創造主が作った組織だ。オレの他に6人が所属してる。みんな、昔あいつの知り合いだった奴らだ。和人…じゃなかった、姜芽の知り合いもいるぜ」
「マジか…?」
「ああ。この先のセドラルの町に、みんなで住んでるシェアハウスがある。しばらくは、そこを拠点にするのはどうだ?」
「…だな。どうせ家の宛もないし」
すると、樹は変な作り笑いをした。
「ふっふ…それなんだがな、実はシェアハウスに1つ空き部屋があるんだ!それも、かなり広い部屋がな!」
「えっ、てことはまさか…」
「そのまさかだよ。ほら、行くぞ!」
樹に引っ張られ、ギルドを後にした。




