第109話 騎士の話
森を抜けるまでの間、煌汰から色々と話を聞いた。
煌汰は6年ほど前までこの国、それも首都であるアラルに住んでおり、国の軍隊でもある「オレグ王立騎士団」に所属していたという。
「まあ、僕は階級的にも種族的にも下位だったから、身分としてはほとんど一般人みたいなものだったけどね」と言うので、詳しく聞いてみた。
最初に、騎士系種族は騎士、聖騎士、魔騎士、霊騎士の順で昇格していく。このうちの霊騎士は本当に数が少なく、騎士の本国であるロードアでもほとんど見かけないため、説明は割愛する、とのことだった。
騎士は国や血統、民を守るべく戦う種族で、この系統の基本種族となっている。
寿命は大体350年程で、5年の命を持つ…つまり5年ごとに一つ年を取る。
戦士などと同様に人間から昇華する事が多い種族だが、戦士や防人と比べると戦術の中に美しさや気品があり、また礼儀や秩序を重んじる…とされているが、実際は必ずしもそうではないらしい。
まあ、これに関しては正直想定内だ。
聖騎士は経験を積んだ騎士が昇格する存在で、総じて光の術を扱う事が出来る。
元々光を使える騎士が聖騎士となった場合は、魔力が研ぎ澄まされより強力な魔法や術を扱えるようになる。
普通の騎士より優れた能力と知力を持ち、騎士の集団においてはリーダーとなりやすい。
20年の命を持ち、寿命は1600年程度。
ちなみに、騎士が聖騎士になるには一定以上の修行が必要で、それを完遂するには概ね10年から50年程度かかるらしい。
魔騎士は聖騎士の上位種族で、光だけでなく複数種類の属性の魔法を扱うようになり、戦術の幅が大きく広がる。
それに応じて耐性がある属性も増え、戦闘において落ちにくくなる。
100年の命を持ち、大体7000年くらい生きられるらしいが、人によってはそれより生きることもあるという。
昇格には早くて70年、遅くて300年程度の年月を要し、該当する者の数も少ない。
豊富な経験を積み、かつ優れた実力を持つベテランの聖騎士だけが、魔騎士になれるとされている。
そして、この国では全ての騎士に階級というものが与えられており、それは下級、中級、上級の3つの階級に分けられる。
それは本人の種族上の階級と実力によって分けられ、大雑把には下級が普通の騎士、中級が聖騎士、上級が魔騎士、となっている。
下級はいわゆる一般国民で、労働と納税の義務を背負う一方、兵役の義務はない。ただし、志望すれば国の軍に入ったりはでき、そうなれば労働の必要はないものとされる。
中級は兵役の義務を背負うが、労働や納税の必要はない。故に普段から国の施設内で武芸に励んでいる者が多く、「国の兵士」としての役割を担っている。
上級は納税や兵役の必要はないものの、国の上層部として働く必要があると同時に、上流階級としての誇りを持ち、その肩書きに恥じない振る舞いとあり方が必要とされる。
煌汰は「騎士」なので、最下級の下級の身分だった。
最初は町中で武器鍛冶をしていたそうだが、やがて戦いに出たいと考え、王立騎士団に入隊した。
しかし、そこでのトレーニングの日々は想像よりずっとキツく、とてもではないがついていけなかった。
結局、煌汰は3年ほどで騎士団を脱退。その後は素直にシェアハウスに戻り、暮らしていたという。
「本当にキツかったよ。今思うと、自分でもよく3年持ったな…って思う」
煌汰は苦笑しながら言った。
「言い訳するわけじゃないけど、王立騎士団に入ってもすぐ抜ける人は珍しくないんだ。だから、町の人達は僕を変な目で見たりはしてこなかった。けど、僕はシンプルにみんなのところに戻りたいって思ったんだ。だから、帰ってきた」
そりゃまあ、そうだろう。
自衛隊みたいなもんなんだろうし。
「僕は、悪人と戦ったり、大切なものを守るために戦う騎士になりたいと思った。だからアラルに行ったんだけど…ちょっと僕にはハードルが高すぎた。でも、後悔はしてないよ。あっちはあっちでいい人にも会えたし、あの経験があったから、僕はシェアハウスに戻ってきた。そのおかげで、こうして今、みんなと冒険出来てるんだしね」
煌汰はそう言って笑った。
悲しげな様子を微塵も見せないあたり、本当に後悔していないのだろう。
さて、そうこうしているうちに森を抜けた。
本当に、半日もしないうちに抜けられた…と思ったのだが、考えてみれば当たり前か。
かつて、ここに住んでいた煌汰の言う事なのだ。間違ってはいまい。
その先には、昔教科書で見た「スラム街」のような集落があった。
どうやら、ここがラニエダのようだ。
「見るからに貧困街だな…」
「道が狭いから、透明になってると危ない。魔法を解除して行こう」
煌汰の助言通り、馬車の透明魔法を解除して進んでいく。
道は確かに狭く、普通に人が路上で寝たりしていた。
いかにもスラムって感じだな…と思っていると、突然妙にがたいのいい男が現れ、馬車の前に立ちはだかった。




