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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
4章・ロードアの長旅

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第107話 ロードアの謀略

今日は、なんだか眠れない。

いつもなら、すんなり眠りにつけるのだが。

目をつぶっても、眠くならない。

こういう時は、外をぼんやり眺めるに限る。


月の光が窓より差し込み、天然の木で作られた机と、そこに伏せる彼の顔を照らす。

日当たりが悪く、湿っぽいこの部屋の中で、自然の温もりを得られるものはこの机だけであり、鼻を近づけるといつも陽の匂いがする。

この匂いが好きな彼は、いつもこの机につっぷして寝ている。


イーダス…本名をイーダス・ベリアト=ロードア。

彼は、ロードア国の現騎士王ギルックの息子であり、唯一の王子だ。

両親に似た美しい顔立ちと極めて真面目かつ真っ直ぐな性格を持つ彼は、国民からの人気は高い。

また、彼には妹もいる…名はジームリンデ。

彼女も兄と同様の美貌を持ち、それは他の貴族の女すらも嫉妬するほどのものである。


2人の母である王妃シーアは、今から24年前に流行り病で亡くなっている。

しかし、2人は父の努力もあって、これまで幸せに暮らしてきた。

だが、最近はそうもいかなくなってしまっている。


2ヶ月ほど前、父の元に突如としてアジェルと名乗る男がやってきた。

頭からすっぽりと紫色のローブをかぶった、どこか不気味なその男は、唐突に父の軍師になることを申し出た。


このような怪しい者の要望を、父が聞き入れようはずはない。

イーダスはそう思っていたのだが、なぜか父はすんなりと聞き入れてしまった。

そうして、その男は常に父の隣に軍師として立つようになった。


それだけならよかったのだが、あの男が来てからというもの、日に日に父の顔色が悪くなっているような気がする。

妹に相談したら、お兄様の気のせいでは、と言われた。

彼女は勘が鋭く賢いため、これまでに彼女の意見を疑ったことはなかったが、今回ばかりはどうも違った。

イーダスは、どうしても妙な不安を拭えなかった。




どうにも寝付けず、中庭の散歩でもしようと思い立った彼は、父の部屋の前を通りかかった時にアジェルと父の会話を漏れ聞いた。

「ギルック殿、何をためらう必要があるのです?相手はどこの馬の骨かも知れぬ旅人の一行…ひと思いにやってしまってもよいではありませんか」


「だが、彼らの事はエウルから聞いておる。あやつの話を聞いた以上、そのような事はできん…」


イーダスは扉に張り付き、聞き耳を立てた。

「エウル戦士王?彼から話を伺ったのですか?」


「…なんだ、それはそなたも知っておるはずだろう?」


「…ええ、もちろん。ですが、私はあなた様の軍師として、この国を守る義務があると思っております」


「…なに?まさか、エウルが嘘を言っていると言うのか…!?」


「滅相もない。問題は、その旅人達です。まことの旅人ならば、各地のギルドへの登録を行って国籍を獲得し、関所で明確に提示するものです。しかし、彼らは関所で国籍の提示をしなかったとのこと。おそらくは無国籍…すなわちギルドへの登録をしていない、不法入国者であるかと思われます」


「仮にそうであったとして、彼らはエウルとアルバンを救ったと聞いた。そのような者を疑うなど、誰ができようか」


「確かに、エウル王が言っていた者たちの存在自体は事実でしょう。しかし、今回関所を通過したという者達と彼らが完全に同一の存在であるという保証は、どこにありましょうか?もし、それが彼らに扮した賊か、あるいは異形の類いであったら、どうなさるおつもりですか?」


「!?いや、そんなはずは…」


「ギルック殿、あなたは少しばかり、他国の存在を甘く見すぎておられます。昨今の異形や賊は、実に賢く狡猾です。殺人者ですら、防人や戦士にうまく化けることもあります」


「…しかし、もし本物であったら…わしは彼らに謝るどころか、エウルにも顔向け出来なくなる。兵を送り、彼らを襲わせるなど…そんなことは、とてもできん。賊を使うなど、もってのほかだ」


「…そうですか。ならば、私にできることはここまでですね」


「なんだと?」


「先ほども申しました通り、私はこの国を守る義務があると思っております。しかし、私の声が届かぬのなら、あなたとの関係はこれまでです」


「…ならん!それだけはならん!そなたがいなくなれば、この国は終わりだ!ただでさえ異形どもが凶暴化し、優秀な者が減った今、そなたまでいなくなったら…!」


「であれば、私の助言をお聞きになられた方がよろしいかと」


「うむむ…しかし…」


「葛藤があるのですか?であればやはり、私の居場所はここにはありませんね…」


「ま、待て!わかった、だからわしの元を離れんでくれ…!」


「…ならば、どうするのです?」


「…西の森の野盗どもに、布令を出しておく。奇妙な馬車を走らせる旅人の一団を捕らえた者には、金をやると。…これで、よいであろう?」


「ふふ…まあいいでしょう。なら一つ提案をさせていただきたいのですが、ここは一つ、イーダス殿を餌に使ってみてはいかがで?」


「…イーダスをどうしろと言うのだ!?」


「いえ、何も難しいことではありません。彼らの捜索と討伐を、率先して行ってもらうのです。そうすれば、野盗たちも信じるでしょう」


「馬鹿を言うな…!イーダスは、わしのたった一人の息子だ。ジームリンデも、わしにとってはいわばシーアの忘れ形見…たとえそなたの頼みであっても、これだけはできぬ!」


「…わかりました。ならば、無理強いはしません。西の野盗は、蛮人も少なくない危険な賊。彼らに襲われれば、壊滅はしないまでも怖い思いをして、たちまち逃げ帰るでしょう」


「本当に…それでいいのだな?」


「ええ。そして私もまた、あなたの元に残りましょう。この知恵と魔力は、あなたのために…」



イーダスは、居ても立っても居られなかった。

すぐに愛用の剣を取り、裏口から飛び出し、気づかれないように城を抜け出した。


向かうは、西の森。

彼らが賊に出会う前に、このことを伝えなければ。

その思いで、ひたすら走った。




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