第105話 拠点改造
海に入った時と同じ海岸から上がった。
既に太陽が真上に来ており、海面から顔を出した途端にむわっとした熱気が襲ってきた。
リトたちには、最初そのまま陸に上がってもらった。
水から上がり、砂浜を踏みしめた2人。
体が重たいとか言ってたが、その割には俺が思ってたより普通に歩いていた。
ややゆっくり目にだが、走ることも出来ていた。
一応、水守人は海底を歩くこともあるので、地面に足をつけて歩いたり走ったりという事自体は出来るらしい。
リト達は、はじめての地上に感動していた。
「すごい…なんだか、とってもいい気分…」
「ああ…私たち、陸に来たんだ…!」
普通に歩くだけなのに、一歩歩くたびリトが新鮮な表情をするのは少々大げさにも感じられる…が、まあ俺も全く知らない新しい大地を踏んだら、少なからず興奮するだろう。
そう考えると、気持ちはわからなくもない。
馬車があるかちょっと心配だったが、苺が魔法を解くと普通にその姿を現してくれた。
さて、これからいよいよ本来の目的地であるロードア国へ向かうわけだが、その前にちょっとばかり馬車を改造することになった。
といっても部屋を一つ増すだけだが。
一応既存の部屋の空きはあったが、リトたちはみんなとは色々と違うし、2人で一つの部屋を使わせたほうがいい。そうなると、一人用の部屋では狭い。それに、自分達用の部屋を作ってもらったほうが、本人たちも嬉しいだろう。…というわけで、海人2人用の部屋を新調することになったのだ。
輝と樹と3人でやるつもりだったが、柳助も加入してくれた。
俺達は、それまで普通の壁だった所をくり抜くようにして新しい部屋を作り、また内部に置く家具も作った。
特別製の部屋であるため、もしかしたら新しい材料が必要になるかも…と思ったのだが、幸いにも材料を取ってくる必要はなかった。
部屋に置く家具は、部屋になる空間を掘り抜く時に出た削りくずなどを再利用して作った。
本来なら捨てられるであろうそれらを一点に集め、輝が魔力を込めて家具に変化させるという、なんともファンタジックな方法で家具を調達したのだ。
このためか、新しく材料が必要になることはなかったのだ。
そしてそれらは、他の部屋にも負けないそこそこのクォリティのものばかりだった。
俺も作業を手伝ったが、部屋を作っている最中にも、なかなかいい感じの家具じゃないか、と思えた。
また、彼らの特性への配慮も怠らない。
具体的には、新しく増設した部屋の中央に樹が生み出した『水心玉』というものを配置したのだ。
俺には何なのかよくわからなかったが、どうやらそれは水の魔力の塊で、一定の範囲内に水の魔力の効果を与えるらしい。
海人は、水の魔力があれば地上でも活動できる。また、その純度が高ければ、空中を水中のように泳ぎ回ることもできるそうだ。
しかも、樹は持っている魔力が高いこともあり、その範囲は馬車内全てに及ぶとのこと。
これがあれば、リトたちは部屋の中どころか馬車内では自由に動き回ることができる。
魔力の純度を高くし、空気中を泳げるようにしたのは、海にいた時の感覚を忘れずにいてほしいという樹の願いだそうだ。
猶やイルクには「そこまでするか?」「もう十分なんじゃないか?」なんて言われたが、俺達はそれに納得しなかった。
全ては、リトたちに快適な旅を楽しんでもらうためだ。
2人は俺達とは何もかも違う。単独で出来る行動には制限があるし、細かい勝手も利かない。これは、それらを可能な限りフォローするための行為なのである。
そうして、ついに部屋が完成した。
かかった時間は、丸2日。
その間、俺と輝と柳助以外のメンバーは馬車の内外で好きにさせていたが、部屋が完成するとみんなして見に来た。
それで口々に「広いなー!」とか「これなら快適な暮らしが出来そうね」とか言ってたが、重要なのは本人達がどう思うかだ。
だから、俺はリトとイルを招待した。
「君ら2人のために、特別な部屋を用意した。…どうだ?」
「…」
イルは恐る恐る部屋に入り、あたりを見渡した。
「これが、私達の部屋…」
「ああ、そうだ。リトはどうだ?」
リトは、イル以上に慎重に部屋に足を踏み入れた。
そして、すぐに泳ぎ回れることに気づいたようで、驚いた顔をしつつ、空中に飛び上がっていた。
「すごい!空を…空を泳げる!」
「えっ!?…あっ、本当だ!」
イルも驚きながら飛び上がり、部屋を泳ぎ回った。
「ははっ…すごい…すごいぞ!水がないのに泳げるなんて!」
そこで俺は、ネタばらしをする。
「だろ?これにはちゃーんと理由がある。部屋の中央を見てくれ。その青い玉は、樹が作った高純度の水の魔力の塊だ。それがある限り、君らはこの部屋…いや、この馬車の中を自由に動き回れる。泳ぐことも、歩くこともできるぜ」
「そうなの…あぁ、まるで夢みたい!陸に上がっただけじゃなく、空を泳げるなんて!」
リトは、幼い子供のような眩しい笑顔で室内を泳ぎ回っていた。
「まさか、私達のためにここまでしてくれるなんて…あなた達は、本当にいい人だ。ありがとう…ありがとう!」
イルは頭を下げる。
こうも感謝されると、こちらも嬉しくなる。
頑張った甲斐があったというものだ。




